クマさんのバイク専科

ビギンの凱旋コンサートだったはずなのに!

その年の沖縄返還記念のコンサートは、那覇で最も大きいホールが満杯になっていました。リハーサルの時間があって、夜になって始まりました。楽屋では、生の森山良子さんがそばにいました。ファンだったのでワクワクしました。小柄だけどキレイで、清志郎さんのバンドのドラマーと話していました。清志郎さんの楽屋にコンサートのトリになるビギンのメンバーとマネージャーがご挨拶に来ました。沖縄のイベンターとしては、沖縄から東京へバンド活動の拠点を移して、テレビで大活躍しているビギンの凱旋コンサートという意味合いがあるイベントだったようです。

 

コンサートのプログラムが進み、ザワワで有名な沖縄戦に関連した楽曲をビギンから提供されていて、沖縄で圧倒的な人気がある森山良子さんのコーナーが30分ほどあって、清志郎さんの出番です。楽屋で入念な動的なストレッチを行い、バイクボトルからBCAAウオーターをゴクゴク飲んで、汗が吹き出したままステージへ走って行きました。前の席から後ろの席まで、マイクを片手で持って登場と同時に総立ちです。今までの出演者とまるで違う反応です。曲が進むにつれて熱狂的な総立ち状態です。沖縄の人は音楽がかかると100%が踊り出すと言われていますが、ここまで凄いのは見たことがありません。

 

ノリが違います。熱狂の後部の座席まで総立ちの状態が続きました。清志郎さんて沖縄関連の歌を歌っているわけでもないのに沖縄の人に人気あるんだと思いました。トリのビギンが登場しました。凱旋コンサート仕立てでしたが、座席半分くらいまでが立って反応していました。清志郎さんの時の半分ぐらいな感じでした。舞台袖から見ていて3人が何か囁き合っているのが見えました。次の曲を聴いてびっくり、セットリストと違う沖縄で活動していた時代の曲に変更されました。それを聞くと少しは盛り上がりが増しましたが、それでもホール全体の座席の3分の2ぐらいまでが立ち上がっただけで、さっきのような熱狂ぶりではありません、曲を沖縄よりに変えたのにという感じが漂っていました。

 

明らかに3人にはどうしてなんだという思いが生まれていました。そんな妙な雰囲気のままビギン単独の時間が終わり、清志郎さんとビギンとのコラボレーションが最後にありました。3人の時と違ってドッカーンという受け方に会場の雰囲気が一変しました。泉谷しげるさんが、「清志郎はライブの帝王だからよ、その場をみんなかっさらっていっちまうからな」とつぶやいていた意味が分かった気がします。

 

NHKの歌番組にもいっぱい登場して、東京で沖縄ブームを作ったのが沖縄出身の3人組のビギンでした。数年離れていた沖縄での大きなコンサートでのメインゲストとしての出演だったわけです。地元への凱旋ですから、当然受けると思っていたでしょう。ところが現実は清志郎さんが最も騒がせていました。どういうことだろうと思ったでしょう。アンコールが終わって楽屋でアイシングしていた清志郎さんのところに、ビギンの3人とマネージジャーさんがへこんだ雰囲気で訪ねて来ました。楽屋の中にこりゃまずいな〜という雰囲気が漂ってきて、スタッフが立ち去って行きました。

 

僕は観客席にいた松永店長と話をしに行きました。「清志郎さんの時が一番盛り上がっていたね、ビギンの凱旋コンサートなのにね」というと、「そうだね、すごかったよ」と、松永店長も観客席で感じていたようです。しばらくして楽屋へ戻りました。清志郎さんの向かいに4人はまだ座っていて、4人とも涙ぐんでいました。「僕たち何がいけないんですかね、教えてください」と坊主頭の人が言っていました。数秒あって「沖縄にこだわり過ぎているんじゃないの」と清志郎さんが言い放ちました。

 

首をさらにうなだれる4人でした。僕にはどういう意味かわかりませんでしたが、4人は去って行きました。地元沖縄に凱旋したはずのビギンのコンサート後の打ちひしがれた姿を見て、ステージの厳しさ、真剣勝負なんだな〜と思いましたし、音楽や人気商売の世界には、なんだか厳しい心の葛藤や生き方にも関わる競争の世界があるんだ、ということは伝わってきました。目の前にいる髪の毛をツンツンさせて、爪にはカラフルなマニュキアを塗り、デビットボーイみたいな化粧をした、4人に向き合って話しかけている人は、そんな厳しい激しい競争の世界を30年以上サバイバルして来た人なんだなと思いました。

 

打ち上げでは森山良子さんと居酒屋で合流して、豪快な飲みっぷりを拝見させてもらいました。清志郎さんはビール、良子さんは泡盛のロックをゴクゴク飲んでいました。沖縄の居酒屋さんは午前2時3時までの営業は普通です。色々沖縄の料理を食べて、3時近くにお開きになりました。ホテルへの帰り道、良子さんが閉店していた露店の椅子を持ち出して、泡盛と氷とカップが入ったアイスボックスを抱えて。ゆいレールの通りに面した場所で飲んでいました。清志郎さんと僕は呼び止められて、「朝まで一緒に飲もうよ〜」と誘われて、手を引っ張られて椅子に座らされました。

 

「お酒を飲めないんだよな〜」と言っても、ビールを飲む大きコップを渡されて、ロックアイスを入れて泡盛をたっぷり注がれて、「飲むまで帰さないわよ」と言われ、空が明るくなり始める頃までお話ししていました。2人はいたずら好きらしく、「マジック持ってらっしゃいと」言われて、ホテルのフロントで借りて来ました。良子さんがまず止まっていた軽トラックのボディにサインを大きく書きました。すると、「あなたも書きなさいよ」と清志郎さんに太いマジックを渡しました。三角の傘を描いていつものサインを書いていました。朝、持ち主は驚くだろうな〜。良子ママに捕まって3杯飲まされ、その朝はぐでんぐでんでしたけど、無事に東京へ帰りました。ではでは。