クマさんのバイク専科

彼らといったい何が違うのか!

日本のサイクルショップで2年とか3年メカニックをやって、カンパニョーロ、スラム、シマノの電動メカの組み立てと、調整と、トラブルシューティングがこなせて、シマノのDi2のプログラム変速のセットアップをこなせて、スマホにアプリをインストールしてプログラムの切り替えをできればいい。サイクルコンピュータの充電とかワイヤレスシステムの電池も管理が必要です。もうプロの世界にメカニカルのチームはない。そして、次はパワー測定クランクのO設定と、マルチのサイクルコンピュータとのペアリング、そして油圧ディスクブレーキのフールド交換とブレーキパッド交換、ローターとブレーキパッドの消耗の管理などの能力が必要です。

 

ヨーロッパのプロチームは大体20人以上の契約選手と、数人の練習選手で構成されて、メインのレースに出場する1軍と、2軍に分かれてレース活動します。2軍も休んでいるわけではなく、他のレースへ出場します。年間のレース数は80から130レースぐらいです。プロチームに所属するメカニックはチームと直接契約を結ぶチーフメカニックがいて、その知り合いのメカニックが四人から五人集められて、1軍と2軍に帯同します。メジャーなワンデイレースやステージレースでは、サポートカーが複数の場合もあります。

 

ビックチームは大型の機材トラック、選手移動用のバス、サポートカー3台、マッサーの機材車というような大所帯となります。メカニックの日常的な仕事は、ボトルの用意、補給食の積み込み、ホイールの空気入れ、参加選手のバイクの準備、レース会場までの移動、200kmのレースサポートです。レース中はボトルの供給、補給食の供給、ウインドブレーカーの供給、パンクした車輪の交換、バイクの交換、レース状況のラジオによる把握、逃げ集団とチェイス集団をサポート、フィニッシュすればバイクの回収、次のホテルに急行して、洗車と調整と充電場所の確保、山岳コースや平坦コースに合わせて監督や選手のオーダーに応えてスプロケットやホイールなどを準備しておく。

 

ステージレースは1日の移動距離が短いことが多いが、時々選手は列車や飛行機で移動ということがあるので、500kmとかいう移動がある日もあって、けっこうハードなことになる。部屋が変わると眠れないとか、車のシートじゃ休めないなんてこと言っていられない。正直言ってプロチームのメカニックですごいできる人は少ない。5人いたら技術も知識も、日本のサイクルショップのメカニックの方が上だと思う。では、何が違うのか。メカニックをやっている人のほとんどがロードレース経験が16歳の頃から本格的にやっているのだ。

 

クラブチームに所属して、OBたちがメカニックやマッサーやコーチとして活動している中でレースをサポートしてもらっているのだ。つまり、ロードレースで走るコースは、ツールのコースの一部だったり、メカニックが何をやってくれているのか、レース中にどんなサポートをしてくれているのかを経験しているのだ。レースの現場で誰が何をやっているのかを知っているか、知らないかの差は大きい。日本みたいにクローズドされたコースで、ニュートラルの機材車と審判車だけが走っているレースでは、サポートスタッフのインターナショナルなスタンダードは育たない。ツアーオブジャパン、ジャパンカップ、ツール・ド・北海道は数日間でつかれた〜と、真似事をやっているに過ぎない。

 

移動して、サポートして、移動しての繰り返しで、年に80から130レースこなせば、選手もスタッフも嫌でもタフにならざるを得ない。ヨーロッパ大陸の何処へでも移動できる能力が普通に身につく。言葉の問題も切実になって挨拶や日常会話くらいはできるようになる。会話ができなければ雇ってもらえるチャンスを掴むこともできない。でも、プロチームのメカニックにバラ色の生活があると思ったら大間違いだ、厳しい現実が待っている。報酬の問題だ。チーフメカニックがチームと契約して、アシスタント扱いが多く、契約も支払いも不安定だ。未払いという話も聞いたことがある。メジャーチームでも1シーズンで200万円以下ということも多い。

 

ヨーロッパで頑張ってみたいという人に、夢のない話で申し訳ないが、歴代の日本人メカニックが勤勉で優秀という評価はあるので、言葉の問題をクリアすれば雇ってもらえるチャンスはある。だけど長期間継続できないのは、この経済的に恵まれない環境が原因なのだ。家族を持って暮らすことができない。プロチームでメカニックとして継続的に働きたければ、コンポーネントパーツメーカーの派遣メカニックとして、現場の状況をレポートするスタッフとして関わる方法がある。日本の企業から年俸をもらってレース現場で取り組むので、これなら生活もできる。だけど、会社の方針で職場が変わってしまう可能性もある。

 

プロチームのメカニックは基本的に安い給料で働いている。サイクルショップを経営していても、シーズン中は週に2回のレースがあるので、お店のお客さんを構っている時間はない。なかなか両立が難しい。彼らと日本人メカニックとの差は、そのタフさの違いだ。そして、力を抜く場所を心得ていて、隙あらばぐーぐー寝ている。子供の頃から身につけたサポートスタッフに必要な緩急で、最初は真面目な日本人には馴染めない。そこら中で寝ていて怠け者に見えてしまうのだが、彼らはやるときにはスイッチが入ってやるのだ。必要なら徹夜で運転して、レース会場の街まで移動して、ちゃんと機材を準備している。レースサポート中には居眠りしていても、監督は許していて勝負所になると起こしてくれる。常に張り切っていたら確かに疲れちゃうもんね。汚れたバイクを洗車する方法だって、時間の節約から生まれた合理的な方法なのだ。

 

プロチームのスタッフの動きを見ていると、もっとこうした方がいいのにと思うこともあるけど、いずれにしても作業が早い、合理的に機材のメンテナンスを終わり、点検をして、リスクのあるパーツはとっとと交換する。機材がどう変化しようと、合理的な方法を見つけ出して対応している。レース会場に行くと、彼らの機材トラックの中と、工具箱の中身と、補修パーツのケースを見せてもらうことにしている。バイクの傾向が一目で把握できるからだ。ではでは。