クマさんのバイク専科

ジョナン二の木リムはまだ手に入るのか?

100年以上の自転車レースの歴史があるイタリアの自転車産業は本当に懐が深い。ここ30年くらいで、フレームの素材が、スチールからアルミに変わり、カーボン繊維の成型フレームになった流れの中でイタリアの工房やブランドは転換期を迎える。資本力のない小さな手作り工房のブランドが淘汰されたり、カーボンフレームの生産体制を築いたり、アジアの生産工場と提携して生き残っている。とはいえ、コツコツとスチール製やアルミ製やチタン製のフレームを手作りしている工房やブランドがしぶとく生き残っている。

 

大きな資本を持つブランドの支援工場として生産委託されて、表には出ない契約をして生き残っているファクトリーもある。カーボンフレームやパーツを整形できるオートクレーブの炉を持つファクトリーや、腕っこきのロー付けやティグ溶接の職人を抱えた工房もある。イタリアの自転車産業はしぶとい。そんな中に、もう時代遅れだと思われる木リムのブランドが生き残っている。職人が2人という工房だ。マドンナデルギザロという自転車教会がある、コモ湖の湖畔に小さなリム工房があるジョバンニだ。

 

昔は自転車のリムは木材だったのだ。自転車の乗り心地を格段に進化させたダンロップの空気入りタイヤは構造的にはチューブラータイヤでした。馬車の車輪のような木材のつぎはぎで丸く組み上げたものではなく、細く長い木材を丸めて3段から4段重ねて丸く接着成型したリムを、大きなろくろにセットして削り出したのが木リムです。交差組のスポークで組み上げていました。ジョバンニではイタリアの乾燥させたブナ材を長―い板にして、3重に重ねて型に入れて接着しています。木はセルロース繊維と樹脂の塊の天然素材で、部分部分で強度もバネ力もばらつきがあります。板にして3重に重ねてリムにしても、当然リムの部分や1本としても強度が違うのは当然の状況です。

 

アルミリムやスチールリムやカーボンリムは、工業製品で素材が均一ですから強度は一定になります。アルミリムは超超ジュラルミンなど熱処理もできて、軽くて強度があるので、カーボンリムが登場するまでの主流の素材になります。アルミ合金は熱処理系の素材を採用したカンパニョーロ、アンブロシオ、マヴィックのリムは、軽くて剛性も高くできます。スポークテンションを上げてホイールの剛性を確保することもできました。

 

2000年台に入って、アルミ合金製やアーボンリムが主流になっているのに、なんで今更ローテクに思える木リムなのか、それは木材の振動減衰性を生かしたホイールを作れるからです。振動減衰性とは素材が振動を吸収する特性のことで、カーボン繊維やケブラー繊維が有名ですが、天然素材の木材は、ばらつきはありますが、その7倍の振動減衰性を発揮します。

 

ジョバンニのオリジナルデザインの木リムでは、ホイールに組んだ時に剛性不足を感じました。アマンダスポーツの千葉洋三さんが、カーボンシートとアルミハニカムコアのディスクホイールの製造などで、バルサや日本の木材採用の木製リムの製造や採用にもトライして、木材の振動減衰性に着目して、名古屋の工業大学に測定してもらった結果、新素材の7倍という結果だったそうです。パワーロスのない実用強度を配慮して、20mm。20mm断面のオリジナル設計の木リムをジョバンニへ発注して、スポークホール数は36本の700Cサイズを用意しています。

 

アマンダデザインの木リムを2本手に入れてすぐに、36本スポークで前後輪を組んで乗ってみましたが、千葉さんのアドバイス通り、後輪は駆動トルクと体重がかかるので、10段スプロケットが入る、あのおちょこ量では、フリー側と反対側のスポークテンションが違いすぎて、踏み込むたびにリムが左右によれてしまい、まともに走れませんでした。前輪はハブのフランジの幅が広く、左右のスポークを均等に強く張れて実用上問題ない強度がありました。時速60kmオーバーでダウンヒルしても全く問題なく走れました。

 

しかし、初めてジョバンニの木リムでホイールを組んだ時には、仮組みの段階のあまりのよれっぷりに驚きました。ハブにサピムのCXレイというエアロスポークを6本交差で通し、木リム専用のスチールワッシャーをニップルホールにセットしてから、付属のロングニップルを木リムのスポーク穴へ通し、スポークをニップルにセットして、同じ回数だけ回して仮組みしました。ところが、これでリムの振れが取れるのというくらい激しく左右に振れてるい状況でした。

