クマさんのバイク専科

360度負荷がかかるローラー台トレーニングでいいの?

 

昔、有力な実業団ロードチームでの出来事。固定式の高性能高負荷タイプのエルゴメーターをエアコンの効いたトレーニングルームに並べて、チーム全員がドクターの指示でトレーニングしているという風景を見たことがあります。実際に道路を走ることを少なくして、主なトレーニングを管理しやすいエルゴメーターで行うというものでした。ロードチームが室内トレーニングです。そのチームの数年間の戦積は、どの重要レースでも惨憺たるありさまでした。

 

ごめんなさい、一人だけ室内トレーニングのウイークポイントにいち早く気付いて、室内トレーニング中心で行うという空気の中で、チームの方針になった室内トレーニングとプログラムを拒否して、外を走ってトレーニングしているのは、勇気もるし、気持ちのいいものではなかったと思います。それでもチームの選手の不振に喘ぐチームの中で、そこそこの結果を残している外を走ってトレーニングしている選手がいました。

 

次々にその選手につられて外を走ってトレーニングする選手が増えて行きました。そのチームの選手のほとんどは、ドクターが提案した室内トレーニングの呪縛から解き放たれて、回復までの時間はかかりましたが、レースの結果も好転して行きました。フルマラソンの選手がレースに向かったトレーニングを、エアコンの効いたトレーニングルーム、空気のコントロールされた低圧室で、高機能の無限軌道のランニングマシンの傾斜や速度を変えて行っているようなものです。アウトドアでの実際の道やコースを想定して走り込みをほとんどしないで、主にランニングマシンを使ってトレーニングに取り組んでいるような感じです。

 

室内の高性能エルゴメーターによる、トレーニング強度をプログラム管理されたトレーニングの何がいけなかったのでしょう。血液検査もして選手の健康状態や栄養状態をチェックして食生活も改善したり、選手の特性をコンコー二テストなどで測定して、最大酸素摂取量、ATポイント、発生ワット数、耐乳酸性などをデータベース化して、トレーニングメニューがプログラムされて選手に渡されていました。レース中の手作りのユニークな補給食やドリンクでも知られていました。

 

高性能エルゴメーターのクランクは選手が使っているクランクの長さに交換されて、ビンディングペダルがセットされて、ハンドルやブラケットも、ロードバイクの位置に調整され、その選手専用のトレーニングマシーンに仕上げられていました。前には業務用の扇風機が置かれて、トレーニングルームはエアコンも効いて快適です。プログラムされた運動強度に合わせて高性能エルゴメーターで、心拍数を測定しながら運動強度を管理して、LSDトレーニング、ミドルやミドルハイの乳酸除去能力を向上させるトレーニング、ミドルハイからはいレベルの耐乳酸トレーニングのレペティションやインターバルトレーニングが実施されていました。

 

目的のレースへ向けての強化プログラムは、スケジュール管理されて、ほぼ達成率85%、完璧に選手が運動強度をプログラムどおりに行っているか、高性能エルゴメーターのアウトプットデータや、ポラールの心拍計で管理されて、天候や湿度や気温や風に関係なく進行できます。とても合理的に思えるシステムでした。そうして、体へのストレスの少ない環境が整えられた、室内トレーニングで計画通りに鍛えられたはずの実業団のトップ選手達が、サーキットコースや、公道レースを走ってみると、ウイークポイントが浮き彫りになってきて、ドクターが描いていた戦績とはかけ離れた結果が、自信を持ってレースへ臨んだはずの選手へ、次々に結果として突きつけられました。

 

シーズンが進んで夏場に入って、室内トレーニングで鍛えることができなかった部分、失った部分が露呈し始めました。1つは天候への体の順応です、暑さや湿度に対応できず本来のパフォーマンスを発揮できませんでした。路面を後輪で蹴ってバイクを前へ押し出すペダリングの感覚を失っていました。風を体に受けて走る感覚も失っていました。集団走行のテクニックが退化していました。そして、もっとも恐ろしい事に、長年やってきたロードバイクのペダリングの、バイクやホイールの慣性を生かして、ペダリングの休むフェーズを生かして脚を温存する感覚を失っていたのです。エルゴメーターのクランクの負荷は、360度どのフェーズでも同じ重さでかかります。どのフェーズでもクランクを踏んでいないとクランクは止まってしまいます。

