クマさんのバイク専科

木リムを組ませてあげたい!

プロのメカニックでも、今時、木のリムをホイールに組み上げるチャンスはほとんどない。日本で現役の木リムを手に入れられる機会はほとんどないからだ。昔はフランスのスーパーチャンピオンとか、イタリアのブルザッティがあったが、現在はジョバンニくらいだ。1950年代のヨーロッパのピストやロードレースでは、20mmから25mm幅の3段巻きの木リムが採用されていました。木材を板にして重ね巻きして型に入れて丸いリムを作り、専用のろくろに固定して削り出して製造していました。

 

完組みのホイールが主流になって、ロープロファイル、ミッドセクション、ディープリムと揃っている、ヒルクライム用、平地向き、オールラウンダーと、目的や使いたいタイヤの構造にに合わせて選ぶことができる。手組みのホイールが必要かと問われれば、それでも乗り心地、ショック吸収性、振動減衰性、グリップ力、パワー伝達効率、加速性、転がり特性などがぴったりのがないなと感じた時に、手組みホイールを選ぶことになる。

 

難しく考えないで、スタッフに手伝ってもらって、リム、ハブ、スポーク、ニップル、フリー、スププロケット、タイヤやチューブを選んで、単純に信頼できるメカニックが組んでくれた、手組みホイールが欲しいなでもいいんだけどね。でも、現在のスポーツサイクルシーンでは少数派であることは確かなことだね。完組みホイール派が90%、手組みホイール派は10%いるかなというところだ。

 

完組みホイールは、リム、ハブ、スポーク、ニップル、フリーボディなど設計者が思い通りのデザインで製造して、組み上げることができる。スポーク本数、エアロスポーク、ストレートスポーク、スポークの素材、スポークの組み方、スポークテンションの調整、ニップルの形状、ニップルの素材、リムの素材、リムの形状、リムの重さ、ハブのフランジ幅や径、ベアリング形式、ハブの素材、ハブシャフトの素材など、自由に選ぶことができる強力なライバルだ。

 

手組みのできるメカニックは少なくなっている。前輪と、後輪の左右のスポークの長さを、リムの高さ、ハブのフランジ径や幅、スポークホール数を元に計算できる人も少なくなっている。スポークやリムを取り扱っているところでも、トラブルになりやすいので計算してくれなくなっている。手組みホイールの素材の選択肢も狭くなっている。今後ディスクブレーキッしようも増えてますます選択肢が限られてくる可能性が高いと言える。手組みのテクニックとして木リム組みを引き出しの1つとして経験して、できれば100kmくらい乗ってみて、木材の振動減衰性のすごさを体験して欲しい。

 

スポーツバイクは、パーツやフレームの、何度かの大きな規格変更や素材の革命があって発展している歴史があります。1950年当時のスポーツバイクのリヤエンド幅は110mmと120mmでした。ロードレースでも固定ギヤの上り用と平地用のギヤを左右に付けて、裏返して使うダブルゴグで走っていました。フランスのユーレーとか、サンプレックスのスライドシャフトタイプのリヤ変速機は60年代で、3・4・5段フリーが採用されていました。カンパニョーロのパンタグラフタイプのグランスポーツも60年にリリースされました。その頃にはアルミ合金製のリムに変わっていますが、タイヤはチューブラータイヤです。

 

木リムはアルミ合金リムが開発されると軽さと強さで淘汰されました。アルミリムメーカーはアベア、スーパーチャンピオン、マヴィック、シェーレン、ニジー、アンブロシオ、カンパニョーロ、FIRなど色々ありました。それでもどういう用途があるのか、今でもイタリアのコモ湖の湖畔のジョバンニの工房で職人が、26インチ、24インチ、700Cサイズを手作りしているのだが、年間の生産量はわずかで、実用的に現在でも使えるのは、ハブのフランジ幅が広い前輪だけだ。千葉洋三氏の工房でカーボンディスクホイールを製造していて、僕も数枚重さの違うモデルを手に入れていました。そのリムが木リムでした。

