クマさんのバイク専科

チタン合金フレームと言えばティグ溶接!

ティグ溶接はスチール、チタン合金、アルミ合金、ステンレスのフレームの組み立てに使われる溶接方法だ。原型のティグ溶接は不活性ガスを封入したタンク内で空気を遮断して行うので、大掛かりな設備の中にフレーム素材を入れて、その炉に取り付けられたゴム手袋に手を差し込んで結構不自由な状態で溶接機を持って、母材と母材が直接触れて溶接されるラグレスで電気抵抗溶接されていた。

 

窮屈な炉の中で溶接作業を行うので、とても手間のかかる溶接作業だが、イタリアの小さな工房のパッソーニなどが採用していた。ここの工房はチタンの板材をベンディング加工して丸めて溶接してフレームチューブやハンドルバーやステムまでオリジナルで作っていたのだ。電縫管を1本1本作っては組み上げるというものすごい手間がかかっている手工芸品的なバイクだった。溶接する母材に電気を流し、溶接機の先から出ているロー材にも電気が流されて、母材とロー棒の先端が接触する部分で、電気によるアークで高熱を発して、母材の溶接部分を溶かし、ロー材も溶かして、溶接部分で合金を作って接合するという溶接方法だ。アークによる加熱範囲が狭く、フレームチューブの材料劣化の少ない接合方法と言われている。

 

青白いアークの光は強烈で専用のアークの光から目を守る面を付けて溶接作業をする。腕などにグローブとTシャツに隙間があると日焼けしてしまうほどだ。母材を溶かさないロー付け溶接と違い、フレームチューブ先端の接合部その物を溶かして接合する。溶接するチューブに電気を流すためのティグ溶接専用キットが必要だ。鉄工所で使っているのも電気抵抗溶接だが空気は遮断していない。

 

最近のティグ溶接は炉が必要なくなって簡易化されていて、普通の環境下で行えるようになっている。要は溶接部分のみを空気から遮断するように、溶接機の先端から不活性ガスを溶接部分へ吹き付けて、空気を遮断して、電気抵抗溶接を行えるようになったのだ。室内ならどこでも溶接機と不活性ガスの設備があれば、スチール、アルミ、チタンのティグ溶接フレームを作ることができるのだ。

 

MTBのオーバーサイズアルミフレーム、BMXのアルミやスチールのフレーム、ロードのアルミやスチールフレームも、ティグ溶接で作られるようになっている。ちなみにコロンブスチューブの製造方法を研究するアドバイザーだったアンドレア・ペゼンティと彼の工房の職人たちは、ティグ溶接のスペシャリストだ。スチール製のフレームのレーザーや、クラウディオ・キャプッチの乗っていた肉薄の超軽量アルミ熱処理チューブで組まれたフレームも、別ブランドで乗っていたがペゼンティ製だった。このロンバルディア地方のロマーノの工房には、トム・リッチーもティグ溶接のレクチャーを受けにきていた。リッチーはロー付け溶接がとても上手かったとペゼンティが言っていた。

 

リッチーは日東のアドバイザーでスチール製ステムの溶接にティグ溶接を採用している。アルミやスチールのフレームやステムやハンドルを作っている職人を集めて講習会を開き、ビードの細かい見事なティグ溶接テクニックを披露している。同時にロー付け溶接によるステムの製作も披露して、ローの周りが素晴らしくヤスリ仕上げが必要ないほどだったという。次に、ティグ溶接したステムを、フィレット溶接で美しいスロープに仕上げたという。

 

リッチーにインタビューした時に、ペゼンティが褒めていたとか、日東のクラフトマンが驚いていたと話すとすごく喜んでいた。昔、オレンジカウンティの丘の上にトタン板で組んだ小屋で、ティグフィレット溶接でMTBフレームを溶接していた頃は、ゲーリー・フィッシャーの依頼でフレームを製造していたという。オレンジカウンティのあちこちにMTB工房やパーツ作りが始まったころに会いに行ったことを話した。日本にMTBの動きを紹介したワイルドキャットの平木さんやサンツアーのスタッフともここで出会っている。

 

シマノの開発担当だった岡島さんとツーリングコンポのデオーレXTを持って工房を訪問したことを話すと、思い出してくれて、カシャカシャっとアンテナを伸ばすでかいモバイルホンをジャージのポケットへ入れて、土漠のフィールドを自分で組んだMTBで走っていたのが印象的だったと話すと、そうだったな〜、あの当時はビーチサイクルを改造したクランカーというバイクが主流で、1回走りに行くと、折れたり曲がったりで、アヘッド小物、オーバーサイズチューブ、オーバサイズヘッド小物、ハイグリップタイヤや26インチホイールなど、オフロード走りに対応した、どんどん新規格や新構造が登場した時代だったね〜、面白い時代だったと大笑いしていた。

 

そのインタビューの時に、トップライダーと同じギヤ比を採用したロードバイクに疑問を感じているというと、元々がロードレーサーだけに、スポーツバイクの普及のネックになっていると同意してくれた。一般ライダーに最適ギヤ比を実現するために、PCD110mmのロードクランクが欲しいという話をすると、前2枚、後ろ9段のQファクターの狭い、ツーバイナインドライブのMTB用にスギノに作ってもらっているリッチーロジックのクランクがあるで、提供しようと言われて、サイスポのコンパクトドライブクランクの特集が始まったのだ。

