クマさんのバイク専科

サンダーバードはCG化する必要はない

サンダーバードをNHKでリアルタイムで見た世代はもう60歳代になっている。放映権が民放に移って再放送で見た世代もいるだろう。日本だったらアニメかチープな特撮のコンテンツになっていただろう。イギリスの工房で作られた人形やキャラクターが活躍していたサンダーバード、時代設定としては近未来的だ。アメリカのプレジェンスが効いていた時代だったけど、冷戦とかは感じさせないし、国連的な国際秩序の浸透を感じさせる。設定には秘密基地の所在も、どこからやってくるのかもわからないことになっている。レーダーや偵察衛星のある時代にはちょっと苦しい設定だ。

 

とにかく、人形や乗り物やビルディングなどの都市のキャラクターデザインも、画面そのものはものすごく作り込まれていて、制作費と時間の塊を感じさせるものだ。マリオネットなのでおしゃべりのシーンはまさに口パクで、アクションシーンにも動きの限界はあったけど、毎週日曜日の夜や再放送の土曜日の午後を楽しみにしていた。地球上の誰もが救いを求めたら、助けに行く、元宇宙飛行士のトレーシーの家族で結成された国際救助隊の活躍物語だ。

 

現実の時代としては、中国、インド、パキスタン、アメリカ、ソビエト、イスラエルの核実験や開発が盛んに行われて、殲滅的な破壊力はアメリカの日本の広島や長崎への原爆投下で実戦で証明されていた。核抑止力という切り札を持とうと開発競争が行われていたが、原子力がまだ夢のエネルギー源として扱われていた時代だった。原子力エネルギー採用の超大型旅客機、放射能防護シールドが数時間しか持たないという危うさを持った設定だった。飛行場へ着陸するのにギヤダウンすると爆弾が爆発するといテロ攻撃への対応ストーリーだった。

 

サンダーバード1号は大気圏内の垂直離着陸機能を持った高速機、2号がカーゴシステムを持った大型機材運搬機、3号が宇宙を行き来できるシャトル機、4号が潜水艇、5号が宇宙ステーションだ。サンダーバードはそういう機材のキャラクターデザインがすごいが、島の秘密基地の作り込みもすごい。リビングの顔写真のパネルの前に立った隊員が、滑り台のようなシステムに乗って、物流センターの種分けシステムのように、隊員を機体の中へ運び、操縦席に座らせる。プールがスライドして、1号が地下の台車で発射位置へ運ばれて垂直に飛び出して行く。

 

2号は救助活動に必要な機材コンテナを選んで、4本の脚でジャッキアップされたボディをおろして収納して、格納庫の扉が開いて、偽装の椰子の木が左右へ倒れて、機体がスライドしてきて発射台に乗って、ジャッキアプされてから、2つのエンジンをふかして飛び出して行く。1つ1つの機体のギミックが面白すぎる。サンダーバード2号が空港に到着すると、自動追尾システムの3台の台車が出て来て、車輪を下ろさない飛行機の機体を支えて走行するというものだった。とにかくサンダーバードの飛行機や車や潜水艇のデザインは秀逸だった。かっこ良かった。

 

飛行機は胴体着陸ではなく、高速で走る3台の台車の上に乗せるのだが、1回目は高速で走る台車の1台が操縦不能になって離脱してしまい、着陸態勢を取り止めて、2度目のタッチダウンへチャレンジする。もう見ている方は手に汗握る。2度目は3台の台車に機体がうまく乗って機体はエンジンを切ると、台車にずっしりと重さがかかる。サスペンションや台車の沈み込みがゆっくりでかなりのリアル感だ。今度は滑走路内で止まれるのかが問題になる。

 

滑走路を飛行機を乗せたまま高速で走る、3台の台車には大きな太いスリックタイヤが付いている。台はサスペンションで支えられて、台の上には機体が乗っている。台車はタイヤをフルロックさせるほど強力にブレーキをかける。タイヤはロックしたり、ブレーキは煙を出して必死で止めようとしている。凄まじいブレーキ音がして、滑走路のエンドが迫る。タイヤがバーストし始めて、スピードが落ちたところで、台車の位置から機体がずれ落ちて、飛行機が停止する。ものすごいリアルさで引き込まれる。

 

一方で黒柳さんが声優を務めるレディ・ペネロープの車、パーカーという元ギャングがドライバーを務めるピンクの車もすごい作り込みだ。どう見てもロールスロイスがモチーフになっていて、戦闘機のポリカーボネイトのキャノピーのような、透明のドームが座席を覆っている。やっぱりイギリスっぽい。例のロールスロイスのフロントのラジエータグリルの近くにはマシンガンが埋め込まれている。前2輪、後ろ4輪の未来カーだ。ストレッチリムジンより実用性がありそうだ。高速道路を走る姿がまた良くて、イギリスの制作会社らしい伝統を感じさせるオシャレなデザインだ。本当にこのデザインで売り出してもいいんじゃないか。

 

サンダーバードはリニューアルされてCG化されて放送されたが、そんな必要は全くなかったと思っている。デジタルリマスター版のマリオネットの映像こそサンダーバードそのものだった。リマスター版を大画面の液晶モニターで見て驚いた。小さな画面のテレビで見たのと別世界だった。高速道路の路面がコンクリートとアスファルト路面の違いも表現されている。

 

飛行機のエンジン周りの排気による機体の汚れ、滑走路のタッチダウンする場所のタイヤ跡、ビルや倉庫街の壁面の仕上げ、エンジン音に合わせた排気の煙の緩急、カメラの工夫なのだろうけど、2号の巨大さを感じさせる遠近感はすごかった。こんな、何気ないカットに、ものすごいノウハウが投入されていたのだ。これで高速で飛べるのというかっこ悪いデザインのシャトルを、糸が丸見えで、2つのエンジンからは火薬で煙を噴射している、日本の有名な特撮プロダクションの映像とは次元がまったく違っている。

 

あの手間暇かけたキャラクターの作り込みは1つ1つのデザインがが完結している。制作費や時間のかけ方は、合理化の波に押し流されて2度とできないだろうな。メイキング映像も残されているが、煙の出方が気に入らないとかで火薬の仕込みをやり直し、煙の量をコントロールする装置を作って組み込み、納得の画面を追求している。巨大スタジオのプールの深さが変更されて、船の進む航跡がもっとリアルにというので船体を引くスピードが変更されてテイクが重ねられていて、作り手の情熱を感じられるシリーズだった。すごい!。ではでは。