クイックレリーズは、カンパニョーロは創始者のトウリョ・カンパニョーロのレース経験から発明されました。当時のギヤ比を変える変速システムはいくつかありました。後輪の両側に平地用と上り用のスプロケットを取り付けたダブルゴグのホイールや、片側にダブルのギヤやトリプルのギヤを取り付けたロードバイクで走っていました。フレームやフォークエンドへのホイールの固定はハブシャフトへねじ込み、その開閉にスパナが必要なナットか、手で動かせるウイングナットが採用されていました。フロントのエンド幅が１００mm、リヤは１１０mmと１２０mmでした。
トウリョは真冬のレースでの逃げの最中に、ウイングナットで固定されたダブルゴグの後輪を、ウイングナットを緩めて裏返すことができなかったという、苦い経験を元に、かじかんだ手でも確実に車輪の固定を解除して、再び確実に固定できる、中空のハブシャフトとクイックレリーズシャフトを開発しました。当時のレースでは自分でパンク修理するルールだったので、イージーなホイールの着脱は切実な課題でした。もちろん、後年のルール改正で予備ホイールがサポートカーから供給できるようになっても、クイックレリーズは素早いホイール交換に有効でした。
カンパニョーロのクイックレリーズの開閉部には、エキセントリックカムが採用されました。９０度に曲がったクイックレバーの先端にエキセントリックカムが付いて、クイックシャフトのヘッド部の丸い穴とハウジングに通されて、クイックレバーを１８０度動かすと、固定から解除、その反対も工具無しで可能になります。クイックレバーの締まり具合の調整は、開閉機構の反対側のクイックナットの締め具合で調整します。
ヴィッツェンツァの小さな工房で、旋盤などの工作機械で手作りの製品作りから始まりました。鋳造のラインや鍛造やプレスの機械を入れて、金型の製造も手がけ、まずはロッド式の前後の変速システム、専用リヤエンド、専用のハブやクイックレリーズを開発。その後、アルミ合金製の５アームクランクや、１９６０年にはケーブルと変速レバーで操る、パンタグラフ式のリヤディレラーと、スライドシャフトのフロントディレラーをローマオリンピックへ実戦投入します。
カンパニョーロはクルマの鋳造マグネシウムホイールの製造にも参入します。航空機宇宙産業用の鋳造パーツも製造するなど会社の規模を拡大して行きますが、この部門は後に売却されて、自転車パーツに専念するようになります。３０年以上前にアメリカで始まったマウンテンバイクブームに合わせて、MTBコンポーネントにも参入しようとしましたが、シマノはハイグレードモデルから廉価モデルまで、カリフォルニアの草創期のMTBの進化を察知して、現地にリサーチや開発の人員を配置して、新製品開発の資金を投入して、世界規模のMTBブームに対応して大きなシェアを獲得します。
会社規模にシマノとは圧倒的な差のあるカンパニョーロは、開発競争に追従できずMTBコンポーネントから撤退します。それでもヴィッツェンツァの工場は拡張され、オンロードのレーシングバイクやコンフォートフラットバイクのコンポーネントパーツ、完組みホイールの専業メーカーになります。現在のCEOは息子のバレンチノ・カンパニョーロです。
カンパニョーロとフルクラムの2ブランドになって、シマノ、スラム、FSAと完成車への搭載でシェアを争う厳しい状況になっています。カーボンパーツの製造や完組みホイールの製造ラインはハンガリーに移りましたが、クイックレリーズを発明したトウリョ・カンパニョーロのスピリットは、息子によって継承されているという分けです。でも、もう少し頑張ってもらわないと、テイストはいいけどEPS もメカニカルも、コンポーネントパーツの進化の速度と変速や制動の実力は、新興勢力に並ばれそうです。ディスクブレーキへの参戦も出遅れ気味です、ちょっと心配な感じだな。
最新のカンパニョーロのクイックレリーズはグレードにより3モデルになっています。ハウジングやクイックレバー、クイックナットはアルミ合金化されて軽量化されています。クイックシャフトはスチール製です。エキセントリックカムもスチール製で、クイックシャフトとの摩擦部分はカチッとしていますが、アルミ合金製のハウジングとの摩擦感が柔らかい感じです。3モデルのクイックレバーは、エキセントリックカムを左右から挟む構造で、１８０度動かして開閉します。旧型のカンパニョーロのクイックレバーが９０度ぐらいから動きが重くなるのが最適でした。新型は、より手前の１１０度くらいの位置からクイックレバーの動きが重くなるように、クイックナットを締めて調整すると、ホイールの固定力が最適になります。カンパニョーロも２０１７年には油圧のディスクブレーキをラインナップして、スルーアクスル化するでしょうね。ではでは。
