クマさんのバイク専科

ちょっと狩猟民族は違うな!

ドイツでクリテリウムを戦っていると、ホテルもいいけど、郊外のペンションも清潔で、建物もしっかりできていて、部屋が広くてリラックスできる。調理場で働いているコックさんと仲良くなって、近所を一緒にサイクリングするようになった。調理場は清潔で、シュニツェルというカツレツや、生ハムや種類の豊富なソーセージにザワークラウトのサンドイッチをよく作ってもらった。スペインのセブという巨大な電気釜を持って歩いていたので、調理場と鍋を借りて、よくご飯をたいて、ちゃんとカツオ出しをとって、味噌汁を作って選手を喜ばせた

 

お米はアジアンマーケットやマルシェで手に入れていた。お豆腐も、納豆も、味噌も手に入る。ゆかりやのりたまを混ぜたおにぎりもサランラップで包んで作って、移動中の補給食にしていた。レース前にお腹が空いた時にも配っていた。のりたまのおにぎりが美味しいらしく、イタリア人選手がそれを食べたくてよくもらいに来ていた。そんな調理場の中で、真っ白のタイル張りで獣臭い場所があった。お肉屋さんにあるスライサーや、腸詰を作る注入器があった。天井からはフックが下がっている。どうも、動物の解体場所らしい。肉切り包丁や、皮を剥ぐ専用のアールの付いた小さなナイフが保管されている。

 

サイクリングに行くと、丘を鹿が走り回っていて、自動車専用道路を群が次々に飛び跳ねて渡っている。驚くほどの数が横切っている。一緒に走っていたコックさんが、うまそうだなと言っている。冗談なのかなと思っていた。だってとても捕まえられるようなスピードじゃない。4〜5mは飛んでいる。丘は麦畑や牧草で覆われている。高速で走っている車とぶつからないのと聞くと、鹿に飛び込まれて、ドライバーが死ぬ事故もあるという。夜間走行でライトに幻惑されて、鹿がフロントウインドに飛び込むらしい。鹿避けのフロントバンパー付きが多いのはそのせいだというのだ。

 

車の破損などの被害も多いので、気をつけて走っているという。翌日の夕方コックの車のバンパーが壊れて帰って来た。コックが妙に興奮した口調で、鹿がぶつかった。鹿を拾って来たと車の荷台に乗って、ピクピクしている鹿を見せてくれた。後ろ脚を麻紐で縛って、例の天井からのフックに引っ掛けてぶら下げて、首の血管にズブリとナイフを突き立てて、血管を切って放血させている、臭みがなくなるという。ヒズメの近くに小さなナイフを当ててくるりと切れ目を入れて、縦に一筋ナイフを入れると、足首から皮を剥ぎ取り始めた。

 

足首から太ももまで、布を裂くようなビリビリという音がして、引っかかると、ナイフを動かして肉と皮を切り裂いて行く。脂肪簿層がうっすらとあって、ボディはあっさりと皮が剥がれた。もう鹿の形をしたお肉の塊だ。筋膜と脂肪でピンク色だ。首から頭は切り離されて、関節で切り分けられた。筋肉も靭帯も切り分けるコツがあるらしく、しかも、ナイフがべらぼうに切れるらしい。手慣れた感じで切り分けられた。時々脂をシャープナーで落とす作業や、皮剥用のナイフがオイルストーンで研がれている。

 

いよいよお腹を切り開いて内臓の取り出しだ。気持ち悪いというより、テキパキとした手さばきに見入ってしまった。やっぱ狩猟民族は違うなー、剥ぎ取った皮は水槽に漬けられて、数日水で晒して、半乾きの状態にしてから、筋膜や脂をこそぎ落として、薬液にさらにつけて本物のディアスキンに仕上げて、鞣し革にするという。お腹を裂いて、1つ1つ臓器を取り出して洗浄している。これを細かく切ったり、ミンチにして腸詰めにするのだという。腸も取り出して水に晒して、腸詰めの材料にするのだ。関節や靭帯の場所を知っていて、小さなナイフで切り離して行く。赤身の筋肉も部位ごとに切り分けられて行く。

 

肝臓や心臓も切り分けられて、腸詰めの材料になって行く。赤身の筋肉は血抜きされて、明日の晩の鹿肉ステーキにするという。寝かせて熟成肉にして食べても美味しいという。干し肉も燻製させて保存食にしても美味しいという。見ているのはちょっと怖かったけど、狩猟民族というのはこういうものなのかという感じはつかめた。しかし、動物の体を知っていて、無駄なくサッサと処理するのはお見事としか言いようがない。農耕民族としてはちょっと違うなーという感じと、ナイフ捌きに尊敬しかない。

 

ゾーリンゲン、ヘンケル、ガーバー堺のナイフを使い分けていた。ガシガシ研いでは使っているので、どんどんすり減っているらしく、新品のストックと比べたら半分くらいの長さにチビっていた。日本製の薄刃の手打ちの包丁は本当によく切れると絶賛していた。布に包んだナイフや包丁を10本以上持っていて、日立鉄鋼のなんとか13という鋼材のナイフが欲しいと言っていた。もしかしたらラブレスが採用していた素材かな。ではでは。