クマさんのバイク専科

溶接フレームの基本を山岸さんに教わった!

日本のオーダーフレームの世界は、フレームビルダーが意図して作っていたのか、バイク乗りが勝手に思い込んだり、正しい知識を学ばないで勝手に作っていたのか、いいくつもの神話のベールに包まれていた。多分その両方が誠しやかな話を作り上げていたのだと思う。神業みたいな話がフレームビルダーの口からも放たれていたように思う。そんな時代背景の中で、僕は山岸さんというフレームビルd―の口から語られることが信じられた。山岸さんはバイクのフレームは芸術作品でもなく、だいたい僕の作品というような奴は信用できないというのだ。確かにいたな〜。

 

フレームのスケルトンの中にもいっぱい神話があって、それをどこかで聞きかじってきて、オーダーフレームに断片的な知識を盛り込もうとする人も多いという。例えばフロントセンターの長さ。つま先が絶対に前輪タイヤに触れないようにしてほしいという。ところがオーナーの身長が小さいので、フロントセンターを長くしようとすると、トップチューブを長くするか、ヘッドアングルを寝かしたり、フォークオフセットを大きくするしかない。いずれにしても走りやすいフレームスケルトンのセオリーから外れてしまうのだ。

 

オーダー通りに設計して、ラグレスや、ラグを熱で煽って、チューブを設計図通りに溶接することはできても、思い通りのハンドリングができないのでは、レースやツーリングをしてもチッとも楽しくないので、オーダした意味がないという人だった。それをいくら説明しても、前輪タイヤにつま先が触れないことにこだわっているから、どこで聞いてきたのかイタリアのロードバイクのフレームはそういう設計なのだという。そんなサイズの小さいフレームがレースでまともに走れるわけがない。

 

ところが、実際のイタリアンブランドのフレームは、芯―トップサイスで500mm前後のフレームは、低速走行でバランスを取るために大きくハンドルを切ると、つま先が前輪タイヤに触れるモデルばかりだ。実際に自分で調べもしないでこうゆう噂を信じているのだから、マニアは始末が悪いという。フレームにはサイズによって乗りやすタスケルトンのセオリーがあって、多少の調整をできるが、その数値から大きく外れると乗りにくいフレーム、くせがあるフレームになるというのだ。例えばトップチューブを伸ばしてフロントセンターを伸ばせても、今度はステムを短くして、ブラケットの位置を最適化するので、ハンドリングが軽くなりすぎるわけだ。

 

フレームタスケルトンの意味、フォークオフセット、ヘッドアングル、トレイルの意味。ハンガー下り、ヘッドアングル、シートアングルをどうするとどうなるかという基本から教えてもらった。フレームチューブも丹下、イシワタ、コロンブスな、レイノルズど各モデルの特性も教えてもらった。フレーム全体や部分の剛性を左右する重要なファクターという。加速や踏み込んだ時の反発の早さによるペダリングへマッチするかしないかもあるという。剛性の高いものがそのライダーの走りにマッチするとは限らないというのだ。そのほかにもラグやフォーククラウンやハンガーの剛性の違い。エンドの違いなどもあるという。

 

さらに難しいのはテーパードチューブのどこを切り出して使うとどういう乗り味になるかだという。シートステー、チェーンステー、フロントフォークがそれだ。さらにテーパードチューブの肉厚によってもフレームの剛性が違ってしまう。さらに、フロントフォークはストレートブレード、400アール、先曲がりのベンディング加工で、ショック吸収性も大きく違ってしまうのだ。山岸さんはフレーム作りの手順を追って見せてくれた。チューブ選び、接合部分のミーリング加工、溶接前のチューブとラグの酸化膜削除、仮組み、ジグに乗せて設計図の寸法へ合わせる作業、仮溶接、本溶接でラグの中へ注ぎ込むロー材の量、どこをどういう手順で溶接すると狂いが出にくいかという順番、酸処理、フラックス落とし、はみ出したロー材のヤスリがけ、ラグのエッジの仕上げ、常磐の上でのセンター出し、焼き付け塗装までの工程を公開してくれた。隠す必要などないという。

