クマさんのバイク専科

真夏のサイクリングサーカスの思い出!

ドイツの各地のクリテリウムを転戦するランドハート・コカコーラトロフィという1ヶ月で22戦を戦っていた。1日のサポートカーでの移動距離は200kmとか300kmなら近い方で、時には東京―大阪の距離を超えての移動日もあった。移動とレースの連続で選手もスタッフもタフでなければ生き残れない。プロのクリテリウムは2周に1回、周回賞の賞金がかかるので、逃げやゴールスプリントのレースの見せ場が多い。ツールやジロに日本人ジャーナリストは来ているけど、クリテリウムでは見たことない。トップスターも参加してお金を稼ぎに来ているし、ファンが選手と交流している場なんだけどね。

 

さいたまクリテのようにポイント賞とかじゃないので、その瞬間だけスピードが上がるのではなく、普通に2周逃げとか、10周逃げで賞金稼ぎが飛び出す。単独逃げ。集団逃げ、所属チームで逃げたり、追い上げたりのめまぐるしい展開になる。何せ脚は本物ばかりだから、そのスピードは半端じゃない。本気で賞金を取りに行っている。10周も先頭で通過したら、5回は周回賞を獲得して、25万円の稼ぎになる。10日間頑張れば250万円、20日頑張れば500万円になる。アマチュアにもそれなりの賞金が用意されている。

 

主催者の周回賞に、商店やデパートや車のディーラーなどから、追加の賞金が上積みされるので、レース展開は日本のクリテリウムとは全く違って動きがある。200人の賞金稼ぎが街のメインストリートで戦っているのだ。観衆は少なくて5万人、多いと30万人ということもある。見物はもちろん有料だ。プロ選手には大会の主催者が用意した豪華な観光バスが用意されていた。200人の選手がバスに乗って移動して、機材を搭載したサポートカーも一緒に走って付いて行くか、先回りして指定のホテルやペンションで待って準備している。

 

所属チームのスタッフが雇われてサポートしていたり、主催者とスターティングマネーやホテル大、交通費を個人的に契約しているプロ選手もいる。プロのレースは夕方から始まって、走行距離は100kmくらいだ。主要な都市の中心地の道路を2kmから3kmほど閉鎖して、35周のクリテリウムのコースになる。アップダウンのあるサーキットレースの場合は、広場や教会のある丘を周回するコースで行われる。1周5kmくらいの街の中心地で20周が開催される。

 

レースの開催時間は、学校の授業が終わる3時か4時に、前座のアマチュアレースが始まり、小学生の学年別、中学生、高校生のクラス、エリートアマチュアのクラスのシリアスなレースがあって、8時頃には真打のプロ選手のレースが始まる。平均時速は50kmくらいで、地元ドイツの選手が逃げたり、地元のエリートアマが加わって、前を泳がしてもらって声援を受けて盛り上がる。そういう時の集団の速度は45kmくらいに落ち着いて、脚を溜めている。興行のレースだから地元を盛り上げる展開がプロ選手が演出するのだ。

 

もちろんツールで上位入賞している選手たちが参加している、イエロージャージも、ポイントも、新人も、赤玉ジャージも平坦コースなのに参加して賞金やスターティングマネーを獲得しに来ている。その年のチャンピオンはグレッグ・レモンだった。ドイツの平坦のスーパースターは、ドイチェテレコムのウルス・フロイラーだった。世界選のポイントチャンピオンだ。オーストラリアのダニークラークというドミフォンの5年連続世界チャンピオンもいる。イタリアのマリオ・キエーザ、マリアンヌ・バッソ、フランスチャンピオンのローナン・パンセックもいた。見た顔ばかりが集まっていた。

 

