クマさんのバイク専科

スプリンターが作ったペダル!

シマノのデュラエースのコンポーネントの開発コンセプトには時々基本的な規格を逸脱した製品が登場する。というより既成概念を持っている僕がカチッと突き当たっているだけのことなのか、この規格を崩してしまうのか、常識を崩して戸惑わせるのかと思っていた。だけど、よ〜く考えてみると、スポーツ自転車の歴史は、フレーム、コンポーネント、車輪など、常識を破ることで発展していたようにも思えてきた。自分で乗って体験しているのは、普通にショップで売っていて手に入れて、リアルタイムでは1970年代からの製品だ。

 

フレームの素材で言えば、ハイテンション鋼、クロモリ鋼、マンガンモリブデン鋼、ニバクローム鋼、アルミ合金、チタニウム合金、カーボンファイバーといった具合だ。幸いなことに競技用自転車は軽さと強度の追求のために、最先端素材と技術が採用されている。強度と軽さのバランスが究極まで追求されている。自転車パーツは単体での開発から、コンポーネントという考え方へ変わった。フリーの段数なんか5段から12段へと変わっている。変速システムもケーブルで操作するメカニカルに、電動変速機が導入されている。ブレーキもリムブレーキから油圧のディスクブレーキに移行しようとしている。

 

新システムを追いかけるのも重要だが、その元になった技術も知っておきたいと思った。1950年代、1960年代の製品もできるだけ手に入れて自分で組み立てて調整して乗っていた。だから、フランスのディジョンにあった、サンプレックスのJUY543とか、レコード60というスライドシャフトのリヤ変速機も手に入れて体験しているし、デルリン製ボディのダブルテンションのサンプレックスや、初期のシングルテンションのパンタグラフ機構のカンパニョーロのグランスポーツも、真鍮製ボディの後期の鉄製の丸プーリーのグランスポーツ、真鍮製ボディにデルリン製プーリーのレコードも乗っている。思っている以上に動いてくれることの方が多かった気がする。そりゃー40年も50年も昔の事とはいえ、実際のプロのロードレースに使っていたんだから、動いてくれて当たり前か。金属からの削り出しとかいい仕事していますね〜。基本的な構造は現在のものにとっても近い気もするけど、その重さたるやズッシリとくる。

 

クラシックパーツマニアなら、スライドシャフトのレコード60とかJUY543と、たけのこバネの伸び縮みの動きとか、サンプレックスのエンドに固定されたピカピカの金属製の本体が、テンションを取るために動く様なんか、たまんないだろうな、涙ちょちょぎれちゃうだろうね。だけど、マニアじゃないので、重い金属の塊だし、変速は思ったよりスムーズだけど、マジに手入れしながら2ヶ月くらい使ったら、内部に侵入した汚れで動きが極端に悪くなった。グランスポーツとい縦型のシングルテンションのパンタグラフ構造のモデルの方が変速の切れ味はいいし、実用的だった。構造的な革新が起こっているのを感じられる。

 

その当時の完成度の高いペダルの代表といえば、カンパニョーロのロード用のクイル型のペダルと、ピスト型のペダルだ。初期モデルはバレルはアルミでスチールプレートのメッキ仕上げでスチールシャフト、次がアルミ合金プレートのスーパーレゲロのスチールシャフト、トウクリップ&ストラップタイプの最高峰がアルミ合金プレートでチタンシャフトのスーパーレコードだ。3グレードのモデル共に共通しているのは、レコードペダルはスチール製キャップで、スーパーレゲロとスーパーレコードはプラスチック製のダストキャップで、純正のペダルキャプスパナで外して、玉当たり調整やグリスアップを、ハブスパナと純正のペダルスパナで確実にできることだ。最終モデルはクロウチェドーネだったな。

 

