クマさんのバイク専科

昔ながらのオムライスをたべた〜い!

高校生だから、東京に通っていても1万円くらいと、毎月のお小遣いも少ないのに、老舗の上野の横尾双輪館に通っては、小さなショーウインドに収まっている、カンパニョーロのレコードやスーパレコード、サンプレックスのスーパーLJ、ユーレーのジュビリーなどの変速機セットを眺めていました。3万円や5万円もする製品でした。東京オリンピックの公式メカニックとして活躍した横尾明さんが店主です。ちょうどビルに建て替える時期でしたから、元のお店の近くの仮店舗で営業していた時期です。

 

上野駅で山手線を降りて、駅前広場にある横断歩道橋を渡って、米軍放出品や警察や消防署の放出品がぎっしり置かれたガレージのようなショップを覗いて、かっこいいジェットパイロットやヘリコプター搭乗員用のレシーバーの部分がこんもり盛り上がったパイロット用のヘルメットなどを見たり、米軍のコンバットCレーションなどを手に入れたりして、てくてくと10分くらい歩きます。角には矢竹が植えられた鉢が置かれていて、弓矢を作っている小さなお店があって、ここを左に曲がると横尾双輪館があります。仮店舗でしたから、アルミサッシの戸口をガラガラと開けてコンクリートの打ちっぱなしのお店に入りました。

 

お店の中の品物をゆっくり見たいほど、当時としては珍しいというか、ハイエンド向きな品揃えで、チネリ、コルナゴ、ロッシン、デローザ、レニャーノ、ビアンキ、カサーティ、ジターンなど、イタリア、フランスの香りがプンプンするような、僕にとっては憧れの製品群が置かれていました。特に目を引いたのがオレンジ色のコルナゴのピストでした。真っ白なコードでオレンジ色のトレッドゴムのタイヤがセットされていました。フレームサイズもちょうど頃合いで芯トップで515mmでトップチューブが530mmでした。ブルーのデローザのフルカンパのロードもよだれが出そうでした。もうそれだけでぼーっと眺めていました。

 

きっと買えないのに眺めているんだろうなと、横尾さんにはお見通しだったと思います。それでも、あまりのぼーっとぶりに、声をかけてくれました。長澤くんが勤めていた頃の、クサーノの工房でウーゴ自身が火を吹いて作っていたデローザだよ、芯トップで520mmでトップ長は525mmと説明してくれました。まさか、数ヶ月後、このデローザが自分のものになるとは思ってもいませんでした。高校の卒業祝いに何が欲しいと言われ、横尾双輪の話をして、36万円もするフルカンパのロードレーサーを親父がプレゼントしてくれました。

 

それまで乗っていた石綿の022のオーダーフレームのバイクと、ピカピカのコロンブスのチューブで組まれたデローザは、それほど乗り心地の違いを感じませんでした。縦方向にも横方向にも硬いフレームで、元気なうちはいいけど、100kmを越えて疲れてくると硬すぎると感じました。でも平坦コースのスプリント合戦で鋭く加速する直進安定性のいい、好みのバイクでした。そのデローザを発注した日、横尾さんがお昼ご飯に誘ってくれました。近くの洋食屋さんでした。昔ながらのオムライスを食べさせてもらいました。美味しかったな〜!。

 

顔に見覚えがあるんだけどと言われました。何度もお店に通っていますから、というと、「どこかのバンクで会っていないかな」。「東京都車連主催の立川競輪場での記録会か、東京都の予選会じゃないですかね、僕、横尾さんに1000トラのサドル持ちやってもらいましたよ」。「そうだったのか、出てたの」。実はすごくその1000トラのスタートは印象に残っていて、ピストルがなった瞬間に右足を踏み込むのですが、横尾さんがグッと押し出してくれて、いい感じでスタートできて、ほぼベストタイムを出せたのです。

 

「その時は10秒台くらいだったかな。一人自転車部でだーれも教えてくれなかったから、個人追い抜きも、速度競走も弱かったですからね」。それからはお店に行くたびに色々教わりましたし、バイクの組み立ても見せてもらいました。横尾さんたち有志で編纂した1964年の東京オリンピックの自転車競技の写真集が印象に残っています。デザイン学校を卒業して、ワコールのデザイン部に就職して、2年で退社しました。サイクルスポーツ誌でフリーランスで働き始めて、テストライドや、メカものの原稿を書くようになって、横尾さんのブティックでイタリア製のニットウエアを買うようになって、しょっちゅう出入りしていました。

 

当時はパーツの卸屋さんがいくつも会って、エクスクルーシブ契約のないままで、卸価格の設定がバラバラで、小売店に販売されていたので、小売価格の設定が店舗によってバラバラでした。まさかオールカタログのパーツの価格設定の仕事で、横尾さん、瀬尾さん、萩原さんたちと、ご一緒するなんて思ってもいませんでした。横尾さんに食べさせてもらったオムライス、今わない、小さな洋食屋さんの黄色い薄い卵焼きで覆われたオムライスで、赤いケチャップがラグビーボールのような形状の真ん中にかけられているやつです。あれが食べたいな〜と思って探しています。

 

ふわふわのオムレツをチキンライスに乗せて、開いたやつでもないし、デミグラスソースをどろりとかけたやつでもないんです。そんなオシャレなやつではないのを食べたいんです。銀座の洋食屋さんの煉瓦亭に行けばいいのかな。つくばのマジカルミステリーツアーで、バイクで走って食べに行きたいと探していました。たまたま寄った吉沼の中華料理屋さんで、ラーメンとカツ丼を頼んで、メニューを眺めていると、ご飯ものの中にチャーハン、オムライスというメニューを発見しました。

 

来週もくるぞと決めて、日曜日のSRMの担当でした。茂木のエンデューロへ向けた、ライディングテクニックセミナーを終えてから、その吉沼のお店に仲間たちと直行しました。なんと、先週は営業していた日曜日なのにお休みでした。ガビーン!。頭の中はオムライスを食べるモード100%です、一瞬真っ白です。次のお昼ご飯を食べに行くターゲットが思い浮かびません。とりあえずショップへ向かって帰り、美味しいお蕎麦やさんへ、大盛りのお蕎麦と、そばがきを食べに行きました。連休中こそオムライスを食べに行くぞ〜。27日は茂木のエンデューロ、28日は桜運動公園に10時集合でマジカルミステリーツアーです。この日にお店が休みじゃなければオムライスだな。その日の4時からは自転車雑誌の取材対応です。