 

カーボンリムやアルミリムで組んでもこんなことはありません。前にフランスのスーパーチャンピオンと、イタリアのブルザッティの木リムを組んだことがあったので、驚きはしましたが、こんな感じだったよな〜と、気長にスポークのテンションを上げながら振れとりすることにしました。剛性の高いカーボンリムやアルミシムのような、均等なスポークの張りとか、ニップルの回転数では、ホイールの芯も出ないし、リムの振れも収まりそうにありません。なにせリムの部分部分で強度が違うのですから、振れ取り台にセットしてリムの振れ具合を見てスポークテンションを調整するしかありません。ニップルを2分の1回転しただけでグラグラになってしまいます。

 

カーボンリムなら数分で振れ取りできるのですが、木リムでは10分の2mmの振れに収めるのに30分とか40分かかってしまいます。

そこからが馴染み作業が大変で、木リムのニップルが収る穴にセットしたワッシャーが、ニップルにテンションがかかって木に食い込んで落ち着くまでに時間がかかります。ホイールに力を加えてリムとニップル、スポークとハブの穴との馴染みを強制的に出して、走っても振れを出にくくするテクニックもありますが、木リムホイールではあまり効果的ではありません。まずはいい路面で乗り始めて、少しずつ自然に馴染みを出して、スポークテンションの緩みが出たらニップルを少し締め込んで振れを解消するというのを1000kmくらいまでは繰り返します。

 

だんだん緩みが出にくくなって、ホイールの熟成が進みます。最初は3ヶ月か4ヶ月に1度振れ取りをして、少しずつスポークテンションを上げて行きます。最適なスポークテンションになった時、路面の凸凹にホイールとしなやかなタイヤがよく追従して、路面からのショックを吸収して、よく転がるホイールになるし、ダンシングしてもパワーロスなく走れるようになります。この乗り味はカーボンリムもアルミリムのホイールにはできません、絶好調に熟成された木リムホイールを体験すると、乗ってすぐにマイルドな乗り味や、よく転がるなーという不思議な感覚を味わえます。特に長く走ったりするライダーにはたまらない快適ホイールです。ノッスタルジーで使っているわけではありません。

 

ダウンヒルスキーのトップ選手が使う新素材のスキー板のコア材にも、氷の壁を滑るリュージュにも、木材が使われているのは、天然素材の木の振動減衰性がカーボンの7倍という特性が、氷や雪の面から弾まないでソリやスキーの板の滑走面が捉えて滑らせるために採用されています。リュージュをカーボンファイバーで作るプロジェクトは完全に失敗しています。木リムの重さは400g前後です。ブレーキパッドはカーボンリム用が相性がいいようです。ドライでもウエットでもよく止まります。タイヤはチューブラータイヤのみとなります。100kmを走った時、手のひら、首、腰などへのストレスが全く違います。上質のサスペンションを取り付けたような感じになります。

 

首の骨の手術を受けた人もストレスが無くなったそうです。ロードのトレーニングに使ってストレスを軽減している人、ヒルクライムのトレーニングで使っている人、ロングライドに使っている人、600kmのブルベに使っている人、はっきり振動減衰性の高さを感じているそうです。定期的な振れ取りは必要だけど、この快適な乗り味をキープするには手間暇かけても惜しくはないな〜。木リムは完全に手作りだし、天然素材なので生産量が限られています。いつかイタリアの工房が閉店して木リムが無くなってしまうのではと、予備のアマンダデザインの木リムをストックしている心配性のライダーもいますね。日が当たらない乾燥した場所に、横に寝かして保管してください。

 

これからはハブも問題になりますね。アンティークのカンパニョーロのヌーボレコードのスモールフランジの36穴とか、コルサレコードのスモールフランジの36穴などを手に入れなきゃ、なかなか格好のいいホイールが組めなくなります。まだ、シマノデュラエースは36穴作るのかな。完組みホイールにはない特性の、アンブロシオ、マヴィック、コリマ、ジョバンニのリムを採用する、手組みのホイールに興味がある方は、スポーツバイクつくばマツナガで相談してみてください。ではでは。