 

リッチーはティグ溶接の難しさを語り始めた。溶接部分の金属表面を磨き上げて酸化被膜を落として出す下仕上げの重要性を強調した。しっかり母材を溶かした感触とアーク部分でロー材と混ざって合金ができている感覚をつかむことが重要という。最初は溶接部分のビードを一定感覚に整えることに意識がいってしまい、仕上がってもポロリと剥がれることがあったという。

 

本当にそうなのだ、ティグ溶接を体験した時に、スチールも、ロー材に粘りがあってボテボテのビードになりがちなアルミも、これで母材まで溶けて、ロー材との合金が溶接部分で形成されてくっついたと思ったテストピースを万力に止めて、カツンとハンマーで叩くとポロリとはがれてしまうのだ。ベテランクラフトマンは見ているだけでわかるらしく、テストピースを見て、これはダメと言い当てられた。冷や汗流して真剣に溶接しているのに、溶接部分の母材が溶けてロー材と合金ができる感触が全く掴めなかった。ティグ溶接は難しいという印象だけが残る体験だった。

 

チタン合金フレームのスペシャリストがパナソニックのPOS工場にいた。やのクラフトマンのチタンフレームのビードの美しさと接合強度は評判だった。ジグ上で点付けで設計図通りにチタン合金製のフォーン加工されたチューブが固定されて、自在に動かせるハンガーに仮止めされたフレームがセットされて、接合部分が細く盛り上がりの少ない美しいビードで溶接されていく。これはマジに凄腕、日本の匠というにふさわしいティグ溶接作業だった。

 

チタンは金属アレルギーを起こしにくく、ナチュラルカラーはなぜか魅力的で、酸化にも強く美しさをキープしやすい。チタン合金といっても、いくつかの種類がある。合金チタンはアルミ、チタン、バナジウムの合金で、6、4、5の配合比率のもので6Al4Ti5Vと表示される。3、2、5の配合のエアクラフトや軍需用チタン合金がある。粘りや引っ張り強度や耐衝撃性や加工のしやすさ、耐熱性や、耐酸性の違いがある。日本が得意なのは純チタンに酸素透過した抗張力の優れたチタンだTIGのブランドがフレームに採用している。

 

合金チタンは軍需産業や航空機製造の分野からスピンオフしたものでチタンにも強度があるものないものがあるので、チタンならなんでもいい訳ではない。強度がある材料ならスチールパーツと同じ形で置き換えて作ることができて、ほぼ同強度で重量は55%に仕上げることができる。メーカー指定トルクで締め込んでぐにゃっと感じたら、命がかかっているので、それは採用を止めたほうがいい。

 

航空機用の軽量ネジをCNC加工していたメーカーが自転車パーツ用の軽量ネジやシャフトを作ったり、航空機用部品や軍事用部品の鍛造や引き抜きや電縫管チューブのメーカーがフレームや部品を作っている。モラッティはフレームやパーツメーカーとして有名だったが、ウクライナ、カザフスタン、ロシアに生産拠点があった。サンドビックやライトスピードもチタンフレーム製造で有名だった。イタリアにもブランドに供給する、表に出ないゴーストメーカーがある。

 

製品開発アドバイザーのリッチーは商品価値を高めようと、ビードも仕上がってからさらに綺麗にしようと削ると、極端に接合強度が低下してしまうことも学んだという。ティグ溶接後に低温ロー材でフィレット溶接して強化する、リッチーロジックの丹下製のバテッドチューブを使った軽量フレームのP22もXCレースへ実践投入したという。アルミのティグ溶接フレームにもチャレンジしているという。

 

ブリヂストンサイクルもブリヂストンアメリカを設立して、アメリカでのバイク販売に取り組んでいた。リーベンデールをプロデュースしているグラント・ピーターセンも所属していて、リッチーと組んでサスペンションなしのリジットの軽量MTBを開発していた。リッチーロジックのロードパーツを思わせるスマートデザインのパーツ群が採用されていて、アメリカのみでの販売モデルを逆輸入して手に入れて乗っていた。

 

ピーターセンはカンパニョーロマニアで、日本に来ると電話して来て、キャンピーはあるかと、家へ遊びに来ては川越の自転車の倉庫に行って、そろそろビンテージ物になるレコードやグランスポーツなどのストックを分けてくれとか、インナーギヤが44Tまでの旧PCDのレコードクランクと抵抗の少ないハンガー小物を見つけて大喜びで、この時代の奴がアルミ合金の材質が最近のものより硬いんだ、クランクと5アームが別のアルミ合金だと言っていた。旧ピッチサークルのスペアのギヤ板も探し出して、いっぱいパーツを抱えてアメリカへ持ち帰っていたのだ。

 

リッチーはスチールにこだわっていたが、MTBのフレームはオーバーサイズアルミ合金チューブへ移行して、溶接アルミと呼ばれる6000系で、最適なロー材を選んでも、粘度が高いのか表面張力があるのか、ティグ溶接のビードの盛り上がりが大きくなって、美しくないという、特に強度が必要なエンド部分の溶接痕がボテボテしてしまうのが気にかかるというのだ。台湾のビルダーの作るアルミフレームは、美しいビードでしっかり接合されていると腕の良さを褒めていた。ではでは。