クマさんのバイク専科

1年ぶりのアマンダスポーツ訪問でした

 

先日は、そろそろ組んで3年目になるので、交換するジョバン二の木リムを手に入れたいと思って田端駅近くのアマンダスポーツへ向かいました。5時半ころ、すでに外は真っ暗でした。お店のシャッターは締められていましたけど、千葉洋三さんの愛車のブルーのバイクフライデーが立て掛けられていました。お店の電気は消えていました、でもバイクが置かれているので近くにいるはずです。

 

向こうからニット帽を被った千葉洋三さんがポックリポックリという感じで歩いて来ました。クルマの窓をあわてて開けて声をかけました。だいたいこのくらいの時間には閉店しているそうです。去年の8月に入院してしまい体調が悪くてと、1年間のご無沙汰の理由を述べると、「クマちゃん働き過ぎなんだよ!」と言われてしまいました。また改めて来店することを告げてその日は帰りました。

 

ジョバン二の木リムは、イタリアのコモ湖の湖畔にある小さな工房で職人の手作りで少量製造されています。木リムは色々なサイズが用意されていますが、ボクの場合は700Cの36穴の千葉さんが断面形状を設計した20mm×20mmのモデルが欲しいので、ここか、つくばのスポーツバイクつくばマツナガでしか手に入りません。木材の振動減衰性能はカーボン成型品の7倍と言う工業大学の試験データがあるそうです。強度や剛性という面ではカーボンリムに到底及びませんが、36本スポークで組み上げると、十分に実用性がある前輪ホイールに組み上がります。

 

木リムのホイールを組んで前輪へ取り付けるだけで、パワーロスなく、しかも人間が不快に感じる尖った振動をマイルドにしてしまう、上質なリアクティブのサスペンションシステムを装着したようなイメージの乗り心地になります。その乗り心地は、ヴェロフレックスの23mmのクリテリウムを7気圧から8気圧にセットして、荒れた路面を走っても跳ね上がる感じがなく、路面に沿ってよく転がってくれる感じです。乗り越し感は半端じゃありません。

 

千葉さんは現在77歳、ヨットの製作で出会ったカーボンファイバーに着目すると同時に、バイクフレームの製造を試行錯誤して、バイク専用設計のカーボン繊維方向の配列によりねじれ特性を高めた、マンドリル引き抜き製法のカーボンフレームチューブの開発に、カーボンファイバー製造メーカーの三菱レーヨンや東レとジョイントして着手して、スチールラグとの熱硬化型の接着剤を採用した接着フレームを確立します。木材をリムに採用したカーボンディスクホイール、コンプレッションホイールの製造も手がけています。千葉さんはリムの開発段階で木という天然素材に目を付けて、リムの軽さやホイールの慣性、振動減衰性の重要性なども早くから言っていました。実際に木リム作りにもチャレンジしていました。

 

軽さや強度に優れたアルミリム、カーボンリムが実用化され、それとは特性の違う木リムでノスタルジーやヒストリカルではなく、現代に通じる実用性能を実現するには、ジョバン二の木リムの製造ノウハウと、イタリアのブナ材を素材にして、20mm×20mmのりムの断面積は、適度な剛性を確保するのに必要なことが分かってきました。アマンダスポーツオリジナル設計の四角い断面のジョバン二製の木リムにはそういうホイールの剛性確保という秘密が隠されています。コモ湖の湖畔にある自転車の教会で有名なギザロ教会のジョバン二リムのトレードマークは同じですけどね。木リムは1本と、専用のロングニップルとニップルホールのスチールワッシャー付きで約3万円くらいです。

 

木リムのホイール組みは、通常のアルミ合金リムやカーボンリムの組みとはまったく違います。ニップルを一定回数ずつ締め込んでも、普通に大変なことになります。木リム組みの経験がないプロメカニックは、あまりのリムの振れよう、暴れぶりでパニックになるでしょうね。カーボンリムの左右や縦方向の仮組み段階のリムの振れが10mmあったとしたら、木リムの仮組みした前輪のリムの振れはcm単位です。振れ取り台にセットして仮組みホイールは、振れとりのゲージを当てて回るような代物ではありません。慣れていないとどこから手を付けていいか分からないでしょう。

 

ジョバン二の木リムはブナ材の板を3段重ねして、接着して輪にしてろくろのような専用旋盤で削り出しているのですが、当然天然素材なので部分部分で素材にばらつきがあり、変形しやすかったりしにくかったリが当たり前なのです。

ニップルを同じ回数回してスポークテンションを同じにしても真っ直ぐにはなりません、ぐらぐらです。ちょっとしたスポークテンションの差でリムが変形してしまいます。しかもその振れの修正をしようとすると、同じ量ニップルを回していたのでは収まってくれません、リムの硬さが部分部分で違うのですから、リムの動きをゲージで見ながら、ニップルを回す量を手加減しないと、リムは行ったり来たりでぴたっと収まりません。

 

振れ取りが縦横とも0,5 mmくらいに収まってからが慣らし作業です。スポークのテンションが上がって、木リムのスポーク穴にセットしたスチール製のワッシャーの食い込みが始まります。縦方向に体重をかけてリムを歪ませたりして馴染みを出します。これで木リムはだいぶ振れが出ます。ニップルの2分の1回転くらいずつの修正をして、さらに大人しく走ってホイールにストレスをじわじわ実走りでかけて馴染みを出します。この段階でのリムの振れは巧くスポークテンションを均一にできていれば、2mmから5mmの範囲で出ます。これを数回繰り返せば、ほとんど振れが出なくなって、1年とか2年使えます。

 

3年目ぐらいに増し締めがあって、4年目くらいになると、リムサイドもカーボンファイバーリム用のパッドとの摩擦ですり減ってきて、木リムの弾力も低下してくるのか乗り味が硬くなり、交換時期になります。体重75kgのライダーが年に100回、50kmから100km走って4年で交換しています。木リムを4本手に入れて、メンテ本作りで頑張ってくれたサイスポのケンタくんに1本プレゼントして、3本は手元に残りました。ハブはカンパニョーロのヌーボレコードの36穴、今週末には手に入る予定のサピムのCXレイのブラックのエアロスポークで組む予定です。取り置きの木リムは湿度が低く、暑くない場所で、しかも平らな場所に横置きしないと変形いてしまう可能性があります。

 

アマンダスポーツの千葉さんは、「死ぬまでもの作りするんだ」と決意を語ってくれました。そんな話をしていると奥様のミチホさんが、ノルディックウオーキングスタイルで歩いてきました。腰を傷めているそうです。千葉さんはトレーニングすれば歩けるようになるよ、と奥様を励ましているそうです。お二人は私費で当時の日本のトップ選手をヨーロッパ遠征に派遣したのです。サイクルスポーツで原稿を毎月書いていた30代から40代のころ、それは驚きと共に人生の指標になった出来事でした。久ぶりにご夫妻と会えて嬉しかったな〜、生きてて良かった。ではでは。