クマさんのバイク専科

51、5kmのトライアスロンの男子と女子の差はなんで!?

2000年のシドニーオリンピックで51、5kmのトライアスロンが正式種目に採用されました。日本の女子選手の51、5kmのトライアスロンのパフォーマンスは、アジア選手権では圧倒的な力を発揮していましたし、2000年のシドニーンオリンピックへ向けて、世界を転戦するワールドカップシリーズでは上位入賞できるまでにステップアップしました。男子は日本のNTTシリーズを連覇していた中山選手時代から、シドニーオリンピックの出場権のかかるワールドカップや世界選手権でも、20位から30位前後から抜け出せませんでした。

 

2000年までの数年間のワールドカップや世界選の戦績を見ると、51、5kmのトライアスロンのルールは、バイクのドラフティング走行が許可されて、トライアスロンのレース展開が変わりました。アイアンマンのロングディスタンスはペナルティ、または失格というルールがキープされています。51、5kmのトライアスロンは、それまでのバイクドラフティングの禁止によるルールでのペナルティストップや失格がなくなりました。

 

スイム得意の選手が続々と51、5kmのトライアスロンに参入しました。日本は競泳の環境がいいので、日本選手権のファイナルに残るような選手が参入して、バイクまではトップの小集団で逃げて、逃げ切ったりしてスイム得意の日本選手が健闘していると評価されたりしました。しかし、トライアスロンの周回コースは平坦が多いので、大集団の優位性が働き、バイクの後半でトップ集団を追い込み、ランに突入してするというのがスタンダードな展開になりました。選手の特性に合ったレースマネージメントや、3種目のレースを解析して世界との差を認識したり、苦手種目を特定して、勝てる力を付ける強化が必要です。

 

スイム得意の選手ほど、心肺機能や耐乳酸性もあって、1発のランに耐えて走ることができる場合もありますが、体幹で体を支えるランが苦手種目になりやすく、ラン強化のために走り込むとケガをしやすい傾向が見られます。バイクも世界レベルと比較すると、見た目は一緒にバイクフィニッシュしていても、明らかにバイクの力は劣っていてダメージを受けています。スイム得意の選手の20人から30人に1人が、ランも走れる可能性があります。現実にトップスイマーでバイクもランも強いオールラウンドな選手が世界のトップを争う選手には登場しています。

 

ワールドカップや後のワールドシリーズ戦で、日本の男子選手や女子選手が優勝したり、トップ3に入賞したりするようになりますが、その大会に参加したメンバーによるレースの難易度がどうだったかを、冷静に解析する必要があります。特にオリンピックの国別枠の獲得ランキングにより、1国の参加人数を決める対象レースの最終戦までの参加メンバーは変わります。だから、対象外になるオリンピックまでの空白期間のワールドシリーズの上位入賞などの戦績は、日本選手のレベルを確認するのにあまり参考になりません。

 

各国の有力選手は、各国の競技団体が決めたオリンピックや世界選代表選抜ルールに沿って戦っています。ワールドシリーズのポイントランキングデ10位以内で、その国の1位なら自動的に代表になるとか、国内選手権の1位など、その国の代表を決める国内選手権に集中したり、代表入りが決まっていればリコンディショニング期間に入ります。世界選やオリンピックや、ワールドシリーズのポイントランキングの上位ランカーが出場するレースでは、日本の男子選手の順位は10位以内に生き残れるのはまれで、やはり30位前後が定位置でした。

 

日本人選手が上位入賞しているワールドカップやワールドシリーズは、確認してみると、参加する選手のレベルが世界選やオリンピックとは違います。51、5kmの世界選やオリンピックには、アメリカ、ヨーロッパ、オセアニアの強豪国の各代表3人が参加するので、日本人選手の男女の世界でのレべルは、男子は30位前後が1980年前後から日本人選手の定位置でした。2000年以降は女子は10位以内に入るようになりました。

 

2000年ごろのレースフォーマットはショートトライアスロンで、スイム1、5km、バイク40km、ラン10kmで実施されていました。最近では半分の距離のスプリントも実施されています。日本の男子のレースも日本の女子のレース展開は、スイムでは1分から1分半以内の差でフィニッシュ、バイクまでトップ集団や第2集団に混ざってバイクフィニッシュして、見た目はタイム差がなく同じように見えます。スイムでの1分半の差は、上位入賞できる可能性を残すぎりぎりの差です。

 

では女子が10位以内に入賞している原因は何でしょう。日本の女子選手で上位入賞しているのは、スイムではまあまあの力を発揮して、バイクの強さに原因があります。世界のトップ20位に入る選手と比較しても日本の女子選手のバイクの力はトップ10に入る強さです。これがトライアスロンの40km、平均時速40kmの集団走行で脚を消耗しきらず、日本の女子選手がランの強化をしてきた成果を生かして生き残れる原因です。

