クマさんのバイク専科

サドルのセンターと高さの決め方

スポーツバイクで実際の平地や上り坂のフィールドを走っていて、スピードやケイデンスやトルクが変わった時、サドルの上で腰の位置が移動してペダリングしていることに気がついたことありませんか。人間エンジンは高トルクの高回転のペダリングでも走れるし、低回転の高トルクでも走れます。特殊なパワーユニットなのです。モーターやエンジンの高回転高トルク型エンジンとは違います。太もも全体を使った全体踏みセンターから後ろ乗り。太もも前側を使って踏む前もも踏みはセンターから前乗りです。

 

ロードタイムトライアルや、ロングディスタンスのトライアスロンのDHバーポジションのフォームは、上半身を固定して、腰の位置をしっかり固定して、体重を利用して脚を踏み込む前乗りですよね。骨盤の角度を調整して、全体踏みと前もも踏みを切り替えてペダリングしています。前乗りは、センターに止めたサドルの先端りに腰を固定したり、前寄りにサドルを固定してサドルのセンターから先端へ腰を固定してペダリングしています。腰の位置を前に移動すると、体重を利用してペダルを踏み降ろすことでトルクを増すことができます。1踏みのパワーを増すことができます。その極端なのがダンシングです。

 

腰の位置は前に移動すると、踏み込み重視のペダリングになりがちで、体重を利用して限界に近いスピードで、一本調子で走るのに向いています。スピードもあるし耐久力のある前もも主導のペダリングです。集団走行の高い速度に付いて行くのに向いているけど、スピードの変化には対応しにくいペダリングです。プロ選手でもこのポジションで走っている選手もいますが、ステージもTTセクションもこなせるオールラウンドの一流選手は、ほぼセンター乗りです。

 

全体踏みペダリングは、体幹、太ももの前後、臀筋などの広い範囲の筋肉主導なので、大きなパワーを発揮できて、体幹的には軽く踏めて、疲労を分散できる長く続けられるペダリングで、アタックなどの急激な速度変化には対応しにくいですが、じわじわ追い上げたり、高速巡航には向いています。骨盤の角度で切り替えることができます。この骨盤の角度を意識するメソッドは、4〜5%の緩い数kmの長い上り坂で、アウター・トップギヤで、ハンドルに手を添えるだけで、毎分50回転前後でペダリングします。

 

腰をサドルにしっかり固定できる骨盤の角度へ自然になります。その感覚を意識してできるようになれば、太ももの前後や臀筋や体幹の筋肉を動員する、全体踏みの骨盤の角度を意識できます。腕を使って引いたり押したりしなくても、スムーズにペダリングできて余計な力を使わなくてもスピードを維持できるようになる。今までと違った効率のいいペダリングを体験できるようになる。

 

そのメソッドを体験すると、自然にパワーを引き出せる腰の位置へ移動します。回転が毎分90回転とか、120回転になると、また自然に腰の位置が移動します。実戦の場合は高回転で高トルクでパワーを引き出すことになります。平地と上りの走行で、同じワット数を発揮していても、微妙にペダリングが変化するので、腰の位置も微妙に変化します。踏み込むパワーが違うと、上り坂では低回転で高トルクになって、だんだんカカトが下がり気味でペダリングするようになるので、サドルを高く感じますが、高回転でトルクを発揮しているときはカカトを10mmから40mmもあげてペダリングしているので、低く感じるのです。

 

ではサドルの高さをどう決めるのか。クランクのペダル軸はハンガー軸を中心に円を描いているわけです。一般的には円の6時の位置を下死点と言います。実際の下死点はもっとも遠い位置、6時の位置と5時の位置の間にあります。サドルの中心から最も遠い位置です。そこへ利き足側の足を止めて、膝関節を真っ直ぐに伸ばした時に、足をビンディングペダルへセットして、足の甲が地面と水平になるのが回しやすく、膝関節周りの靭帯や筋肉にストレスをかけない、故障の少ないサドルの高さだ。

 

この設定にすると、サドルを低く感じるライダーもいる。脚を伸ばしたくなるライダーもいる。そこで5mmから20mmも上げてしまうライダーもいる。その方が膝関節が開いて気持ちよくペダリングできるというのだ。確かにサドルがギリギリ高い方が短時間ならパワーを引き出せる。低いと感じるストレスもなく気持ちいいのが落とし穴なのだ。現役の選手でもそう思っているライダーもいる。

 

そうしているプロ選手もいたし、そういう指導をしていたコーチや監督もいたが、靭帯損傷や慢性の靭帯と筋肉の炎症などの修復移植手術のトップ選手の例が急激に増えて、80年代や90年代にメディカル的な見直しが行われた。ヨーロッパでは自転車競技選手のサドルの高さのデータが出ているので、長い目でみるとパワーが出ていても故障の原因になる事がわかったのだ。

 

前乗り後ろ乗り、筋力の強化や心肺機能の発達によりポジションも変化する。時代による流行りもあるが、バイオメカニクス的なエビデンスもあるし、メディカル的なデータもあるので、故障を起こさないポジションを採用すべきだ。気持ちよくペダリングできるサドルの高さが必ずしもベストじゃないことが。難しい部分だと思う。慣れてしまうまで我慢できるかがポイントだね。迷ったらトップ選手たちの下死点での膝の曲がりを見て欲しいな。脚の伸びきっている選手は絶対にいないことを確認しよう。

 

長短のクランクによるペダリングの出力の変化や、疲労の変化も、運動生理学のサイエンスとして、自転車競技がテーマの論文も出ている。とにかく回転系のペダリングでパワーを発揮して、心肺機能を高めて、呼吸はゼイゼイ、心臓はドキドキ苦しくても疲労の蓄積が少ないし、筋肉細胞のダメージが少ないことが証明されているので、使用ギヤ比も走り方もどんどん変わっている。サドルの前後位置は、どの速度や、上りか平地か、どの走りにマッチする腰の位置にフィットするように、前後へ移動するかを煮詰めていき、その腰の位置で、サドルの高さの確認を行なって、ベストなポジションへ煮詰めて行く必要がある。クランクの長さでも微妙に腰の位置が変わるのだ。

 

ローラー台で負荷を変えて、ペダリングケイデンスを変化させて、まずはいい感じの位置を探して、上り坂や平地の、実際のフィールドを走りながら腰のベストポジションを探して、その腰の位置にサドルがフィットする位置へ移動する。前後位置と高さの調整を、面倒でも繰り返すのだ。今回もOくんいい質問でしたよ。基本中の基本なのでサドルを動かせる工具を持って走って、時間をかけてポジションの調整に取り組んでください。煮詰めたポジションはとても価値がありますよ。ではでは。