クマさんのバイク専科

ローラとレイナードのシャーシ

レーシングカーのシャーシ、昔は7000番台のジュラルミンや、溶接アルミの6000番台のアルミ合金製で、リベット止めやティグ溶接で職人の手で組み上げられていました。各チームの自社工房でレギュレーションに合わせてエンジニアが設計して、職人の手作りで製造されていました。常磐の上で作れるので、小さな工房でも手に負える範囲の仕事でした。補強が必要な時はアルミ合金板を切り出して、ティグ溶接でも対応できましたね。

 

コックピットは補強のバーやパネルに囲まれて事故の衝撃からドライバーを守るために作られていますが、クラッシュの大きな力で潰れて危険度が高い仕事でした。レーシングカーの設計レギュレーションとクラッシュテストは、ドライバーの命を守るための工夫の歴史でした。

 

カーボン繊維の成形品のシャーシに変わってドライバーの死亡率は低下します。もちろん設計レギュレーションの進化もありましたが、カーボン繊維の成型品の振動減衰性は、そのものが破断したりするときに大きな力を吸収して壊れてくれるのです。派手に壊れた姿はこれは大ごとと思わせるのですが、壊れることでドライバーを守る安全設計となっています。ヘルメットを思い浮かべればいいと思います。

 

エンジンや足回りをセットするシャーシは、最適な剛性バランスが重視されます。カーボンモノコックという製法で作られています。、カーボン製の布は30mくらいの長さに巻き取られて、メーカーから冷やされた状態で東レ、帝人、新日鉄化学、三菱などのメーカーから特性の違うカーボン繊維が届きます。冷蔵庫で保管されているカーボン繊維の布には、熱硬化タイプのエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグと呼ばれています。

 

カーボン繊維は繊維方向によって強度を発揮する方向性があります。強度を発揮するように、裁断するマシンへ入力して、無駄なく切り出せるようにパターンナーによりプログラムされて、レーザーカッターなどで設計図通りに切り出して、職人の手で型へ張り重ねられる。クラックの原因になる可能性がある、気泡をエポキシから抜き取りながら炉の中で熱処理して、一体成型で作られています。

 

マクラーレン規模のF1のコンストラクターはシャーシ製造と車の組み立てラインの大きな工場を持っているし、メーカーのファクトリーの中には、風洞実験室、車全体のデザイン部門、現場での実戦部隊、シャーシ製造、エンジン開発部門、組み立て、テストコースやF1

を開催できるサーキットを待っている場合もあります。

 

ヨーロッパはレーシングカー製造の歴史が長く、車のデザインを担当したり、CD値を減らす風洞実験室を持つデザインファクトリー、

ピンインファリナのようにトータル設計を請け負う会社もあります。

フィアットはフェラーリを傘下に置き市販モデルやレーシングエンジンの開発を担当して供給している場合もあります。

 

車体を開発するファクトリーやチームと、レーシングエンジンを契約先に供給する車メーカーもあります。コースワースのようにフォードのエンジンのチューニングとメンテナンスを行いF1へ供給するファクトリーもあって、メルセデスのエンジンのコースワースチューンモデルを市販したりしていました。ポルシェ、メルセデス、ブガッティ、アストンマーチン、ロールスロイスの公認チューンナップファクトリーもドイツやイギリスにあります。

 

ドイツの携帯電話のTモバイルのスポンサーはメルセデスで、エース級の選手には600シリーズが供給されていました。そのサポートカーは、大人しいはずの300Tの4マチックワゴンでした。KKKのツインターボ、不気味なカーボンホイルに、コンチネンタルの70の扁平タイヤ、ビルシュタインのショックアブソーバで、トーイン調整されて、超オーバーフェンダーに、エアロチューンされたものが供給されていてびっくり。カーボンのボンネットを開けて見せてもらうと、確かにアンモナイトが2つ収まっていました。200kmオーバーで追いかけているのに見えなくなって。ホテルの水道とコンセントは占領されて、洗車が行われていました。

