クマさんのバイク専科

グラファイトデザインが自転車部門休止

グラファイトデザインはカーボンシャフトのゴルフクラブメーカーとして知られています。
オリジナルブランドの他に、国内有名ブランドにカーボンシャフトやグラファイト製品をOEMしている日本のブランドで、
自転車のカーボンフレームメーカーとして参入しました。
事業の立ち上げに参加したスタッフには申し訳ないけど、
当初からこのカーボンフレームを開発して量販するというビジネスモデルのチャレンジと、
ターゲットと採算性に疑問をもっていました。

開発スタッフは友人のひとりで、大手自転車メーカーの先端でスチールやアルミやカーボンのフレームの開発や、
量産のための製造ラインの設計までやっている人だし、メカニックとしても活躍した人なので、
絶対にいいものができると信じていました。だけど、カーボンシャフトやクラブを開発設計している会社が、
果たしてハイエンドモデルだけのカーボンフレームで、プロチームへのアプローチとか、
宣伝広報活動をどう展開してバリューを得られるのか、広報担当者も紹介されていないし、
本当にマジに考えているのか心配でした。

数が出ないハイエンドモデルだけの製品ラインアップで、
中国のカーボンフレームやパーツの工場を指導しながら稼働させて、製品を製造して安定供給して、
日本や世界のシェアをどの程度獲得して、何年で採算ベースに乗せられるのかを考えて見ると、
開発のビジョンはっても、売り上げを上げてビジネスを継続するのはけっこう厳しいなと思っていました。
GDRの会社側の発表によると不採算部門として、2015年で自転車部門を休止することになったそうです。

グラファイトデザインはフレーム&フォークセット、フロントフォーク単体、ステム、ハンドルバー、
ホイールなどを開発して、自転車チャンネンルのおろし屋さんとジョイントしたりして販売してきましたが、
価格帯はまさにヨーロッパブランドのカスタムフレームと競合します。
ハイエンドモデルなのでそうそう数が売れる分けでもなく、採算ベースの販売量を確保できず自転車部門を休止したようです。
その話しを最初に聞いたとき、友人の苦悩する顔が思い浮かびました。
何度も中国へ出張している姿を空港で偶然見かけて、苦労しているなと思いました。
休止の発表にやはりなと思いました。

初期はメイタンチームにカーボンフレームを供給、まだプロダクツプロトと言える段階の製品で、
埼玉県に秩父市内の国内ファクトリーの開発ラボでワンオフで製作されていた製品でした。
当時所属していた新城選手など、選手の走りのキャラクターに合わせて、
フレームやフロントフォークの剛性や、フレームスケルトンを設計して、ラボでハンドメイドされたカーボンフレームでした。

選手用に開発された乗り味の違うカーボンフレームのバイクを、
秩父の工場の周辺道路で試乗させてもらったことを覚えています。
そのGDRのカーボンフレームの開発責任者は、日本の大手完成車メーカーでスチール、
アルミ、カーボンのバイクの製品開発、製造機材の設計を担当していたエンジニアです。

これからカーボンフレームの開発やプロトタイプの製造を担当するというエンジニアを紹介されました。
もう一人の自転車部門の開発担当のカーボンエンジニアは、GDRのゴルフカーボンシャフトのスペシャリストで、
契約プロゴルファーの要望に応えてすぐ練習や試合で使うために、ゴルフシャフトを選びゴルフクラブを作る、
大会会場に設置したサービスカーの仲の工房で、1本1本仕上げるサービスマンの経験者でした。

当時の秩父のGDR の開発ラボでは、ステンレスラグとカーボンの接着、カーボンラグとカーボンチューブの接着、
カーボンフロントフォークなどを開発、プロの使用に耐えるレーシング機材や、
ホビーライダーのロングライドモデルをターゲットに、協力工場で量産するプロトタイプを模索している段階だったと思います。
プロトタイプ、つまり量産するためのマスターピースがここで仕上がっても彼らの仕事はここから始まります。

協力工場のエンジニアに設計やデザインや使う素材を伝え、量産化するまで、
製品が仕上がってくる期間までをホローアップする仕事が、中国の協力工場とのビジネスとして重要なのです。
カーボン繊維のしなりを生かしたフレームデザインを追求する設計思想が
全てのフレームやフロントフォークに貫かれています。
ライダーがクランクを踏み込んだ反力でダメージを受けることを配慮した、
フレームの剛性の最適化をテーマに開発が進められていました。

カーボン繊維の特性を生かし、フレームに必要な剛性バランスを追求して
調整しやすいラウンドチューブを基本的に採用しました。
GDRはカーボンフレームを2つの工法で製造していました。
それはカーボンラグ&カーボンチューブの接着フレームでも、
精密にラグとチューブをパート別に成型して接着する、
セミモノコック構造のフレームでも同じラウンドチューブで基本設計されています。

フレームチューブには各パートに色々な方向から力がかかりますから、一方向にカーボン繊維を並べ、
熱硬化する樹脂を含ませたプリプレグ(布)を何層か型に重ねて成型されます。
GDRのチューブはマンドリルという芯金にカーボンプリプレグを巻き付けてオートクレーブで成型されています。
フレーム各部のデザインは特徴が無くなりますが、
もっともカーボン繊維の強度を引き出せて、調整しやすい製造方法です。

カーボン繊維のグレード、繊維の方向、カーボン繊維に含ませる樹脂の熱硬化後の強度、
その繊維の方向でチューブが頑張れる方向が決定しますから、まさに設計者のノウハウが生かされる部分です。
セミモノコック構造の場合は、型にカーボンプリプレグを張り付けて、
真空引きや内圧をかけた状態で加熱して精密に成型します。
型に張り込んで内圧をかけてオートクレーブ内で加熱成型される場合もあります。

大手メーカーを止めてサイクルショップを経営していましたが、GDRの開発者に転進しました。
事業の休止の話しを聞いて心配しています。
浪人中にウエリントンでの51.5kmトライアスロンの世界選の、日本チームのメカニックに誘って、
一緒にやっていた仲間でもあったので、夜になって携帯へ電話してみました。
出ないので伝言を残し、夜遅くになってGDRのファクトリーでまだ働いていた開発者から電話がありました。
近況や自転車界の状況を報告しあって、まだまだカーボン繊維の特性を100%生かせる、
理想的な製造方法で量産化に取り組んでみたいと、カーボンフレームやカーボンホイールの開発に意欲があることを知りました。
休止にぜんぜんめげていませんでした。ではでは。