クマさんのバイク専科

「ゆっくり走って強くなる」ってホント!

LSDトレーニングをすれば速く走れるようになって、強くなれるという、ランニングのトレーニングメソッド本が、この「ゆっくり走って強くなる」というタイトルで発売されて、一斉風靡したことがあります。運動強度を低く抑えて長く走るトレーニングを取り入れようという内容でした。生真面目な日本人は、ゼイゼイハアハア走る、苦しいトレーニングこそ効果があって、速く、強くなれると思ってトレーニングに取り組んでいました。そんな風潮のランニングの世界に、ゆっくり走って強くなるという、それまでの常識を覆す、衝撃的なタイトルのランニングメソッド本が登場したわけです。

 

しかし、世の中はなかなか真意というのが伝わりにくいもので、楽して強くなれるとか、苦しい思いをしないで強く、速くなる方法を求められるようになって、編集会議でも、即効性のあるインパクトのある企画やテーマばかりが採用されるようになりがちです。それに、お調子者で目立ちたがりの医学博士とか、スポーツドクターとか、管理栄養士やトレーナーが、このメソッドは効くと、エビデンスを提供するわけです。そんなに短期間で効くとか、コツを知るだけで速くなった気になるアスリートもかなりいい加減なものだと思いますけどね。本を書く人も、買う人も、そういう傾向になっているようです。

 

単行本も、健康本も、ダイエット本も、トレーニング本まで、簡単に上手くなるとか改善するとか、速くなるコツばかりが求められるようになりました。速いフォームを継続するには、地道な体幹トレーニングで対応する筋肉を、神経回路と一緒に作る必要があるし、心肺機能も開発する必要があります。何れにしても時間はかかるものです。簡単なホップステップジャンプはほとんどないと思いますよ。LSDトレーニングだって、1時間以上続けて一定レベルの強度で運動しなくては効果がありません。

 

しかもLSDトレーニングに取り組んで、1段落の効果を得るには、週3回とか5回のトレーニングを実施して、3ヶ月の時間が必要です。もがきたくなっても我慢して心拍計でチェックして、低いレベルの運動を続けるのは、結構難しいことで、トレーニングの効果を考えて、高いモチベーションで取り組まないとできないことです。運動を始めて30分は体脂肪が燃えません。しかも低い強度を保って運動を続けなければ体脂肪は運動エネルギーに変換されません。3分の運動で体脂肪が減ったなんて、運動生理学的には考えられません。

 

ダイエット目的や、ヒルクライムに向けてお守りになる体脂肪を減らしたい場合は、30分のウオーミングアップ、LSDトレーニングを最低でも30分以上続けなければ、体脂肪をグリコーゲンに変換して、さらに酸素と反応させてATPとして、筋肉の収縮のエネルギーに使われません。筋力トレーニングで体脂肪を燃やして、ダイエットに成功しましたというのは真っ赤な嘘です。体に蓄積されていたグリコーゲンを消費したり、筋肉を分解してグリコーゲンを作って消費しますから、筋肉量が低下します。食事の量や脂肪や糖質や水分を制限しての減量の結果と言えるでしょう。でも、飢餓状態にでもならないと、体脂肪はそのまま残ってしまいます。

 

筋肉量を温存してパワーダウンしないで、体脂肪を減らすには、消費キロカロリーより、わずかにカロリーの低い、筋肉を作るタンパク質やわずかな脂肪や炭水化物やビタミンなど、栄養バランスのとれた食事をしながら、LSDレベルの運動に1時間から4時間くらい、取り組むしかありません。体脂肪を分解するには、トップアスリートでも20分間のプレヒートの時間が必要です。無酸素運動の筋力トレーニングでは体脂肪を消費しません。今のところこのエビデンスを覆すロジックはありません。

 

