クマさんのバイク専科

トライアスロンはインテリジェントスポーツだ!

51、5kmのトライアスロンがオリンピックの種目になったのが2000年のシドニーオリンピックからです。シドニー湾を泳ぎ、オペラハウスをスタートする周回コースのバイクとランで競われました。スイム1、5km、バイク40km、ラン10kmのフォーマットで実施されている。スイム会場は海か湖で、レーンのない周回コースで行われています。男子のトップ選手のタイムは、スイム16分、バイク55分、ラン30分くらいです。女子はスイム17分、バイク60分、ラン32分くらいです。どれもレース中のタイムですから、単一の競技からするとそれほどでもないタイムと思いがちですけど、スイムはプールの壁を蹴っての加速のないタイムです。

 

やってみれば分かりますが、各競技を連続でやるとこんなタイムは普通は出せません。日本の各競技のトップ選手に近い力を持っていないとこのタイムは出ません。ということはこの3種目のトップ選手と同じようなトレーニングを、競技ごとにこなせていないと、トライアスロンの世界チャンピオンにはなれません。ワールドシリーズや世界選のスイムは最短距離を泳ごうと集中してバトルが必至です。それでなくても最短距離で泳ぐために、抵抗が大きくスピードダウンの恐れがある、ヘッドアップスイムを入れてコースを示すブイを確認しながら泳ぐ必要があります。ワールドシリーズや世界選では、スイムのスタートは世界ランキング順に呼ばれて、スタート位置を確保して、同時スタートになります。

 

ルールでは、水温は20度以下だと保温性や浮力が発生する基準に沿った厚さのウエットスーツの着用が許されます。スイム終了直後のウエットスーツを脱ぐトランジションのテクニックが要求されます。水温が21度だと伸縮性に優れた立体裁断のライクラー素材のワンピースのトライアスロンスーツでの競技となります。ワールドシリーズと世界選とアジア大会は、ナショナルチームのスポンサーのNTTロゴと、所属チームスポンサーロゴが入ったトライアスロンスーツで参加することになります。バイクとランでは、前側には規定の大会スポンサーロゴ入りのナンバーカード、ボディには転写式のステッカーのナンバーが張られます。

 

スイムを終了すると、ヘルメットとサングラスを素早く着用して、バイクを引き出してスタートラインを越えたら飛び乗る。バイクのペダルにはトライアスロン用の大きく開くバイクシューズをセットして、輪ゴムなどでバイクシューズが上を向いている状態にセットしておきます。バイクを推し進めながら乗車ラインで飛び乗って、バイクシューズに足を乗せてクランクを回しながら、片足ずつ足をバイクシューズへ滑り込ませて、メインのストラップを締めてしまえばバイクのドラフティングレースの準備完了です。

 

バイクのスタート時点で足を使って前を追って付くか、後ろを待って一緒に走るかの冷静な判断が必要です。トライアスロンのコースは平坦コースが多いので、大集団の力が大きく、小集団の逃げが成功しても、中盤から後半に先頭集団が追い付かれる可能性が高いのです。バイクのドラフティング走行は、前の走者が空気抵抗を引き受けるので、バイクの終了時点での見た目の差は小さくなるレースが多いのですが、集団走行の中ではパワーをカンナで削るような静かな戦いが展開されています。

 

時速40kmから50kmの集団走行を楽にこなせる、バイクの力を付けていないと、見た目は同時にバイクの40kmをフィニッシュしていても、バイクを終わった時点で乳酸値が上昇して、脚を使い切ってしまい、いくらランの実力があっても、ランで力を発揮できないパターンの選手もいます。51、5kmのトライアスロンバイクは、距離40kmのドラフティングレースなので、基本的にはドロップバー装備のロードレーサーです。ロングのトライアスロンで使われるTTバイクではありません。ドロップバーのみの選手もいるし、ブレーキレバーのブラケットの先端から飛び出さないルールに従ったDHバーをセットしている選手もいます。

 

ドラフティングレースの先頭に出た選手や、ドラフティング走行する選手がDHバーを握って走り、空気抵抗を軽減して走っています。DHバーポジションはグリップ位置を狭くして、空気抵抗を減らし、最大で時速0、5kmくらいのメリットがあります。しかし、ドラフティング走行の集団走行では、ふらつきや、ブレーキレバーを引いてスピードコントロールするまでに、ワンタイミング遅れることから、ドロップバーのみでブラケットを握って走行した方が追突や接触や転倒のリスクが少ないと、割り切っている選手も多くなっています。

 

自分の実力がスイム、バイク、ランでどこにいるのか。リザルトのスプリットタイムをチェックして、自分のレースイメージとの比較を行い。どの種目で差をつけられているのか、原因を確認して追いつき追い越すための強化ポイントを決めます。ジュニア選手の場合はコーチが解析して、トレーニングメソッドの具体的なアドバイスをすることも重要です。トライアスロンの苦手種目を無くし、3種目のトータルのバランスを高めるために、各トレーニングのバランスや、しっかりした強化の課題の見極めと、弱点を無くし、ストロングポイントをより伸ばす、対応する多彩なトレーニングメソッドの実行が必要になります。

 

スイムは水に浮いて泳ぐスポーツで、バイクもサドルとペダルとハンドルに分散して支えるスポーツです。ランのみが1Gの地球の重力を受けて体を支えるスポーツで、体重の5倍ぐらいの衝撃が背骨や関節に加わります。スイムが速くトレーニング時間が長い選手ほど、1Gへの対応が苦手な選手が多いのです。各種目で運動強度は同じでも、主に使う筋肉が変わりますから、3種目の運動の切り替えのトレーニングを繰り返し行わないと、切り替わるたびに思ったように体が動かなくてタイムロスします。スムーズにスイム、バイク、ランというトランジッションができません。トライアスロン独特のトレーニングとなります。

 

トライアスロンは3種目のトレーニングを自分の特性に合わせて、バランスを取りながら進める必要があります。心肺機能を向上させるLSDトレーニング、耐乳酸性や乳酸除去能力を高めるレジスタンストレーニング、トライアスロン独特のテクニックトレーニング、回復を早めるアクティブレストなどのバランスを考えたトレーニングが、トライアスロンで強く速くなるために必要です。ジュニア選手の場合は骨格の発達を抑制してしまうようなヘビーな筋力トレーニングより、自然の中をウオーキングしたり、自分の体重を負荷とするナチュラルウエイトトレーニングに取り組んで、動かせる筋肉を作るイメージでいいと思います。ではでは。