 

そのディスクホイールのリムに採用されていたのが数種類の木材だったのだ。重さとともに強度も必要なので、ブナ材や桜材が採用され、究極の軽量モデルはバルサ材が採用されていた。次に登場したのがコンプレッションホイールで、クロモリのチューブのスポークに、ブナ材の木リムが組み合わされていた。だけど千葉氏がどうして木材にこだわるのか分からなかった。木材はローテクな天然素材で、ノスタルジックを感じて使っているのかとも思ったが、そうでもないらしい。

 

千葉氏に使ってみればわかると言われて、ジョバンニの木リムを組んで乗ってみることにした。初めて木リムを組んだ時はリムの暴れっぷりに驚きました。アルミやカーボンではありえない動きです。カンパニョーロのカセットフリーハブ36穴を見つけて、試しに前後輪組んでみました。スポークはサピムのCXレイというブラック仕上げのエアロスポークのタンジェント組みで仕上げました。その時、千葉氏からは、後輪は木リムでは支えきれないと思うよと言われていたのですが、やってみないと分からないタイプなので、あえて組んで乗ってみました。

 

組み上がったホイールを前後にセットして、走り出してすぐに後輪はぐにゃぐにゃで止めました。クランクを踏み込むたびにリムが変形してパワーロスするし、コーナーでバイクを倒し込むとグニャリとくるし、ダンシングではより大きく変形して、走ることができませんでした。後輪にカンパニョーロのボーラ50mmをセットして走り出しました。前輪に不思議なショック吸収性というか、よく転がるホイールだなと感じました。しなやかなチューブラータイヤのせいだけではなく。木リムがしなやかに変形して路面の変化に追従してロスコンタクトしないのか、路面からの微振動も吸収している感じです。これが木材の振動減衰性の凄さなのだ、乗って納得だった。

 

イタリアでは木リム工房が何軒か生き残っているのをミラノショーで知ったが、今日本に供給されているのはジョバンニだけのようだ。関東地域ではアマンダスポーツが取り扱っている。千葉洋三氏は自らも木材リム作りを経験していて、色々な木材を採用してディスクホイールやコンプレッションホイールを製造していた。ジョバンニの木リム採用するようになって、工房にストックが置かれるようになって、なかなか手に入らない貴重品なので、1本が4年使えるとして、6本まとめて買って倉庫にストックしてある。ジョバンニのリムは剛性をアップさせるために千葉氏が断面形状をアップさせるデザインで発注して、入荷するようになっている。

 

ホイールを手組みするメカニックに是非木リムでホイールを組む体験をして欲しい。構造的にはニップルが外に出ているボーラシリーズのニップルを磁石で定位置に運んで取り付ける手間もも大変だが、木リムのセンター出しや振れとりは、同じ回数だけニップエウを締め込むだけではダメで、リムの剛性をスポークテンションで感じながら、リムの動きを確認して、ニップル回しの微妙な操作や、粘り強く、センター出しや縦横の振れ取りを、10分の2mmまで仕上げるまでのプロセスがここまで難しいホイールはないだろう。

 

20mmかける20mmにサイズアップさせている、リム重量は400gでスポークホール数は36穴のみ。700C規格だ。ニスのカラーは6年前は茶色だったが、現在は透明で、専用の真鍮製のロングニップルとニップルホールを補強するスチールワッシャー付きだ。後輪も何本か組んで見たが、カンパニョーロのハイローフランジハブも、カセットフリーハブになってからも、フリーのスプロケットが収まるおちょこ量の問題で、左右の剛性が違ってしまうし、フランジの幅が狭いので、ライダーの体重やペダリングで発生するパワーを36本スポークでも受け止められないのだ。クランクを踏み込むたびにリムは揺らぐは、ペダリングで生まれたパワーは逃げて行き、前に進む感じはない。コーナーでは左右の剛性の違いが怖くて踏み込めない。今にもポテチになってしまいそうだ。組んでは乗ってがっかりするという繰り返しで、後輪への採用は諦めた。

 