LSDトレーニングに取り組むと、心肺機能が向上して正解だと思いますが、LSDトレーニングだけでは、未開発のビギナーライダーは今までよりは速くなれても、乳酸が発生する高い運動強度レベルで競い合うレースでは、筋肉の収縮が乳酸濃度によって抑制されて、思ったように脚が効率のいいペダリングをできなくなって、強くはなれないと思います。トライアスロン雑誌などで取り上げていた、糖質コントロールの食事内容や、低いレベルの運動を続けて、毛細血管を伸ばし、細胞内にあるミトコンドリアという器官の、酸素を体へ取り入れる能力を高めて、心肺機能を徹底開発するという、マフェトン理論なども「ゆっくり走って強くなる」的な、そんな感じで日本では紹介されていました。

 

ハワイ島で開催されていたマフェトン理論の口座に参加してみてびっくりでした。日本の雑誌で紹介されていた、有酸素運動を高める、LSDトレーニングに取り組み、ベース作りの重要性も語られていました。日本の雑誌では、口当たりのいい、この部分が強調されて、繰り返し紹介されていたので、LSDだけで強く、速くなれるトレーニング理論だと思われていたはずです。ところが、食事の内容は、盛んに抗酸化食品を食べることが提唱されていたり、耐乳酸性を向上させるトレーニングの話が紹介されていました。LSDトレーニングだけなら必要のない情報です。だから僕はマフェトン理論の翻訳されて再構成された紹介記事に違和感を感じていたのです。

 

トレーニングの運動強度レベルは色々あって、トレーニングの効果も違うわけです。LSDでベース作り、ミドルレベルで耐乳酸性や乳酸除去能力を開発してと、時間経過とバランスをとってプログラミングして、スピードとスタミナを付けて行くというロジックを信じてやってきたので、日本で紹介されていたマフェトン理論は、LSD以上の耐乳酸系のトレーニングはいらないと感じてしまう内容でした。ところが実際のマフェトン博士は、レジスタンストレーニングを中心に指導しているのです。これには日本からセミナーに参加したコーチや選手は驚きました。活性酸素が大量に発生するレジスタンストレーニングは、悪いこと扱いだった翻訳内容とかけ離れたセミナーの内容だったからです。

 

雑誌を売るために、口当たりのいいトレーニング理論に書き換えられていたとしか思えません。まさに楽して速くなれるという風潮に乗ったものです。だから糖質摂取やハードなトレーニングでも活性酸素の発生することや、その害を防ぐ抗酸化食品摂取の部分で矛盾が生じていたのです。苦しいレジスタンストレーニングへの取り組みも、なんだ苦しいのかと敬遠されたり、今までの各運動強度レベルのトレーニングに取り組んで速く、強くなるトレーニング理論と同じじゃないかと、今までと違う新理論ということにならないので、意識的に詳しく紹介されていなかったのでしょう。

 

セミナーでは、LSDトレーニングで時間をかけて有酸素運動能力や回復のベース作りをして、耐乳酸性と発生した乳酸を除去する能力を開発するために、レジスタンストレーニングをやりなさいと、ごく普通の運動理論に沿った内容でした。LSDトレーニングだけで強くなれる理論ではありませんでした。LSDとはゆっくり長く走るトレーニングのことで、ランニングだけでなく、バイクのトレーニングでも重要なものです。LSDトレーニングはバイクの場合は、話をしながら走れるくらいのスピードで走り、20分から30分走ると、体脂肪が燃えて、グリコーゲンへ変換されて、運動エネルギーとして使われて、筋肉を収縮させます。

 

人によって違いますが、平地で時速20kmから25kmがビギナーのLSDの速度です。プロ選手は時速30kmから35kmと言われています。低い運動強度の運動を続けることが重要で、毛細血管が伸びて、筋肉の奥深くまで張り巡らされるようになります。LSDトレーニングを週に2回から5回、1回に1時間以上、できれば4時間、プロ選手クラスだと5時間から8時間くらい、走り込みます。地道なトレーニングに取り組みます。低いレベルの運動を続けて刺激を続けると、細胞内にある、酸素を取り入れて、グリコーゲンで運動エネルギーのATPを作る機能を活性化させて、ミトコンドリアの性能を高めます。時にはミトコンドリアを増やす効果もあり、ミトコンドリアの性能向上で、有酸素運動能力が高まるのです。

 