 

そんな、表彰台に上れる可能性がある女子選手でも、スイムで1分半以上出遅れると、バイクフィニッシュまでに追い上げるために脚を使ってしまい、世界のトップに近いランの力があっても、ランでの切れ味を失って上位入賞を不可能にしています。スイムのバトルに巻き込まれ、出遅れしやすいので日本の女子選手の成績のばらつきの原因になっています。51、5kmの半分の実施距離のトライアスロンで日本の女子選手が安定した成績を残しているのは、スイムのバトルの影響を受けにくい可能性があります。

 

男子は女子よりスイムのタイム差がシビアで、スイムが速く、バイクもランもそこそこ走れるメンバーが10人くらいいると、時速45kmくらいでの逃げ切りにチャレンジする可能性もあり、スイムフィニッシュで1分差があると、第2集団での追い上げとなり、終盤の追い上げの対応でダメージを受けて日本の選手の上位入賞の可能性が低くなります。それでも、トライアスロンのバイクコースは周回コースで、地形的に平坦コースが主流で、コーナーがあってもロードレースと比較するとタイムトライアルやサーキットレースのようなイージーコースで、集団によるドラフティング走行の優位性があるコースで実施されています。

 

つまり、スイムを速くフィニッシュした小集団の空気抵抗を受ける回数が多くダメージを受けやすい逃げには不利なコース設定なのです。周回コースの折り返しなどで、逃げ集団や後方のチェイス集団は相手との距離を確認できるコース設定が普通です。中盤や後半になると後方の大集団がスピードを上げて、逃げ集団を吸収するというのがパターンになっています。例え逃げ集団がバイクフィニッシュまで逃げ切っても、小集団出の逃げで先頭に出て空気抵抗を引き受けた脚への負担は大きく、ランのための脚の力を数分分削ぎ落とします。1分差以内で第2集団がフィニッシュしたとすれば、集団内でドラフティング走行してきて、脚のダメージが少ない、レース中に10kmを30分で走る、ラン得意のアスリートが有利になります。

 

日本の男子選手が第一集団に入ってフィニッシュしていれば、積極的にバイクを展開したと褒められるでしょう。でもね、トライアスロンはランフィニッシュしてなんぼです。バイクのドラフティング走行は後ろについて走れば10%から30%楽に走れます。バイクの力の差があってもどうにか付いて走れるから、バイクフィニッシュでの見た目は一緒にフィニッシュできます。でも、バイクの力がある、ランの力を残したトップアスリート達と、ランの単独なら同じような力がある日本選手とのフィニッシュ時の状況はまったく違います。バイクのスピード差を埋めるために脚を使っていて、ランに入ってからずるずると後退する可能性が高いのです。

 

第2集団でフィニッシュした日本人選手も、徹底してドラフティング走行して脚を貯めていても、バイクの力にゆとりが無いと、ランが得意の10kmを30分前後の同時にバイクフィニッシュしたトップ選手達のランに対抗できません。前の集団でバイクフィニッシュしてもダメージを受けているし、第2集団でフィニッシュしても、その結果が20位から30位前後の順位なのです。まるで見た目はバイクの40kmのフィニッシュが一緒に見えるので、バイクはランへの橋渡しのように見えてしまいます。つまり、トライアスロンはランの勝負に見えてしまうのです。

 

日本の男子選手の成績を見て、強化委員の解説者も「ランの強化に心がけて頑張ります」みたいな解説をしていました。日本人選手のランはキロ3分に到達しています。ランだけなら世界と勝負できる可能性は十分にあります。もちろん29分台、できれば28分台の持ちタイムを実現して、さらにバイクの力を強化すれば、日本の女子と同じような常時入賞、あわよくばメダルの可能性を感じる走りができるようになります。

 

ただし、日本の男子トライアスロン選手のバイクの力は、タイムトライアルやロードレースの全日本選手権で上位入賞できる力まで上げないと通用しないと思います。日本のトライアスロンのコーチングスタッフは、海外チームとの交流トレーニングで、バイクを一緒に走れているから大丈夫と思えているかもしれません。でもバイクの力を海外のトップアスリートと、マジの40kmのタイムトライアルの単独種目でバイクの力を比較してみたことあるのでしょうか。

 

最近はパワー測定できるクランクシステムがあるので、ライダーのトレーニング中やレース中の出力データで簡単にバイクの能力を比較できます。男子選手はレースで時速45kmから50kmくらいは出ています。ドラフティングレースで1時間350ワットから450ワット前後を発揮しています。日本人選手でその領域に到達できている選手はいるのかな。男子の強化の重点種目にバイクを真剣に考えないと、いくらランの力を磨いても、2020年の東京はシドニーの頃と同じ成績になります。ではでは。