シマノもアルミ合金製のイカの頭のような形状で、特殊なボールベアリングと二―ドルベアリングを組み合わせて、テーパードのペダルシャフトを採用した、独特のデザインのペダルをリリースする。ペダル軸の中心から、足の裏が触れる踏み面までの距離をギリギリまで近くして、踏み込む足の安定感を体感できるロープロファイル設計を採用している。ペダル本体の開発のエンジニアがスプリンターだったので、ロードとピストの兼用ペダルとして開発しているので、ロードレースのコーナリングだけでなく、ヨーロッパの周長250m前後の50度越えのバンクで、スプリントで使っても、路面へ右側のペダルが接触しないロードクリアランスが確保されているのだ。

 

内側のクランクよりのボールベアリングの数が多く、真ん中にニードルベアリング、外側は回転部のボリュームを小さくするために数の少ないボールベアリングで構成されている。ボールベアリングは仁丹サイズと小さいが、クランクよりのカップで玉当たりの締め合せ調整やグリスアップを確実にできる。このデュラエースのトウクリップ&ストラップペダルは、路面に接触しないので、現在もヨーロッパのバンク角の急なところで戦うピストのスプリンターに人気があって、日本のケイリンに参加するたびに選手が予備のペダルやスチール製の3点止めの専用トウクリップを探しているという、数年前に相談されて探して届けたことがあるので、今だに選手からシマノに在庫を聞いてくれと言われることがある。廃盤になっているので幻の名品だ。

 

シマノは5アームクランクのセンターからクランクの位置をずらし、最も力のかかるアームの1本と一体化させて、クランクの剛性アップを計ってアシンメトリッククランクを、シマノaXシリーズに実現した。さらにこのDDクランクには、大きなペダル取り付けの穴が開けられて、大口径シャフトの片持ちベアリングのDDペダルを取り付ける構造だった。DDとはダイレクトドライブクランクというもので、ペダル軸の中心より、足が接触する踏み面を下にして、踏み込む足を安定させる構造という、実際にヨーロッパのロードレースにも実戦投入されて、片持ちのブーメランのような形状のアルミ合金ペダルで走った。ペダリングした感覚は、足は安定するが足首やふくらはぎとスネで支える感じが薄らいで、独特だったので、安定するという人もいれば、違和感を感じると、ライダーの評価は分かれた。

 

しかし、選手のパワーは開発テストのデータや想定を上回ていたようだ。予想以上の力がかかってアルミ合金製のペダルの外側が下がるという変形が発生したり、片持ちベアリング兼シャフトのペダルボディとの接合部の固定の緩みや、回転部のガタが発生して、箱一杯に予備ペダルと専用のペダルスパナを持って、現場で毎日のように点検や交換の作業が行われていた。数ヶ月後には片持ちベアリング兼シャフトと、スチール製の補強シャフトが追加された、踏み面がやや高くなったDDペダル改良型が短期間供給された。さらに、DDクランクの大きな穴に専用スパナでねじ込んで、通常のペダルをねじ込めるアルミ合金製のアダプターも市販されるようになる。

 

このアシンメトリックデザインのクランクは、旧型の4アームクランクになっても採用されているし、最新の4アームクランクでも踏襲されている。DDクランクとDDペダルは廃止されているが、ペダリングシステムのロープロフィール思想は、金属製クリートのSPD-Rや、ランスが関わったというルックデザインに近い旧型SPD-SL、SPD-SLのアルミ合金ボディも、SPD-SLの樹脂ボディーのモデルにも貫かれている。中でもデュラエースのSPD-SLは、ピストとロード兼用ペダルの時に開発された、ベアリングシステムとテーパードのシャフトの構造がほぼそのまま採用されている。このおかげで他のグレードのSOD-SLより、デュラエースは踏み面を1mm下げる設計にできている。長選手が開発エンジニアとして関わったペダルの基礎設計が、有限要素法によりシャフトの素材の見直しや、中空化などのリファインを受けて、現在も通用しているのだ。ではでは。