1レースの優勝賞金が700万円、2周に1回の先頭通過の賞金が2万円から5万円くらいで、コースにラウドスピーカーが設置されていて、商店からの特別周回賞の賞金がかかったことが、観衆や選手に知らされてグッと集団のスピードが上がったり、アタックがある。クリテリウムの集団の速度は、アタックを吸収するときは半端じゃない。時速60kmをはるかに超えて、数分間落ちなくなる。数人で逃げていても、あっという間に吸収されてしまう。興行的な要素が大きいのだが、トッププロが本気で走るとやはりすごい。

 

さいたまクリテみたいに、スターティングマネーだけではないので、甘いレースではない。プロレス的な要素の見せる展開もあるけど、本物の脚がないと、賞金のかかったレースでは、本気の力も見せないと、観客は満足してくれないし、主催者がお金を払って呼んでくれなくなるし、脚を見せないとプロ選手の展開の相談にも入れてもらえない。パンクした場合は1周がニュートラルになって、ホイール交換でトップ集団へ復帰できる。狭いコースなのでニュートラルカーもサポートカーも走っていない。審判車だけが走っている。

 

こんなレースをフェンス越しに毎週何度も見ていたら、子供達が憧れるに決まっている。大人はビールやワインを片手に、焼きたてのソーセージをぱくつきながら、20回も30回もトップ選手の走りを見物できるのだ。上りやステージレースと違い、何度も観れるのが嬉しい。しかも、賞金のかかっている周回のたびにゴールスプリントや、アタックが見られるのだから面白くないわけがない。2時間ほどでレースは終わり、トップレーサーたちや、地元のエリートアマチュアが汗まみれでフィニッシュしてくる。

 

5万人とか30万人とかの観衆がコースのフェンスを取り囲んで見物している。日本の主催者発表の信ぴょう性のない数字じゃなく、チケット実売数だ。チケット売りが来て、1800円くらいの料金を徴収して、胸や肩に粘着ノリ付きのチケットを張ってくれるのだ。このお金が賞金になったり、スターティングマネーになる。そのほかにもイベントスポンサーがあるのだ。宣伝キャラバン隊の車が、レース中にコースを走ってノベルティグッズなどを配っているし、街の商店やデパートから周回賞も賞金がかかり、クリテリウムには2億から6億円ぐらいの莫大なお金が動いている。

 

チームマネージャーは、交通費、ホテル代、スターティングマネーの交渉をして、周回賞の賞金とか、優勝賞金を主催者のマネージャーから、レース直後にお金を受け取るのだ。そして、来年のスケジュールを聞いて、参加表明したり、今年の活躍ぶりや人気具合をアピールして、価格交渉して仮契約して解散となる。その間に選手は、汗まみれのジャージ姿で、広場に特設された夕食のテーブルについて、ミールクーポンを1500円くらいで手に入れた一般の客と、一緒に混ざって夕飯を食べてファンサービスをしているのだ。さっきまで目の前を走っていた、マッサージクリームの匂いのする選手と楽しい時間を過ごして、12時ごろには解散して、祭りの後のように、静かな広場に戻って行く。

 

主催者のスタッフはトラックに乗って、フェンスをどんどん回収して、12時過ぎには片付けられて、各種のゲートも空気が抜かれて回収されて、明日のレース会場へ向かって先乗りして行くのだ。選手は夕食後に体を拭いて着替えてバスに乗ってホテルやペンションへ移動する。選手のスタッフはバイクやウエアを回収して、移動した先で洗車や整備をして、移動中に食料を調達して、食べながらの移動になる。ウエアはホテルやペンションの洗濯機で洗って、次のレースに備える。これがサイクリングサーカスのプロのお仕事だ。

 

日本のクリテリウムも、スターティングマネーを抑え気味にして、周回賞がかかったり、優勝賞金が大きくなったら、もうちょっとレース展開が活性化するかもね。それにファンサービスという面でも、ミックスゾーンを作って選手を身近に感じたり、ミールクーポンを販売して、夕食をプロ選手と一緒に食べられるとか、ファンサービスしたら盛り上がるんじゃないかな。ヨーロッパではそれが普通だよ。ではでは。