クマさんのバイク専科

ヒルクライムのペダリングを身に付けよう、パート1

平地とは少し違う、ヒルクライムで有効なペダリングを考えてみましょう。ヒルクライムイベントは走行距離20kmから22kmと想定します。標準的な傾斜は6%、最大斜度10%とします。走行時間は1時間から1時間半とします。フルタイムワーカーで、毎週末の土曜日と日曜日にトレーニングに取り組める環境で、平日は1時間くらい筋トレやローラー台に取り組めるとしましょう。毎日たっぷりトレーニングできたり、トレーニング後に休める、プロ選手みたいなトレーニングプログラムの実現は普通は無理でしょう。だから、早くなったり、強くなるには、限られた時間を有効に使うトレーニングプランが必要なのです。

 

まずは、パワーを最大限に引き出すためのポジションを見つける必要があります。サドルの高さと前後位置の調整方法は、サドルが280mmあるとして、140mmの仮の中心の位置に、テープで印を付けて、サドルの上の面を水平に固定して、サドルを前後させて、シートチューブの中心の延長線に、仮の中心の位置を合わせて、サドルの基準の位置とします。固定式のローラー台にバイクをセットして、サドルの中心に座って、クランクを下死点に止めて、脚を真っ直ぐに伸ばして、足のかかとが水平より10mm低くなるように、サドルの高さを調整します。

 

脚が疲れてきて、クランクを踏み下ろした時に、足首を支えきれなくなってかかとを下げてペダリングします。その状態でも下死点近くを脚が通過する動作をスムーズに行えるサドルの高さの設定です。男子ライダーで1時間20分を超えるライダーには最適な高さです。かかとを上げたまま最後まで踏み切れるライダーは、足の裏が水平になるサドルの高さでも走れます。女性ライダーの場合は、1時間40分くらいのライダーは水平でも走れますが、できれば10mかかとが下がる設定の方が、疲れても最後までスムーズなペダリングをキープできます。

 

次はサドルの上の、踏み込める腰の位置を探します。それには、最も効率よくクランクを踏める3時の位置、地面と水平になる位置に止めて、膝関節の膝蓋骨、お皿と呼ばれる骨の後ろ側から、重りを付けた糸などで、垂直線を下ろします。ペダル軸の中心と母指球の骨んお位置が一致した状態で、垂直線とペダル軸の中心を一致させた状態で、屈曲させた脚の膝関節の角度が、最も脚のパワーを発揮できる110度くらいの開きになるように、腰の位置を前後させます。

 

さらに脚を安定させて、膝から下の筋肉へのストレスを避けて、しかも強く踏み込みたい場合は、ペダル軸の中心と母指球の位置関係を見直す必要があります。踏み込むフェーズの足の裏の傾きを確認して、その足の裏の角度で踏み込んだ状態の時、ペダル軸の中心より、母指球の位置を2〜3mm後ろになるようにクリートの位置を設定すると、踏み込む足が安定して、強く踏み込めるようになります。特にヒルクライムでは重要な設定です。こうしてクリートの位置を微調整して膝関節が110度になるように、踏める腰の位置を確認します。

 

その腰の位置がバイオメカニクス的にパワーを引き出せるポジションです。その腰の位置をサポートするようにサドルの位置を調整します。20分から30分間LSDレベルでウオーミングアップして、ドロップバーの上の直線部分をグリップして、腰がグリップ位置や腕の長さに制約させることなく移動できる状態で、毎分80回転できる負荷の重い状態でペダリングします。しばらくペダリングすると、自然に腰の位置がサドルの上の面を移動して、脚を踏み込みやすい腰の位置になります。その腰の位置をぴったりサポートする位置にサドルをさらに微調整して、ポジションを決めて基準の位置にします。

 

このサドルの位置を基準にしてサドルの高さ、ハンガーの中心からサドルの仮の中心までの距離や、前後位置の調整の基準の位置とします。低回転の高負荷と、高回転の低負荷でペダリングして、サドルの上の面を移動する腰の位置を意識します。ロードレースの逃げ集団で走るライダーが、本気で逃げているシーンで、パワーを絞り出して走っている選手は、どんなフォームで走っているのか見てみましょう。単独や小グループでの逃げのシーンのフォームを真横から見ると、先頭に出て空気抵抗を引き受ける選手は、サドルの先端に腰を移動して、体重をより利用して脚を強く踏み込んでペダリングして、スピードを維持しています。

 