 

カーボン時代のフォーミュラーカーのコクピットは別体で成型されて、ドライバーが運転姿勢で収まる箱が作られています。カーボンで取り囲んでいるだけでなく、ハニカムなどを埋め込んで、クラッシャブルゾーンを作っています。成型されたコクピットはあらゆる方向から衝撃が加えられるクラッシュテストを受けて、基準値に合格するまで改造が加えられます。

 

カーデザイナーがシャーシから設計して、空力を考えて外観も決められて行きます。それはF1のフォーミュラーカーも、耐久マシンも作り方は同じでした。アルミ合金の時代はアルミの板からの叩き出しという技法のものもあって、なんとも個性的な、セクシーなボディラインのレーシングカーがオフシーズンにシェークダウンしていました。

 

耐久マシンもポルシェとかメルセデスとか、名門チームのデザインや、盛り込まれた新メカニズムが楽しみでした。1年でそんなに進化することはないとは思いますが、何はともあれ、新車はある部分リセットされるので面白い、ファン注目の存在でした。

 

ポルシェなんか歴史があって、その実績をベースに、ほんの少しバージョンアップさせて参戦する年もありましたが、ルマンの24時間耐久を見に行ってびっくり。シェイクダウンの時よりノーズが30cmくらい伸びていて、エアインテークの形状も変更されていました。

エアコン装備になるのだそうです。

 

年末に発表された時には、例年通りの地味な変更点のみだったはずですが、さすがは耐久の王者。世界耐久シーリーズ開幕直後に別バージョンがあることが一部のプレスへリークされて、しかも、パリダカール仕様の959も追加発表されたのだ。959はノーマル車でも1億円近い、ミッドシップエンジンの4輪駆動車だ。どちらもパワステとエアコンが試験的に搭載されているという。

 

911の車高を上げて、4輪駆動にしたようなモデルだったが、徹底した軽量化と、転倒時の安全性が追求されていた。世界最速の砂漠マシンであることは間違いない。だけど砂漠にはそれなりの対応が盛り込まれていないと完走が難しい。砂から脱出するための軽量ラダーやスコップも用意されている。

 

スペアタイヤがどこにも載せられていない。砂漠用のランフラットタイヤの性能に自信があるらしい。本番ではどうなるだろう。フリーハブにはワンウェイクラッチが組み込まれている。ABS やトラクションコントロールやアクティブサスの搭載も検討されていた。

 

コクピットはミッドシップに置かれたエンジンの熱が放出されてすごいことになる。周回コースでドライバー交代できる耐久レースなら氷を入れたアイスボックスに入れた氷水を循環される専用のクールスーツでもいけるが、パリダカになるとエアコンの採用も必要なのかも。

 

酷暑の砂漠を2座席のミッドシップエンジンを冷却しながら走るのだから、水平対向のレーシングエンジンの耐久性も心配された。エンジンそのものの構造から低重心になるのは間違いない。初参戦のポルシェファクトリーチームながら、究極のエンデューロにもプライドをかけて必勝体制で臨むだろう。

 

ポルシェの本気度はチーム体制の発表でわかった。ラリーやF1のトップドライバーとアドバイザーが並び、サポートメンバーや、上空からルートをナビゲーションする高速ヘリコプターやプライベートジェット、移動する機材やスペアパーツまで、ロシア製の巨人輸送機のアントノフの格納庫へ並べて、全ての部門のメンバーをひな壇へ並べて、各担当のボスへの質問は自由という内容のプレゼンテーションだった。

 

参加するのは2台のパリダカ仕様の959だったが、サポート隊には4台のスペアカーが預けられていて、いつでも実戦投入できるように専属メカニックによって仕上げられているという。ライバルはシャーシから作られているという、速いし、信頼性もあるし、経験豊富な三菱パジェロの日本人ドライバーだという。

 

