クマさんのバイク専科

さすがは開催国、日本に合った芝生で戦っていますね

日本のラグビーはフォアードのスクラムの頑張りが起点になって、左右への自在な展開能力が生かされている。サモアのような個人的な突破能力が高いわけではないので、一人で敵陣深くへ突っ込み過ぎて瞬間的に孤立することもない。これが原因でモールやラックになって、フォローが遅れてターンノーバーということになりやすいから。深入りしすぎないで前に進むのが、正しい戦い方なのだ。ドカーント突破すると、華々しくてかっこ良いのだが、孤立の危険が待っているのだ。

 

日本のディフェンスは帰りも早く、アタックに対して2人以上でゲインライン突破をなかなか許さない。これは相手に焦りを発生させるプレーだ。打っても打っても倒れないボクサーみたいなもので、攻撃した側がうち疲れする。1人目のタックルも素晴らしい。ラックもモールも、膝をついたり倒れたら、すぐに立ち上がりポジションへ戻るという基本が全選手に徹底されている。タックルという勇気のいる大仕事を成功させると、人は気が緩んで動きを止めがちだが、そんな選手は一人もいない。

 

日本のスクラムは個人としては小粒で、8人の重さでは勝負できないけど、背筋力200kgクラスの筋力と、ピンポイントを集中して押せるスクラムのテクニックがあって、強いといえば強い、でも、その強さを発揮するには前提がある。日本の職人がじっくり育てた、根がしっかりした芝生のグランドが、日本のフォアードのスパイクのスタッドをがっちり受け止めているのだ。グリップ力の高いグランドが各地に用意されているのだ。

 

グラウンドとのグリップは両チーム同じだけど、日本の軽量なフォアードでも、筋力とその筋肉のスタミナや、低く押して、向きを微調整できるスクラムテクニックが、グリップの良いグランドで有利に働くのだ。このハイグリップの芝生は正に地の利、すべてのグラウンドはホームなのだ、開催国ならではのなせる技だ。開催国が有利になる、有利にしたいと思う職人の心がこもった作品なのだ。これも勝てる要素と言える。

 

高校生のラグビーもサッカーもグラウンドは土が多い。芝生のグラウンドでできるのは、東京の子供なら秩父の宮ラグビー場ぐらいだ。サッカーはプロリーグができて大幅に天然芝生や人工芝のグラウンドが増えた。でも、ラグビーは実業団の上位チームが作ったトップリーグができても芝生のグラウンドはそれほど増えていない。原因は経費で春夏秋冬緑の芝生をキープするには、場所によって、1億から3億円はかかるという。

 

土のグラウンドはまず転べば痛い、怪我をしやすいから、才能のあるプレーヤーも思い切ったプレーがしにくい。試合になればカッカしているから、痛い目に合うことが分かっていても、負けたくないとやってしまうけど、確かに痛い目に合うことが多い。危険な脳震盪も起こしやすい。芝生のグランドならトライも、セービングも、ラックもモールも、タックルして、転んでもマットレスに寝るようなものだ。

 

芝生のグランドに慣れてくると、足はどのくらいグリップしてくれて、相手を振り切るステップが思い通りに切れたり、タックルで相手の体に肩がコンタクトして腕でホールドしてから、足をかいて肩を食い込ませて、走ってきたパワーを伝えて、相手をゲインラインから後退させる攻撃的なディフェンスもできるし、こぼれ球へ飛び込んでセービングして、くるりと体を起こして、突進してくる相手との衝突に備え、味方のフォローを待って楕円球を体の下にキープして、反撃に移るという、思い切ったプレーをできるのだ。

 

芝生のグラウンドでプレーすることは憧れだった。ワールドカップともなれば、芝生の育成に少なくとも2年とか3年かけて、思ったようなグラウンドに仕上げることができる。芝生を急遽張ることはできても、根を巡らせて、土と馴染ませることは難しい。ピンスポット的な力を受けると、芝生ごとめくれてしまい、足が滑ってしまい思ったようなプレーをできない。日本チームにとって素晴らしいグランドが提供されている。

 

だけど、日本チームのスクラムには泣き所がある。つまり、筋力やスクラムを押すテクニックを持っていても、肝心の足がグラウンドにグリップしないと、軽量な日本のフォアードのスクラムが機能しないのだ。だから、グリップが低下しやすい雨の時に弱いのだ。もちろんスパイクは日本の芝生のグランドに合わせてスタッドの形状や長さ、本数が工夫されている。アッパーは水を吸いにくく軽いシンセティックレザー、カンガルー革、カーフなど選手の好みに合わせて作られている。足裏の足型や・甲の高さ、足首のえぐり、トウカップ、ヒールカップ、ヒールカウンター、紐の位置や素材など、フォアードもバックスも、誰もがこだわっているはず。

 

そして、注目されているのがソールの材質で、フォアードの場合はソールがしなやかに曲がってくれないと、スクラムを押す時にグラウンドにスタッドが突き刺さってくれない。カーボンやプラスチックや、高弾性ゴムなどが素材になっている。僕の現役時代は本革製のソールもあったけど、西ドイツ製のアディダスのプラスチックソールと、ねじ込み式のスタッドが最高でした。最近はフォアードもバックスもつま先走りでスピード重視のランニングが一般的だ。ベタ足の選手はフォアードのサイドアタックのときくらいだ。

 

アッパーはカンガルー革で3万円以上していました。試合用のスパイクは、土の硬いグラウンド用、土の雨のグラウンド用、芝生の刈り込まれたグラウンド用、手入れの良くない深い芝生のグラウンド用の4足を用意していました。グラウンドのサフェースのドライとウエットの時の情報は重要です。プロはもっとスパイクを用意しているし、ねじ込み式の場合は、部分的にスタッド交換することもやっているはずです。体重の5倍はかかるスパイクですから、靴のへたりやヒールカウンター近くの変形っぷりは半端じゃありません。せっかく足とのなじみが出たと思ったらお払い箱という感じで消耗していきます。

 

だから新品シューズのシェイクダウンは常に行っていました。1年生の中から25、5cmの足で、甲の高さが似た選手を5人探して、試合ではくソックスを配って、一斉にはいて練習してもらいます。雨の練習なら最高の慣らし運転になります。練習後は新聞紙を丁寧に詰めて、陰干しで乾かしておきます。ミンクオイルを塗って、ドライヤーで染み込ませて、革をしなやかにして、豆ができやすい部分はプラハンで叩いたりして、速攻で馴染みを出して、最終的には自分でトレーニングではいて、試合用に馴染ませます。アッパーが馴染んできたら、グランドのコンディションに合わせてスタッドを1個1個しっかりねじ込みます。

 

トレーニングの時間が1日に8時間として、スパイクの着用は5時間ぐらい。グラウンドからの振動はダイレクトに伝わります。インソールもすぐにへたってしまいます。足へのストレスもかなりあります。でも紐を緩めるとすぐに脱げてしまうから、1日履いているときついですよね。しかし、日本のスクラムは強くなった、フロントローがめくられたシーンもあったけど、よく頑張って押されないようになっていました。フォアードもバックスも、後半まで走れるようになっていることも驚異的な進化です。ではでは。