アルミ合金製のリムや、カーボン製のリムを組んだ経験があるメカニックも、木リムの仮組から驚くことになるだろう。ニップルを同じ回転数回して締め込んでいっても、一向にリムの振れが直らないのだ。仮組の段階で3cmも4cmも左右、上下にリムが揺れてしまうのだ。この暴れぶりはどう収まるのか理解できない。最終段階ではニップルを2分の1くらいの回転で調整して、10分の2mmくらいの振れに収めることができる。ジョバンニの木リムの材料は、イタリア産のブナ材だ。25mm幅の6m近い板が型の中に丸められて、3段に重ねられて接着されて、木リムの原型になる。専用のろくろにセットされて20mmかける20mmの四角い断面に仕上げられる。これがアマンダスポーツオリジナルモデルだ。

 

天然素材の木材だから、板の場所によって特性が違うので、リムに巻き上げれば部分によって当然ばらつきがある。同じ力でスポークを引っ張ってもリムの変形量が違ってしまうのだ。木リムの部分部分の特性を感じ取りながら、ニップルを慎重に締め込みながら、リムの縦振れや横振れをとっていく。一旦振れをとったホイールだが、木リムはストレスをかけるとしなやかに変形します。馴染みだしの人工的な力だけでなく、実際に走ってストレスをかけると、リムとニップルとワッシャーとの馴染みが出ると、またリムの振れが出るのだが、木リムホイールの場合は実装による馴染み出しの繰り返しが向いている。

 

木リムホイールはスポークのテンションを上げ過ぎても独特のしなやかな乗り味を失ってしまうし、弱すぎればホイールが変形してパワーロスしてしまう。ホイールを組んだことがあれば理解できると思うが、組んでいて、このくらいのテンションが上限かなという手への感触がある。これを軽量リムの時より敏感になって作業する必要がある。組み上がってからのメンテナンスも、スポークテンションの調整が定期的に必要で、路面からのショック吸収、よく転がる特性、これをキープするためにメカニックに点検してもらおう。このホイールに乗ってすぐに優しい乗り味に気がつくし、100km走ってみれば疲れが全く違うので、ついつい木リムを常用するようになった。今までの木リムホイール仕様の経験では、木材が4年くらいでへたってきて、カーボンの7倍と言われる振動減衰製によるショック吸収性が低下してくるので、3年半くらい使うと交換することにしている。

 

スキーの分野には、イタリアにブロッサムという競技スキーのゴーストブランド工房がある。自社ブランドスキーも市販しているが、実は有名ブランドの選手用のスキー板はここで作られているものがあるのだ。ワールドカップスキーで知り合ったエンジニアに連れられて、工房を訪ねると、これがうちの財産だと木材の乾燥保管場へ連れて行かれた。広いスペースに板が井桁に重ねられていた。何10年と熟成させた木を、新素材を固めたようなスキー板の心臓部に埋め込むのだ。

 

エンジニアは振動減衰性の測定器にウッドチップをセットして、ケブラーとカーボンの構造体との比較テストを見せてくれた。どう見ても7倍以上の数値を木材が示している。そして、その振動減衰性が、10回目のテストで低下していった。こうなる前にスキー板を交換するのだという。スキー板にマジックで線を引いていたのは滑走数による劣化を回数でチェックしていたのだ。スポークテンションがかかった木リムも、生き物で、だんだんしなやかさを失っていく。

 

フレッシュなうちは、スポークのテンションを調整するたびにシャキッと蘇ってくれて、パワーロスのない上質なフロントサスペンションとして機能してくれる。4年ぐらいで体感として振動減衰性の低下が分かるので、その前に交換している。スポークを切って分解してハブはまた使うのだが、スポークテンションから解放されたリムは円い輪に戻るが、ところどころ左右に変形しているし、ブレーキパッドとの摩擦で凹んでいる。自転車の教会のマドンナデルギザロの転写マークも傷だらけだ。ずいぶん一緒に走ったな〜、なんだか木リムはポイと捨てられない。ではでは。