フォミュラーカーはアルミのシャーシからカーボンモノコックシャーシに変わると、オートクレーブというシャーシが入る大掛かりな熱処理炉の施設や、カーボン成型の技術を持ったクラフトマンのリクルートが必要になって、シャーシ開発できるメーカーが絞られた。

 

グランドチャンピオンシップも、フォーミュラーも日本のレーシンッグカービルダーは、レイナードかローラのカスタムシャーシを契約購入して、車を作るようになる。こうなるとエンジンメーカーとの供給契約、DC値を競争するカーボンボディのデザインのフラッシュサーフェース化に注力するようになる。

 

フォーミュラーカーのサスペンション構造は、ボディから外へ飛び出してむき出しなので、実は大きな空気抵抗になる。そのスチール製のアームには、イシワタのクロムモリブデン鋼のエアロチューブが採用され、ティグ溶接で組み上げられていたのだ。カーボンへの置き換えがレギュレーションで許可されるまでこれだった。

 

何故か両社のカーボンモノコックシャーシの開発や量産は遅れた。仕方なしに去年のモデルでトレーニングが行われる。チームのスタッフは1年間その車でシリーズを戦っているから、コース毎のデータが蓄積されているし、タイヤの特性もわかっているので、コースレコードを出しちゃったりするのだ。新型シャーシの到着が遅れに遅れてもこれでいけると思えるほどだ。

 

シーズン開幕寸前になって、ローラもレイナードも新型が到着して、大急ぎで組み立てられて、サーキットで次々に各チームがシェイクダウンするのだ。この世界は新型が届けば採用せざるを得ない。理由は新型だからだ。もしかしたら他チームが新型でとんでもない走りをしたら置いて行かれてしまう恐れがある。ところが実際には深―い闇が広がっていることが多いのだ。

 

一からデータの取り直しだし、エンジンメーカーとの打ち合わせもないままだから、パワーアップしているのに剛性不足で伝わらないとか、コーナリング性能が出ない、サスペンションとタイヤとの相性が悪いということが、走り始めてわかってくることもある。去年のマシンにタイムが叶わないので、開幕戦は旧型で走ったチームが多かったこともある。

 

シーズン序盤に新型は全く上位に入れないという、とんでもない開幕からのシリーズになって、未成熟なカーボンシャーシをつかまされた有力チームはもがき苦しんでいると。さらに納品が3ヶ月も遅れた弱小チームの車が突然設定が決まったのか、速くなった。

 

各チームのメカニックがパドックへ行って見ると、シャーシメーカーが不具合を指摘されてランニングチェンジされていたのだ。カーボン繊維のプリプレグの積層する枚数が増えていたり、補強のリブが追加されていたという。

 

おかげで有力視されていたチームも低迷して、この年は大混戦になって、それはそれで年間チャンピオンシップも、製造者のポイント争いも面白くなった。、メカニックやデザイナーがどう頑張っても、素性の悪いカーボンシャーシの車はどうセッティングしても、どこかで破綻を起こして速くはならなかった。

 

この2社のシャーシは納品されて見ないとわからないと言われるようになった。有限要素法やコンピュータデザインにエンジニアの経験も加わっても、車を組んで走って見ないとわからない部分がカーボン製のシャーシにはあるんだね。

 

バブルがはじけてカーレース業界も大変みたいだけど、2社はどうなったろう。原型の市販車がかろうじてわかる500シリーズも、市販車ベースで改造しているのがわかる300シリーズは1シーズン走らせるのに50億円とか100億円と言われる経費が投入されるという。チームスポンサーは車メーカー、燃料メーカー、カー用品ショップ、電話屋さん、パチンコ屋さん、ゲームメーカーなどだ。金融関係は少なくなっている。

 

化石燃料をぶちまけて走る車のレースがどこまで続けられるのかな。もちろんハイブリット車も登場しているけど。EVや水素燃料カーレースというのも成立するのかな。サーキットはモーター音とインバーターの唸り音、そしてタイヤの摩擦音が響くだけになると、ラジコンレースみたいになるだろうな。今年のバッテリーと新型モーターは調子いいねなんてね。