クマさんのバイク専科

イタリアと日本のスミズーラ!

 

イタリアの有名ブランドのフレーム製作は、イタリアの自社ファクトリーや工房で製作されていましたが、生産量を増やしたり、価格を抑えるためにアジアの生産拠点へ移行していきました。成型に技術力が必要で手間のかかるカーボンフレームは、台湾か中国の提携工場で生産され、ロー付けやTig 溶接で組み上げるスチールやアルミやチタン、マグネシウムやスカンジウムは、台湾や中国の提携工場で生産しているというパターンが多くなりました。

 

成型されたフレーム素材を、台湾や中国からイタリアのファクトリーへ送って組み上げるのは、フラッグシップモデルのみというブランドもあります。そんな状況でも、数は少なくなりましたがイタリアの国内でフレームの生産を続けているブランドや、イタリア国内の協力工場や協力工房で生産しているところもあります。知的財産権、納期の安定化、チャイナリスクが話題になってハイエンドモデルはイタリアへ生産拠点を戻すブランドも登場しています。

 

イタリアブランドでイタリアの工房やファクトリーで生産している、フレームスケルトンをオーダーできるとか、寸法や角度を一部変更できるというオーダーメードフレームがあります。メジャーで体格を測ることから「スミズーラ」と呼ばれています。オーナーが直接工房や取り扱いショップに行けば体を採寸して、フレームビルダーのノウハウで、最適な寸法や角度を選んで設計して、オーダーフレームを作ってくれます。イタリアのオーダーメードフレームは、工房によって色々な対応の方法が採用されています。もっとも多いのがオーナーの体格を測ってフレームサイズを決める方法です。股下寸法が重視され、トップチューブが水平のホリゾンタルなら股下寸法×60%。トップチューブが前上がりのスローピングなら股下寸法×55%から50%というのを基準にフレームサイズを決めます。

 

パーセンテージはビルダーのノウハウによって違います。そのブランドには数グレードのフレームや完成車のモデルがあり、このモデルでスミズーラで作って欲しいという注文方法です。チューブやペイントやロゴがきまっていて、グレードを選ぶというのが基本パターンになっている工房が多いのです。フレームの素材はチタン合金、スチール、アルミ合金、それらとカーボンとのハイブリッド、フルカーボンなどがあり、スケルトンをオーダーと、一部オーダーがあります。

 

溶接で接合する、スチールやアルミ合金製のチューブなら、スケルトンにあわせてチューブを切断して、ロー付けやTig溶接で接合したり、シートステーやチェーンステーなどのカーボンチューブと接着することで、スケルトンの変更やオーダーメイドに対応できます。見本フレームをベースにスミズーラを製作する工房は、フレームスケルトンを決定する段階で、直進安定性、ハンドリング、ショック吸収性、フレームの剛性などの、ロードバイクとしての乗り味を追求して、影響のある寸法を動かして試してスケルトンを決定しています。100年の自転車レースの現場で到達したスケルトンのセオリーが反映されています。

 

その工房のノウハウで製作された見本フレームの基本設計を守ってフレームを製作して、ポジションを最適化するのは、シートポストの上下。ステムを固定する高さ、突き出し寸法、突き出し部分のライズ。ドロップバーのリーチやドロップなどでアジャストするという考え方です。見本フレームはトップ中部が水平のホリゾンタルは10mm刻み、スローピングは20mmから30mm刻みで用意されていて、スチール、チタン合金、アルミ合金の場合は、オーナーの体格にぴったりのサイズの見本を元に、スケルトン通りにチューブをカットして治具にセットして組み上げます。

 

ライダーの体重や身長に合わせて、フレームチューブの肉厚が変更されることもあります。日本からのオーダーの場合は取り扱いショップの店頭でオーナーの体を採寸して、オーダーシートへ記入して、輸入代理店を経由して工房へデータが送られて、工房でスケルトンが決定されて、オーナーがそれを承認してオーダーが決定して発注されて製造が始まり、3ヶ月から1年くらいで仕上がってきます。ペイントやロゴが見本通りに仕上げられて、スケルトンオーダーの憧れのブランドのバイクが手に入るわけです。しかし、オーダーメイドで、しかもスケルトンを設計して1台1台治具を動かして、溶接や接着でフレームを作る工房の手間は大変です。

 

イタリアでは1本1本のスケルトンの設計に対応できる、日本のフレーム工房のようなところはまれです。スケルトンオーダーの場合は、スケルトンを動かすと乗り味がどう変わるのかを把握して、どこまでがライダーの扱いやすい許容範囲なのかを見極めて、スケルトンを設計することになります。カーボンフレームのスケルトンを動かすには、構造的に寸法や角度を変更できるようにジョイント部分を設計しておく必要があります。ラグ(継ぎ手)構造の場合はスチール、アルミ、チタン、カーボンが素材で、カーボンチューブと接着で組み上げます。

 

金型にカーボンプリプレグを張り込んで熱成形するモノコック構造の場合はスケルトンの変更がほぼ不可能です。フレームのチューブとラグを型で部分成型して接着で組み上げる「セミモノコック構造」のフレームの場合は、オーダーメイド対応に適していません。角度や寸法を調整できるように接合部分を設計して、カーボンチューブやラグを成型して、ラグやチューブの末端の長さや接合角度を加工して、多少のスケルトンの調整が可能です。選手の要望に合わせて設計を変更するための工房がイタリアに残されているブランドもあります。

 

スポーツバイクつくばマツナガの、スケルトンフルオーダーの自転車専用設計のカーボンラウンドチューブ&スチールラグ接着フレームの場合は、オーナーの体格や体力や使い方に合わせて、1本1本スケルトンとフレームの剛性を設計して、剛性の違うカーボンチューブや肉厚の違うスチールラグの素材がプランにあわせて選ばれて組み上げます。スチール製チューブからラグの分だけ切り出し、ロー付け溶接で接合できるようにザグって、ラグを設計通りに製作して、カーボンチューブを熱硬化型の強力な接着剤を塗って差し込んで治具にセットして組み上げ、熱処理して組み上げているフルオーダーメイドの「プロジェクトM」は、日本らしいスケルトン、剛性、ペイントフルオーダーのカーボンフレームで、技術と時間の固まりです。ではでは。