クマさんのバイク専科

体の芯を意識することがポイントでした!

当時のラグビーの練習には無茶なことがいっぱいあった気もします。僕の世代の高校の部活ってやつは、3年生が神様、2年生が平民、1年生は奴隷みたいな縦社会が当たり前で、今では到底考えられない、殴る、蹴るは日常茶飯事でした。周りのみんなは、ラグビースクールなどで経験がある、九州や東北からスカウトされてきた体育特待生ばかりでした。本当かどうか知りませんが、答案用紙に名前を書ければ入学できるとか、3年後には、付属の大学にも成績に下駄履かせて進学できるとか噂されていました。秋の花園への予選試合が始まると、授業へ出ることができませんでしたし、期末試験が免除されていました。

 

1年生のときに、試合でミスしたバックスの先輩を無意識に蹴ったらしく、試合中に審判に走りながら叱られるし、学校に帰ってから先輩たちにボコボコにされました。それでもこりずに、フォアードがタックル、モールで、最前線で苦労してターンオーバーして供給した球を、ノックオンした先輩バックスに、試合中に審判に見えないように蹴りを入れていたりしていました。ほぼフォアードの先輩たちも、立ち上がって見たらボールを落としていて、その場で相手ボールのスクラムかよと、同じ気持ちだったとしても、バックスの連中と雰囲気が悪くなるので、なかなか言わない慣習だった気がします。

 

学校が創立されて10年そこそこで、ラグビー部は花園に行っていました。僕が3年のときの1年生の代は全国優勝して、そのメンバーのまま大学へ進んで大学選手権も獲得しています。学校は一生懸命優秀な選手を日本中から探して、入学金免除、学費免除、合宿所に入寮しているスポーツエリートは、捕食費という名目で、毎月お小遣いも支給されていました。これが甲子園で優勝を目指す高校の名門野球部だったら、部員が100人を越えていて、プロ予備軍みたいな選手を集めるために、スカウト合戦はもっと熾烈で、リトルリーグや中学の軟式野球部の優秀な選手に、聞いてびっくりの好条件で声がかかります。ラグビーよりかなりいい条件だったようです。

 

普通に受験した学生でラグビー部に入部したのは僕だけでした。日体大ラグビー部出身の部長先生とヘッドコーチから、「なんで入部するの」と、否定的な感じでマジに聞かれました。「ラグビーのルールは知っているの」とも聞かれました。「やったこともないし、全く知りません」と正直に答えました。楕円球のパスの仕方も知りませんでした。この面接の時に呆れられたみたいです。「練習も厳しいし、みんな地方からラグビー留学してきた連中で、3年間、レギュラーになれないかもよ」と、早々に脅されました。その日から東京の学校まで30km、ロードバイクで通学しました。

 

思い出せる練習メニューは、先輩を肩車して、6kmの道を歩きました。終わるとそのまま7階建てのビルの非常階段の上り下り。6km走ってから、タックルマシンでの練習、生タックル、グランドでフォーメーションの確認のアタック&ディフェンスです。フォワードとバックスに別れての練習になり、スクラムの低い姿勢、スクラムの姿勢で背中に3人乗せて筋トレ。ラインアウトのトレーニング。頭に先輩を乗せて首のトレーニング。朝練2時間、昼の筋トレ30分、3時からナイターまでの練習が、合計で8時間でした。週末になると、午後は他校との交流試合のために移動します。授業がなくなるのは嬉しいような気もしましたが、年間の試合数は200試合以上。1日に2試合とか3試合は当たり前で、高校との試合だけでなく、大学の2軍や3軍との試合も普通に組まれていました。

 

もっとも壮絶だったのは夏合宿で、朝3時半起きでグランドへ向かい、午前中の練習があって朝ごはんを食べて、昼寝をして、午後練は5時、6時までやっていました。基本が8時間練習でした。OB戦があって500人を越えるOBが集まってきて、大学の現役、実業団選手がいて、次々に入れ替わりで試合を朝から晩まで続けるのです。途中から何試合目か分からなくなります。ゴールラインに立っている2本のポールが視野に入らなくなって、トライしようとして選手が激突するようなことが起こります。

 

ランパスも地獄です、大抵は目標本数が100本、往復で1本とカウントします。約95mを突っ走るのです。OBが車のトランクを開けて、折り畳みのノコギリを出して、雑木林の生木を切ってきて、遅くなった現役選手の尻や背中をひっぱたくのです。実業団の現役選手に追い立てられます。僕はそれを見ていてマジで切れました。OB戦の時にその先輩がボールを持った瞬間に、腕でホールドすることなく、腹に頭でタックルに入って、そのOBに気絶してもらいました。

 

そのとき感じたのは、人間て柔らかくて、当たっても、ちっとも痛くないということでした。人間て全力で走って向かってきても、芯を真っ直ぐに押すと簡単に押せることを掴みました。個人的なタックルも、スクラムも、モールもラックも、相手の芯を体で直感的に感じて、真っ直ぐに押したり、ずらして押すというテクニックを使いました。学校の門柱に向かって、ボールを持ってぶつかって、いつかは倒してやると思って、毎日コンクリートとぶつかっていると、ジャージの肩の部分が破けてきました。なるほど、ここが当たっていたのかと思いましたが、試合中の人との当たり方も正面を向いたまま肩からになって、突き抜けられるようになりました。

 

人間てコンクリートよりはるかに柔らかいな〜と思いました。当たり前だけどね。ディフェンスにホールドされても、体の芯をわずかにずらして腕を振り切って、密集を抜けられるようになりました。個人練習で、2年もコンクリートの壁にぶち当たっていたかいがありました。バカだなと思いつつ、本気でやっていましたよ。初めは迫ってくる相手を見ると、吸い寄せられるようにまっすぐ当たってしまってパワーで上回って突破しようとしていました。でも、体が触れた瞬間にスピードが低下して、止められることが多かったですね。

 

生タックルとか、ラックやモール、スクラムを繰り返しトレーニングして、試合数をこなしていく中で、数え切れないほどコンタクトして、人の動きを見て、芯を真っ直ぐに押すことの有効性に気づいて、さらに、芯を外すことができることを身に付けられたことが大きかったですね。フルコンタクトした時も、芯を押して後退させたり、芯をずらして振り切れるし、密集の中もすり抜けることができるようになりました。コンタクトスポーツや武道では、体の芯を感じてプレーすることは、とっても重要な要素ではないかと思います。ではでは。