 

実際にロードバイクで道を走る、バイクやホイールの慣性を生かした効率のいいペダリングは、上死点を足が通過したら、なるべく早い位置で強く踏み込み始めて、3時、5時の位置まで一気に踏み下ろし、下死点近くでは脱力して、その勢いで上死点へ足を戻す、「まさかり型」のペダリングです。常に負荷がかかるローラー台やエルゴメーターで、一定ペースでペダリングするには、上死点を足が通過したら、なるべく早い位置で踏み込み始めて、3時、5時の位置まで踏み下ろし、下死点近くでは後ろへペダルを押し出す動作が加わり、その勢いと軽い引き脚で上死点へ足を戻す、左右の脚でフォローし合って、360度、ペダル軸が描く円の接線方向へ踏み込む事を意識した、トルク変動が少ないペダリングテクニックが必要になります。

 

でも、人間エンジンは左右の足で360度の接線方向へペダルを押し出すような、モーターのようなペダリングをパーフェクトにはできません。上死点を通過した足の位置エネルギーを利用して、なるべく早く強く脚を踏み下ろし、3時の位置へ向かって踏み込み、5時の位置か下死点の位置まで踏み込む、トルク変動があるのが一般的なペダリングです。踏み込むフェーズを重視した、まさかり型のペダリングです。エルゴメーターや、負荷のかけられる固定式のローラー台の場合は、クランクの回転する360度のどの位置でも負荷がかかっていますから、クランクの回転を停滞させないでスムーズに効率良く回すには、下死点を越えた足を後ろへ押し出す動作を入れると、反対側の足が上死点を越えて踏み込むまでの、クランクの回転をサポートして、トルクの低下する区間やクランクの回転するスピードの低下を防ぐ動作となります。

 

ある選手は、下死点近くで、そのペダルを後ろに押し出す、トルク抜けを小さくするペダリング動作を、靴の裏に付いたガムを路面へ押し付けて取り除くようなアクションだと言っていました。固定式のローラー台で長くトレーニングしていると、360度に負荷がかかるので、ペダリングする足が停滞しないように、この下死点近くでペダルを後ろへ押し出す動作のペダリングを自然にするようになります。足を上げて、上死点を足が越えるときに、踏み下ろす動作へ素早く移行する準備をして、なるべく早い、効率のいい1時半から2時の、クランクの踏み込みの位置を早くする、実際のスポーツバイクで走る時に1時半から2時の位置から強く踏み始めて、5時の位置まで一気に踏み込み、そこからは力を抜いて慣性で下死点を足が通過してクランクを回し、上死点へ戻す、まさかり型のペダリングとまるで違うのです。

 

果たして自分がどっちのペダリングを主に行っているのか、上りの区間やタイムトライアルでは切り替えているとか、自分のペダリングを理解してトレーニングやライドをしているでしょうか。まさかり型のペダリングのライダーは、ローラー台やエルゴメーターでのペダリングが苦手で、回転する音が大きくなったり小さくなって、ペダリングで発生するトルクが一定でない事を表しています。トライアスリートもロードレーサーも室内や屋外でローラー台やエルゴメーターを使って、心拍計やワット数を測定して管理してトレーニングする事があります。特にトライアスロンは、3種目のトレーニングがあるので、トレーニングの時間が限られています。

 

安全にとか暑さを避けてとか、室内トレーニングになりがちで、それが当たり前になって、バイクのトレーニングはこれで大丈夫と頼りにしてしまうと。そこにローラー台やエルゴメーターの一定の負荷がかかり続けることによるペダリングへの影響。環境への体の順応のための体験。ライディングテクニックなど。まさかり型か、下死点近くでペダルを押し出すペダリングで違和感が発生するうるし、地面を蹴ってバイクを追し出す実際の走りとの違いという落とし穴があるのです。自分のペダリングの見極め大事ですよ。360度負荷がかかるローラー台でのトレーニングがペダリングにマッチしているかな?。ではでは。