ペダリングの毎分あたりの回転数(ケイデンス)、軽い負荷や重い負荷、踏み味の重さによって自然に腰の位置を移動してペダリングしています。腰を前に移動して体重を利用して踏み込んだり、腰の位置を中心へ戻して、太ももの上下を意識して、回転重視で踏み込まないペダリングで対応しています。全力で踏み込んでいる時、腰の移動量は50mm近く前になります。この位置での10mmの差はシートチューブの角度にするとほぼ1度に相当します。74度のシートアングルだとサドルの先端に座る腰の位置は、TTバイクやトライアスロンバイクの腰の位置とほぼ同じになります。

 

腰の位置はほぼ79度に相当します。その腰の位置で上半身は空気抵抗を減らすために、背中を水平にする低い設定のポジションにすると、股関節周りに詰まり感が発生します。腰を前に出してハンガーの中心との距離が近くなった状態で起こる、股関節周りの詰まり感を解消するために、クランクを下死点近くで止めて、ペダルにセットした足の裏が水平の状態で、脚が真っ直ぐに伸びる高さに設定します。今までよりはシートポストを上げることになりますが、腰とハンガー中心までの距離はほとんど変わりません。

 

ロードバイクの前乗りでパワーを引き出すペダリングの時も、腰を前へ出した分だけ、ハンガーの中心に近付くので、サドルを低く感じます。クランクが3時の位置で、最もパワーを発揮できる、膝関節が110度の状態より深く曲がった状態で、3時の位置のクランクを踏み込んでいます。しかも、上半身を深く曲げて空気抵抗を避けているので、股関節周辺に詰まり感が発生するはずです。そうなると、3時の位置の膝関節の開きを110度に近づけたいと、サドルを上げたくなり、サドルを実際に上げると股関節のつまり感を軽減できたり、脚で強く踏めるようになります。

 

サドルの高さの見直しは、クランクが地面と水平になる3時の位置の時、膝のお皿の骨の後ろの位置から垂直の線を垂らし、その線とペダルシャフトの中心が一致する状態で、フルパワーを発揮できる前乗りの腰の位置に合わせて、膝関節の開きが110度くらいになるように、サドルの高さを再度調整します。しかし、サドルの中心へ腰の位置を戻してペダリングした時に、数mmサドルを高く感じたりします。ヒルクライムや高速走行の前乗りに合わせるか、平地、上り、下りのオールラウンドに対応できるサドルの高さにするのか、これは、どちらのペダリングを重視するかの微妙な選択になります。サドルの移動をするときは膝関節周りへのストレス発生などを意識して、慎重に移行する必要があります。

 

同じ筋肉を使ってペダリングしていると、一部の筋肉に早く疲れが蓄積してしまい、思ったようなペダリングをできなくなります。スピードの変化、傾斜の変化、風の強さの変化に合わせてペダリングして、スピードをキープすると同時に、脚を温存しながらロードレースやエンデューロを走っています。基本的にはロードレースなら、効率のいい毎分あたりのクランク回転数(ケイデンス)は、120回転くらいから90回転でペダリングしています。ケイデンスを高く保った方が1踏み1踏みの負荷が小さく、乳酸の発生による疲労を蓄積しにくいのです。

 

ただし、ビギナーライダーの場合は、ペダリングの基礎知識を知らないで走っていると、毎分70回転から85回転のケイデンスでペダリングしています。心拍数が上がりにくく、筋力を頼りに踏み込むペダリングを、ぜいぜいハアハアしにくいので、しばらくの間なら楽に感じるから、これが正しい、疲れにくいと思ってしまい、陥りやすいペダリングです。このペダリングは血中乳酸濃度が上昇して脚の筋肉の動きが重くなってパワーダウンしやすいペダリングです。でも、回転重視のペダリングの方が効率がいいというので、そこで、いきなり、高いケイデンスでペダリングすると、脚の筋肉を速く動かすことが負荷になるので継続できません。高回転のペダリングに慣れてしまうと、呼吸数が増えて、心拍数も上昇してやや苦しいのですが、筋肉の収縮にブレーキをかける乳酸の発生が少なくて継続できることを体験できます。

 

