クマさんのバイク専科

へたりきったブルックスの革サドルが教えてくれたこと

百哩大王主催のフッティングセミナーに参加したトーエイのクロモリフレームに乗っていたブルベライダーのサドルはブルックスの革サドルのコンペティションB17でした。1枚革のサドルですが、慣らしたというより油が少し切れ気味でへたっている感じで、革が伸びきってハンモックのような状態になって、裾が開ききっていました。そんな状態にもかかわらずお尻は痛くならないそうで、200km、400km、600kmもこなしているんだから、これはこれでいいのだと思います。サドルの裾が開ききっていても太ももの内側にこすれてじゃまにならないんだから、革サドルを交換してとか簡単には言えない実績がこのサドル姿にはあります。

 

革サドルは、フランスのイデアル90や、イギリスのブルックスのプロフェショナルとかチームプロをッストック状態で使っていました。70年代後半はプロフェショナルをベースに、フランスのサドルの加工慣らし専門の工房で作ってもらったレーシングサドルを使っていたことがあるけど、オイルドされて職人のノウハウで慣らされ、低く狭く加工された革サドルは確かに快適でした。送られて来た箱から出してバイクに取り付けて使い始めると、ストック状態のプロフェショナルが540gだったのに対し、レーシングサドル化したサドルは420gになっていました。座骨や股関節が触れる部分が1000kmも走るとお尻の形に合って変形してきて、一枚革の独特のしなリもあって、長い距離を走った時に絶妙の乗り味を発揮してくれます。

 

革サドルの手入れは、フランスの工房のアドバイス通り、1ヶ月に1度くらいサドルオイルやミンクオイルをサドルの中央部分の裏側に小指の先ほど塗って、革のしなやかさを保っていました。ツーリングの途中で雨にあったりすると、放っておくと裾が開いてしまうので、走った直後に水をティッシュでふき取り、サドルバッグに収納しておいたストラップを巻いて裾が開かないように押さえるようにしていました。このサドルは職人の手で、サドルの革は鋲を外してフレームから外されて、オイルドしたり慣らし加工が施されます。

 

サイズの大きい銅鋲で工房オリジナルのアルミ合金製のフレームに固定され、チタン合金製の丸棒の低いレールのものに交換されます。スチールのレールのものもあってプラスチック製のサドルと同じくらいに低く加工されています。革サドルの裾は短くカットされてぎりぎりチタン合金製レールを隠す長さになっています。使い込んで来るとサドルの革は中央が下がってきてどんどん伸びてしまいます。レールの先端についているナットをスパナで回して、革サドルの張りを調整します。革が伸びきってしまったら、またサドルをフレームから外して、さらに大きなサイズの銅鋲を使って張り直したり、先端の金具を外して、革をカットしてから大銅鋲で付け直します。こうして慣らされたかけがえのない革サドルは延命されます。

 

でも、プラスチックサドルの普及とともに、取り付けたらすぐに快適な乗り心地を体験できるプラスチックベース、パッド入り、革張り、尿道や性器への圧迫を避ける溝付き、座骨や股関節の内側や尿道などへの圧力を分散するジェル入り、尿道などの圧迫を分散させる穴あきなど、快適性の追求された構造や、カーボンベース、カーボン補強プラスチックベース、チタン合金製レール、カーボンレール、スチール中空レールなど、軽量性を追求したサドルが主流になりました。それでも種類が沢山用意されているのは、流行のモデルは存在しても、誰もが快適というオールマイティな決定版がないことを表しています。

 

ブルックスやイデアルなどの革サドルは、ライダーのお尻に痛くならないまでに慣らすのには数ヶ月という単位の時間がかかるし、クッション性などのコンディションを保つのには、オイルを塗ったりの手入れも大変です。それが理由でセライタリアのターボマチック2という、プラスチックサドルを選んで使っています。それでもロングライドやブルベライダーには革サドルファンが大勢いるのは、革サドルならではの、走っていて、体温や汗の湿度で革がしなやかになって、座骨や股関節の内側の接触している部分との馴染みやクッション性など、天然の革素材独特の特別な理由があるんでしょうね。

 

そんなブルックスも革を合成ゴムに置き換えたモデルや、プラスチック製ベースにパッド入りで革張り、カーボンレールの軽量モデルがリリースされています。もちろん革製のサドルも継続されています。革製のバーテープ、バッグ類

、携帯工具などが充実してます。革サドルにノスタルジーも感じますが、ハンモックのような革サドルではなく、馴染んだブルックスの革サドルの快適性の秘密は追求してみたいし、確実に早く革サドルを馴染ませるためのノウハウも身につけたいです。ブルックスブランドが面白くなっています。ではでは。