 

溶接する部分によって抗張力の違うロー材を使っているという。ラグなどは躊躇なく全体を赤くなるまでアセチレンバーナーで温めて、 

抗張力の高いロー材を全体に流し込んで溶接強度を高めている。ロー材をツツツーと流して、ラグとチューブとの境目だけ流すようなことはしない。強度不足で抜けてしまうことがあるからだ。持っているロー棒がどこまで吸い込まれているかも重油な指標だという。

 

ロー付け溶接は、ヤスリやサンドペーパーやサンダーで、ピカピカに溶接部分を仕上げて、酸化膜を取り除いた母材に酸化還元剤のフラックスを塗ってから、バーナーで温めてロー材を流し込むと、母材の金属表面とロー材が合金を形成して密着する。しっかりくっついていれば剥がれることはない。加熱し材料劣化を避けることを気にして、流し込むロー材が少ないと、一見くっついているように見えて、ロー材を削り取る作業が楽になるが、ロー切れ状態になって、力が加わるたびにグラグラ動いて剥離してしまう。

 

フレームのチューブは溶接の世界では肉薄のデリケートな溶接といわれている。熱を加え過ぎてオーバーヒートさせると、金属劣化を起こして脆くなってしまい。火を当てた場所の近くに脆いポイントができてしまい、折損の原因になることがある。フレーム製作のローズケ溶接は金属母体を熱残留応力による劣化させにくい比較的低い温度で作業するので低温ロー付け溶接といわれている。宝飾品に使われている抗張力の低い銀ローを使っているということはほとんどなく。真鍮合金の抗張力の高いロー棒が採用されている。

 

溶接の接合強度はどのくらいロー材を流し込めたかで変わるという。溶接前のチューブやラグの酸化皮膜を丁寧に削り落として、さらに酸化還元剤のフラックスを接合部に刷毛塗りすることも重要という。オークリーの光の透過率低いサングラスをかけてロー材の流れに注目していると、溶接技師の免許にチャレンジしたらと言われた。基本は教えてあげるから講習会に行って免許を取るように言われたので、いつ講習会があるのかを調べて申し込むと、アセチレンバーナーの火の付け方、灯の絞り方、ガスボンベの逆流防止装置の扱い、ボンベのバルブの開閉、クロモリチューブの切れ端をミーリングして、溶接サンプルを実際にロー付けして、テストピースを作った。

 

講習会での実技も慌てることなくこなせて、講習会が終わってほとんどの人が合格していた。証書を見せに行くと、ラグとチューブをよをロー付け溶接させてくれて、ロー棒のここまで流し込まないとダメだよと言われて、広い範囲を温めないとロー切れを起こすことを体験できた。しかも材料をオーバーヒートさせない素早い作業が重要ということが理解できた。山岸さんには、フレームチューブの違うもの、ハンガー下りの違うもの、スケルトンの違うなど、ロードを数台と、ケーブル完全内蔵や、センタープルブレーキ台座直付け、ダイナモ台座がフロントフォークへの直付けのスポルティーフを一台、24インチの凝った工作満載のフルオーダーの軽量ミニサイクルも作ってもらった。

 

山岸さんは当時現役の登録レーサーで、一緒にバイクで帰ろうということになって、夕方の道を2人で走り出すと、容赦なしのピードで走り始めた。当時1000mを1分10秒で走れていたのに、長いのが苦手だったので、志木から上福岡まできたところでぶっちぎられた。ちょホホな思い出がある。フレーム作りを辞めた山岸さんは内装の仕事に移ったが、JCRCの役員として活動し始めていて、JCRC主催のレース会場へ取材に行くと、よく会場で出会って話し込んだものだ。スチールフレームの作り方を教えてくれた師匠なのだ。ではでは。