クマさんのバイク専科

2020年へ向けてシェイパーは大忙しだろうな〜!

2020年の東京オリンピックの正式新種目に採用された競技の1つがサーフィンです。IOCは若者のオリンピック離れ、無関心に危惧を感じて、オリンピックの継続開催のために、若者が注目するであろうコンテンツの発掘や採用に力を入れています。カリフォルニアやハワイでサーフボードブランドに就職したり、プロサファーが出入りしている工房で修行をしていた、日本のプロサーファーの何人かが制作を依頼しているシェイパーがいます。有名サーフボードブランドは個人のファクトリーから始まったメーカーが、アメリカの西海岸やオーストラリアにあります。

 

個人の工房レベルでは生産数が限られてしまいます。ワールドワイドのビッグビジネスになると、手仕事部分で手間がかかると、マスターピースが開発工房で作られて、製造拠点をアジアに移して、マスターピースそっくりに大量生産されて市販されます。ビジネスが大きくなるとサーフボードやウインドサーフィンだけでなく、スポーツ用品全体に間口を広げるケースがあります。オーストラリアのサーフィン用品ブランドのニールブライドは、スポーツバイクフレームの設計グループをリクルートして、アジアに製造拠点があるカーボンフレームの工場と契約して、エアロロードフレームを製造しています。日本のスポーツバイク市場にも参入して代理店も存在します。

 

プロの使用するサーフボードは、スチール製フレームの自転車の時代と同じで、大手ブランドの特別なファクトリーで、シェイパーにより1枚1枚、プロサーファーの希望と競技会が開催されるポイントの波の高さやピッチ、波が崩れるポイントなどの特性が配慮されて製造されることもあります。野球用品のビッグブランドのミズノは、養老工場内にプロ野球選手のオーダーに応えて、ストックしてある貴重な原木から選定して、バットを製造して供給する部門があって、当時は久保田さんという名人職人さんが、1本1本四角い木材から、選手の要望に合わせて太さや重さやバランスを調整して削り出していました。

 

グローブの部門にも特別な職人さんのグループがあって、厳選されているなめされた牛革から、選手の求める要望に合わせて、ファインな部分を見極めて型取りして、カーブの違い、クッションの位置など微妙に違い、1つ1つ工業用のミシンや革紐で縫い上げられていましグローブは手に馴染むように、硬球がポケットに収められて、慣らし専門の職人により必要な部分の革がオイルドされて開閉しやすいようにしたり、選手の手のくせに合わせて慣らし作業が行われて、新しいグローブをおろしてもすぐに手に馴染むような状態で出荷されていました。ミズノプロのラインのグローブとは、だいぶ形状も、使用されている革も色もちがいます。

 

トッププロサーファーが手に持つサーフボードだって大人の事情はいろいろあります。スポンサーの大手ブランドのロゴが入っていますが、プロサーファーが子供の頃から付き合って来た、サーフィンが盛んな地域の小さな工房のシェイパーが削っているボードというケースもあります。サーフボードは、発泡スチロールの分厚い板から、競技会場の波の特性、体重の変化や、技の特性をリサーチして、シェイパーの経験やサーファーの注文で、長さ、反り、厚さ、カーブを削り出して、グラスファイバーと樹脂で外側を固めて、磨きをかけて、実際のポイントで使って見て、フィンの本数や位置を決めて仕上げます。

 

サーフボードの素材の発砲スチロールの塊は型に素材をインジェクションして、気泡ができて固められて均一な素材として製造されていましたが、トッププロ用の素材は部分的に気泡の大きさや密度がインジェクソン成型される時にコントロールされているようです。シェイパーは工房の治具に素材を固定して、削り出す予定のラインを引いて、エアフィルター付きの吸塵ファンを回して、ゴーグルをかけてマスクをして、塊からマシンを使って削り出して、ラインを目で確認したり、縦横のケージを当ててさらにシェイプを細かく仕上げます。

 

治具に素材を固定してから2日か3日でイメージしたサーフボードへのシェイプアップが終了します。シェイパーはグラスファイバー繊維や有毒ガスから身を守るために、タイベックスなどの防塵の作業着を着て、活性炭などのフィルター付きのガスマスクを付けて作業します。サーフボードの表面を強化するために、グラスファイバー繊維がサーフボードの形に合わせてカットされて、樹脂が塗られたサーフボードに張り付けられます。樹脂が硬化する段階で有毒なガスが発生するのでエアフィルター付きの換気装置を稼働して作業が行われます。

 

最近は2020年のオリンピック種目になって、会場の波に合わせた競技用のショートボードだけ複数制作を依頼されるのでつまらないというのです。実際の大会では技の切れ味や回数が問われて採点されるので、ボードの動きを不安定に感じるほど挙動が軽いショートボードが全盛なのだそうです。ハワイ島の5mをはるかに超える波が連続しているポイントになると、もちろん切れ味鋭く技を繰り広げるショートボードのユーザーも見ますが、技は直線的になりがちですが、すごい安定感で駆け抜けるロングボードを見ることがあります。ゆったりしたか軌道を描くサーファーの動きが違うので、遠くから見ていても見分けがつきます。

 

彼はビッグウエーブを楽しむサーファー、そういう情景を思い浮かべているのだと思います。でも、ワールドシリーズも五輪も、2人1組のトーナメント方式で決められた時間内のパフォーマンスを採点する種目です。制約なく波に乗って遊んでいるサーフィンとは全く別の世界の話しです。オリンピック種目の中で、4年間、アスリートが世界を転戦して世界ランキングのポイントを獲得する経験を積んで、どんなに頑張ってトレーニングしても、五輪のその日、その時にいい波との出会いがなければパフォーマンスを発揮できない、最も運が大きく勝敗を左右する採点種目だけど、とりあえず日本人選手のために、いい板作ってほしいな〜。ではでは。