別の言葉で言えば最大酸素運動能力が高まり、体内に酸素を取り入れる能力が高まり、高いレベルの有酸素運動をできるようになって、筋肉の収縮を抑制する乳酸の発生が少なくなります。運動しなくなるとこの能力はじわじわと低下してしまいます。4ヶ月走っていなかったマサローさんの耐乳酸性と酸素を取り入れる機能が低下していたわけです。体重も増えているので上り坂では登坂抵抗も増えていたわけです。走っていた時はなんでもなく上れていた坂道が激坂になってしまう分けです。

 

グリコーゲンを直接ATPへ分解する無酸素運動は瞬時に大きなパワーを発揮します。その時に発生する乳酸に耐えて、筋肉を収縮させる耐乳酸性も、2週間から3週間、乳酸が発生する運動を体験しないと低下します。耐乳酸性を刺激する、3分間トレーニング、20分キープできるスピードで、2本、3本と走るレペティショントレーニング、インターバルトレーニングも必要です。フルタイムワーカーにはなかなか時間の確保が難しいトレーニングです。土曜日や日曜日に実際の道路を長く走るスケジュールを組みます。平日は、家に帰ってから固定式のローラー台で1時間から2時間トレーニングすると効果的です。

 

とは言っても、速く強くなるには、「ゆっくり長く走って強くなる」というのは、いつでもゼイゼイハアハア追い込んで走っていると、耐乳酸性は向上して強くなった感じを得られますが。活性酸素のダメージで心肺機能が低下してしまうことになるので、やったーという自己満足トレーニングになりがちです。生真面目な日本人は、そういう頑張った感が好きなので、追い込みトレーニングに偏りがちでしたから、心肺機能を作る、ベースの部分を作るLSDトレーニングを重視しようとうことは、いいことだと思います。あまり運動をしていなかった人が、運動を始めるには、無理がなく取り組めて、心肺機能が3ヶ月ぐらいで向上して、見違えるくらい走れるようになります。

 

確かに未開発の初心者なら、ゆっくり走って速く強くなれます。だけど、仲間と走るようになると、もっと速くとか強くなりたいと感じます。そうなると、筋力アップや耐乳酸性の向上が必要になります。時間がかかる、効果がはっきりしない、LSDトレーニングは基礎体力作りとして重要です。もっと速く強くなるには、耐乳酸系のトレーニングもバランスよく取り組むことが必要です。「ゆっくり長く走る」トレーニングの提唱は、誰にでも受け入れやすく、正解でもあり、でも、それだけではあるレベル以上には強くはなれません。長い時間がかかる、LSDトレーニングで、体により多くの酸素を摂り入れる心肺機能や、エネルギー効率も高くなります。無酸素と有酸素運動の、効率のいい運動エネルギーのグリコーゲンの蓄積量も増えます。

 

フルタイムワーカーの場合、LSDトレーニング6割、回復トレーニング1割、耐乳酸トレーニング2割、スプリント1割以下のバランスが理想的です。走り仲間との競争のようなライドや、レースは耐乳酸トレーニングに相当します。4時間以上も頑張れば、クタクタになってやった感、頑張った感を味わえて満足感があります。筋肉は細胞レベルで疲労して、炎症を起こして細胞が破壊する寸前になることもあります。筋肉痛になっていたり、関節や靭帯が痛むこともあります。高いレベルの有酸素運動で、体内に酸素を大量に取り込み、活性酸素も大量に発生して、細胞膜などを傷つけます。ハードなトレーニングの前後には、抗酸化物質の含まれた食品を食べて、活性酸素を無害化することが重要です。

 

フルタイムワーカーで、1週間の土曜日と日曜日に走れるとすれば、グループライドで競争していたら、時速30kmから40kmで走るでしょうから、レジスタンストレーニングに相当します。乳酸が大量に発生したり、活性酸素も発生します。2週から3週間で、耐乳酸性や乳酸除去能力は高まりますが、活性酸素で細胞レベルで傷つき、酸素やグリコーゲンなどが通過する細胞膜がダメージを受けて、ミトコンドリアの運動エネルギーを作る能力が生かされず、有酸素運動能力は低下します。回復には中4日が必要です。しかも、LSD トレーニングの時間がなくなります。時間配分が難しいですね。ではでは。