クマさんのバイク専科

陸連は鉄剤注射を禁止の方針だそうです

先日の陸連のスタッフの会見は、ドーピングにも等しいという鉄剤注射を、好ましくない行為として取り締まる方針を打ち出しました。一般的にはショッキングだったと思います。鉄剤注射を禁止したいというものでした。現在IOCやJOC などのドーピング禁止ルール違反ではありません。貧血の治療薬としてというより、有酸素運動の能力を保ったり、強化するために赤血球の素材になる鉄剤を定期的に注射するというのを、監督やコーチに指導されて女子のマラソンランナーや駅伝ランナーが常用しているケースが多いそうです。

 

アスリートは定期的に血液検査したり、不調を感じた時にも検査して、白血球数、赤血球数、ガンマGTPなどの数値など、10項目から30項目ぐらいチェックしてもらい医師や管理栄養士にアドバイスしてもらっています。スポーツドクターにトレーニングの効果や、疲労の蓄積の状態を評価してもらうこともあります。もちろん男子ランナーも貧血対策ということで鉄剤の注射の経験があるアスリートが存在しました。トップアスリートは管理栄養士がサポートするようになって、食事内容も摂取される栄養素も改善されていますが、それでも男子も女子も10%近くの選手が貧血気味で、その原因はハードなトレーニングによる赤血球の破壊が原因と言われています。

 

それに、余計な筋肉を付けたり、体脂肪を付けるとパフォーマンスが低下してしまうというランナーの世界では、ギリギリのダイエットが行われていますから、食事の内容だけでは栄養の摂取も、バランスを欠いている部分がいまでもあるそうです。その重要な栄養素の1つが赤血球を作る鉄分です。通常の生活環境なら赤血球を破壊するほどの刺激はないので、赤血球は寿命を全うして分解され新しい赤血球と入れ替わります。体内に天然に存在するエリスロポエチンや鉄分を素材に、骨髄による赤血球の生産のサイクルが間に合っているわけです。

 

ところが究極のパフォーマンスを追求するアスリートは、高度なストレスや衝撃が繰り返し加わり、体の生産量を上回る赤血球の破壊が予想以上のスピードで進行して、積極的に赤血球の素材の栄養素を補給しても間に合わず、貧血症状に陥ることがあります。極度の疲労から増血機能が低下したり、慢性疲労に陥ることがあります。これは男子でも女子でも同じです。陸上競技のマラソンでは、有酸素運動の向上やキープが競技力向上に直結するので、ドーピングのカテゴリーに入っていない鉄剤の注射は合法的な状態で、普通に医師に相談すれば対応してくれます。血液が専門の医師や、ドーピングについての基礎知識があるスポーツドクターなら、選手の貧血対策やパフォーマンスキープに、ドーピングルールを違反しない合法的な方法として認識されている方法です。

 

ところが、貧血の治療現場でも報告されているように、肝臓の疲労、食欲の減退、倦怠感の発生、便秘、多臓器の不全など、色々な副作用も発生しています。毎週のように鉄剤の補給が繰り返されるアスリートの場合は、鉄剤投与による副作用が深刻になっていることが報告されているそうです。アスリートの貧血と治療と有酸素運動のパフォーマンスの問題は、食事やサプリメントによる競技力向上とともに、ずっと昔からスポーツドクターや管理栄養士の間では知られていて、副作用などの現状報告のデータは、スポーツ競技団体の強化スタッフに報告は昔から上がっていたはずです。これまで規制しなかったのは何故なんでしょう。

 

陸上競技団体やマラソンや駅伝のチームでは、パフォーマンスアップやキープには、ドーピングのカテゴリーには入らないので、必要悪として黙認されてきたり、監督やコーチにより推奨されていた感じがあります。長い間放置してきたことが今やっと表に出たということのようです。赤血球は酸素と結びついて、血管を通って筋肉細胞内の、運動エネルギーを作り出すミトコンドリアへ酸素を供給して、グリコーゲンを分解して筋肉線維を収縮させる有酸素運動を行います。高度な有酸素運動といえば、やはり赤血球数の増加がパフォーマンスアップにつながります。

 

体力的な負荷が大きいけど、ナチュラルで急激に赤血球数を増加させることができるのが、高地トレーニングや低酸素室でのトレーニングです。負荷の調整とか残留乳酸値による疲労の度合いのチェック、赤血球数のチェックなどで管理して、試合当日にトレーニングの疲労を脱してパフォーマンスを発揮するように、サポートが必要になります。高度な有酸素運動で思い当たるのが自転車競技で、貧血治療薬の人工的に作ったエリスロポエチンとか、ダーベポエチンなどを投与して、血液中のヘモグロビン値を上昇させて、酸素を運ぶ量を、医師やトレーナーにより管理された適度な強度のトレーニングを行なって増大させて、有酸素運動能力を高めるというドーピングの手法が横行していました。

 

同時に赤血球の素材になる鉄剤の注射も医師が関与して行われていたはずです。鉄剤はおそらくフェジンという小さなアンプル材で、一般的な貧血気味の患者さんなら、鉄剤を錠剤で口から摂取することになります。ところが鉄剤は食べ物の味を変えてしまったり、吸収する内臓に負担をかけて、食欲をなくしてしまうこともあります。アスリートの場合は、それを警戒して血管へフェジンを注射して、体が吸収して一旦体内に貯蔵されて、2ヶ月から3ヶ月後に赤血球になるというのが普通のパターンだそうです。エリスロポエチンやダーベポエチンは、赤血球を作ることを促進させて、通常ではなかなか到達できない血液中の赤血球数へ増加させます。

 

酸素はより多く運べるようになりますが、血液中の要素で赤血球の大きさと数の多さは、ドロドロ血液の原因になります。するとどうなるのか、毛細血管や枝分かれした血管、コレステロールによる血管の狭窄などが重なると、血栓を引き起こしやすくなるのです。体を動かせなくなったり、命に関わることです。さらに怖いのは、発汗により血液が水分を失う可能性が高い季節の走りです。ドロドロ血液の濃度は高まり、血栓の可能性はより高まり、高いレベルの有酸素運動を続けると、心拍数が上昇しますが、ドロドロの血液を押し出すことになるので、心臓への負担も大きくなり、心筋の疾患の可能性も高まります。

 

やっと陸上競技団体がグレーゾーンに踏み込んだことは評価できます。でも、こいう情報をマスコミを通じて発信するなら、副作用があるから禁止したいという方針だけを打ち出すだけでなく、マラソンや駅伝の選手の貧血は現実問題として存在するので、世界のトップ選手たちは調査の結果どう対応しているとかの周辺情報も必要ですし。日本の場合は、具体的にスポーツドクターはこんな対策のノウハウを持っているとか、こう対応するといい、などの情報を持っていることを発信をしなければ、選手やコーチや監督を不安にさせるだけです。きっとやっているんでしょうけど。センセーショナルな言葉だけがピックアップされて、選手ファーストな部分は伝わってきませんね。ではでは。