負荷が大きく、踏み込み、ケイデンスの低いペダリングを続けると、1時間から2時間で、筋肉の収縮が重く感じたり、脚に力が入らなくなります。有酸素運動と無酸素運動のガソリンに当たる、体内に蓄積されている、グリコーゲンを使い切ったわけでもないのに、ペダリングしている脚を休めないと回復しません。踏み込むのを止めて、20分くらい、スピードを落としてくるくるクランクを回して走ると、運動強度が低下して、乳酸が発生しなくなって、乳酸が血流で肝臓に運び込まれたり、細胞内のミトコンドリヤで酸素を使ってグリコーゲンに還元されて、血中乳酸値が低下して、筋肉がスムーズに収縮するようになります。

 

ライド中に、呼吸も楽だったし、スピードも出せていたのに、突然クランクを踏めなくなる。そんな経験したことありませんか。それが乳酸が蓄積して、筋肉の収縮を妨げる現象なのです。毎分80回転くらいできる負荷の、踏むペダリングは無酸素運動と有酸素運動のミックス状態になって、じわじわと乳酸が発生して知らないうちに血液中に乳酸が蓄積しやすいのです。かといってすぐに90回転や100回転の、高いケイデンスのペダリングをできるわけではありません。無理なく回せるようになるには時間がかかります。

 

LSDトレーニングの時などに、楽にできるペダリングより、10回転あげることを意識して、フリーで1段軽めのギヤ比でいつもより5回転とか10回転多い回転を心がけてペダリングしたり、毎分50回転以下になる負荷で、低ケイデンスで回すペダリングを体験します。脚の筋肉にペダル軸が描く円に沿って足を回す動きを体験させる、筋肉と神経系の開発トレーニングを繰り返しできていないと、無意識で、無理なく高いケイデンスで走ることができません。脳と脚を結ぶ神経回路に神経伝達物質のシナプシを増やして活性化させるには、2ヶ月、3ヶ月とじっくり取り組んで身に付ける、時間のかかるトレーニングで、ペダリングの基本であるスムーズにクランクを回転させる、神経回路を開発します。

 

同時にペダリングも意識する必要があります。ヒルクライムのスムーズなペダリングを実現するには、11時の位置でも足首の角度をキープして、かかとを高く保って、太ももを軽く引き上げて、足が上死点をスムーズに通過させるテクニックを、身に付けることが必要です。ヒルクライムの理想的なペダリングは、踏み込むトルクが抜けない、踏み込むトルクがなるべく変化しないペダリングです。ところが人間エンジンの脚はそれが苦手と言えます。ペダリングのテクニックを身に付けないと、踏み下ろす時だけに大きなパワーを発揮するペダリングになりがちです。

 

平地の高速走行のペダリングでは、クランクを踏み込んでパワーを加えると、ホイールの慣性を生かして前に進んでくれますから、空気抵抗で削られるスピードをカバーするだけのパワーを加えれば、それまでのスピードを維持できます。ヒルクライムでは、登坂抵抗が働きますから、クランクを踏み込んだ時に最高速に上がって、クランクを踏む力が低下すると、バイクのスピードもすぐに低下してしまいます。トルク変動の大きいペダリングでは、加速して、スピードが低下して、また踏み込んでスピードを戻しという、効率の悪い走りになってしまいます。トルク変動の小さいペダリングテクニックが必要です。

 

時計の文字盤を思い浮かべてください。12時の位置の上死点は足を素早く通過させて、すぐに踏み降ろす動作をイメージします。1時の位置から踏み込めれば理想的ですが、実際のペダリングの解析結果では2時くらいの位置から踏み込み始めています。最も効率のいい3時の位置に向かって足を強く下へ踏み込みます。4時の位置くらいまで踏み込んで、5時の位置ではボールを投げるフォロースルーのように力を抜いて、6時の位置の下死点を通過させます。5時や6時の位置で強く踏み込んでも、駆動トルクにはなりにくく、頑張って踏んだつもりでも、脚の筋肉を疲労させるだけです。

 

下死点を通過した足は、無駄に力が入っていると、反対側の足の踏み込みの邪魔をしてしまうので、10時から11時の位置で太ももを軽く上にあげるようにして、足をペダルの踏み面から浮かせるイメージで、踏み込を邪魔しないようにします。急加速で使う引き脚という動作もありますが、この間は脚の筋肉をリラックスさせて休めることを優先します。上死点の足の通過の時に、クランクの回転はスピードが低下して、スムーズに回らない原因になりがちです。疲れてくると踵が下がり気味になります。足首は一定の角度に保って、かかとを上げた状態のキープを意識して、上死点が近づいたら、太ももをわずかに引き上げることを意識します。これで、上死点の足の通過がスムーズになります。パート2へ続く。ではでは。