クマさんのバイク専科

伸び悩みを感じたら「急がば回れ」です!

ウイークエンドライダーでも速くなりたい人は大勢います。毎週末、元気に走っていれば、耐乳酸性も上がり、乳酸除去能力も上がって、ある程度のところまでは速く、強くなれます。耐乳酸性の能力は短期間のトレーニングで向上するので、速くなったと効果を感じやすいので、トレーニングはこれでいいんだと思いがちです。でも、そういう速いだけの走り込みや、レースでマックスの走りだけでは、スピードの向上も、持久力も、活性酸素によるダメージで行き詰まりを感じる事になります。

 

速いスピードのストレスの高い走りは、耐乳酸性や乳酸除去能力を開発する刺激になり、体が順応することで能力が高まります。ところが、大量に酸素を取り入れてストレスの高い走りは、体内に大量に活性酸素を発生させて、細胞膜などにダメージを与え、有酸素運動能力が低下することになります。フルタイムワーカーのライダーにとって、週末や平日のバイクで走れる時間は貴重なものです。だから速くなりたいライダーは、走れる時間をできる限り速く走って、高いレベルの運動強度を続けてしまいがちです。

 

そうなるとどうなるか、高い運動強度の運動は有酸素運動と無酸素運動のミックス状態で、乳酸が爆発的に発生します。乳酸は筋肉の収縮活動を抑制すするように働きます。その乳酸濃度が高まり筋肉の収縮を抑制するのに対抗して、筋肉を収縮させて脚を動かす能力が刺激されて、トレーニングに取り組んで1ヶ月くらいで耐乳酸性が高まり、高いスピードを維持できるようになります。

 

もちろん心肺能力も高くないと、体内に大量の酸素を取り入れて、有酸素運動で脚を動かす事ができません。大量に発生した乳酸は血液中に蓄積して乳酸濃度が高まり、筋肉の収縮を抑制する方向へ働きます。乳酸濃度が高まると自律神経が働き、無意識に心拍数や呼吸数を増やして有酸素運動をサポートすると同時に、血流量を増やして乳酸を肝臓へ運び込んで、血中乳酸濃度を維持したり、運動強度を下げれば乳酸濃度を低下させて、筋肉の収縮の抑制を解消する事ができます。これが乳酸除去能力です。

 

肝臓に運び込まれた乳酸は時間をかけて還元されて、再びグリコーゲンになって、血液にのって筋肉へ戻されて運動エネルギーとして使われます。筋肉が乳酸に耐えて動かす事ができる能力を耐乳酸性と、この乳酸除去能力が開発される事で高い運動強度で長く走ることができるようになるのです。高い運動強度で爆発的に乳酸が発生するのと、運動を続けながら乳酸を除去しているわけですが、耐乳酸性と乳酸除去能力を上廻って乳酸が発生して、血中乳酸濃度が高くなって、ライダーによって限界の数値は違いますが、限界の濃度を越えてしまうと、呼吸がぜいぜいハアハアして、心拍数が上昇しても、筋肉を収縮できなくなってオールアウトの状態になります。

 

「限界まで追い込む」と表現される状態です。そこまで行かなくても速く走るトレーニングは、耐乳酸性や乳酸除去能力を高めるトレーニング効果があります。確かに速くなれます。でもそこに大きな落とし穴が存在するのです。ウイークエンドライダーの貴重なトレーニング時間を有効に使いたい気持ちは分かります。速く走らないとトレーニング効果が無いと思いがちです。もちろん速く走る時期も、高トルクで上り坂を走ることも必要です。でも、速く走ると体内に活性酸素が発生して有酸素運動能力を低下させます。

 

爆発的に体内に発生した活性酸素は、赤血球や毛細血管、筋肉細胞の酸素や運動エネルギーの元を透過させる細胞膜を傷つけて、酸素を体内に取り入れて運動エネルギーを生み出す、細胞内のミトコンドリアの能力を低下させてしまいます。つまり高強度の走りは続けると有酸素運動能力を低下させるのです。これは速くなりたいライダーにとって重要な事です。頑張って速く走るトレーニングに集中し過ぎると、有酸素運動能力が低下するので、結局は速く走れなくなったり、オーバートレーニング気味と感じたり、トレーニングしても速くなれないと行き詰まりを感じるのです。

 

これはウイークエンドライダーだけでなく、レースの頻度に合わせたトレーニングプログラムに沿って、トレーニングしているはずのプロライダーでも起こりがちなことです。どうしても、耐乳酸性向上の効果を確認したくて、速く走ってしまいがちなのです。では、行き詰まりを感じたらどうすればいいのか、毛細血管を発達させて、酸素を運搬する赤血球数を増やし、1拍の拍動量も増やし、心肺機能を回復させる効果がある、LSD トレーニングへ3週間から12週間以上取り組む事です。

 

忘れてはいけないのは、3週間に1回は、速いスピードで走って耐乳酸性や乳酸除去能力を刺激して低下させないようにします。プロライダーのトレーニングプログラムは、1年のトレーニング量の7割がLSDレベル以下のトレーニングです。1ヶ月のバランスも7割がLSD トレーニングで、レースで発生した活性酸素によるダメージから、心肺機能の回復を重視しています。1週間のミクロサイクルでも、レース、乳酸除去の回復走、LSDトレーニングの再開、週末のレースというのがシーズンのパターンになります。

 

1シーズンに80レースぐらいを走るのですが、1週間のミクロサイクルのLSDトレーニングだけでは心肺機能を回復しきれなくなって、シーズンの中間に3週間程度の心肺機能を刺激して回復させるLSDトレーニングの時期を設定する場合もあります。ウイークエンドライダーの場合もLSD トレーニングでゆっくり走る期間を焦らずに数週間、取り入れてみてください。「急がば回れ」というじゃないですか。ではでは。