クマさんのバイク専科

時速40kmのDHポジション:パート3

ダウンヒルスキーは直線や高速カーブでのスピードは時速90kmから120kmくらいに到達します。
100分の1秒差のタイムを争う競技です。直線部分や高速コーナーでの、
空気抵抗を減らすクラウチングスタイルがレース中に多用されるようになりました。
背中を円めてたまごのような形状の低い姿勢で、
腕を前へ伸ばしてストックを握った手をあごの下で合わせる風の巻き込みを防ぐフォームです。
 
スキーのストックはダウンヒラーのボディを迂回するように曲げられて、
先端のグリップする位置で絞り込まれて、ストックの後ろ半分はボディの影に隠れてしまいます。
前で合わせた腕で空気のふところへの巻き込みを防ぎ、空気抵抗を減らせます。
ところがこのフォームを高速で滑っているときに姿勢をキープするのは、
腕を広げられないのでバランスのコンとトールが難しくなります。
足腰の強化だけでなく、体幹の筋肉を鍛えてバランスを保ち、スキーの板をコントロールする必要があります。
 
クラウチングスタイルになれば空気抵抗を減らしてスピードは上がるが、
今度はその上がったスピードが、コーナリングなどの技術を格段に難しくしてしまうので、
速いのは分かっていても、競技スキーの技術としてダウンヒラーが取り込むのは困難でした。
高速コーナリングや直線のエアロダイナミクスのフォームを安定化させるには、
基礎トレーニングへの取り組みから見直す必要があり、
空気抵抗の軽減を重視したフランスのジャンクロード・キリーが、五輪で活躍するまで主流ではありませんでした。
 
時速100kmの世界で生まれた空気抵抗を減らすフォームを、
バイクの上で再現して空気抵抗を減らそうとするチャレンジを、
ダウンヒルスキーのコーチのブーン・レノンのアイデアを採用して、
スキーのアルミストックやゴーグルなどのメーカーのスコットが、
DHポジションを実現するハンドルバーの開発を始めました。
アルミ合金のチューブを手作りでベンディング加工した、オーダーメードに近いDH バーがトップ選手達に供給されました。
ステムに通してから、肘を乗せる位置には樹脂製のパッドが通されました。
 
短時間のピスト競技の場合は、時速58kmから60kmの世界です。
一旦スピードが巡航速度域に上がったら、団体競技の場合は先頭で空気抵抗を引き受けるライダーは、
基本的に空気抵抗の少ないDHバーポジションで走るのがセオリーになっています。
単独走りの1000mや4000m個人追い抜きの場合は、
加速区間はブルフォーンバーを握ってダンシングの1踏みのトルクの大きいペダリングに対応してスタート、
200mから300mでトップスピードに上げて、DH バーへ持ち替えて巡行速度で走る事になります。
 
ロードレースやとライスロンのTTバイクは、ブルフォーンバーとDHバーとの組み合わせで、
直線とかアールの大きい高速コーナーとか、イージーなコースはDH バーで走り空気抵抗を軽減します。
DHバーの先端を握って、肘をストレート部分のパッドへ乗せ、ステムの高さを調整すると、
DHバーポジションを実現できます。ブルフォーンの部分にはブレーキレバーが通されて、
DHバーの先端は絞り込まれて変速レバーが装着されてDHポジションのまま変速できます。
先端のグリップする位置はほぼ平行になっていて、左右のバーを握ります。
 
1本のチューブを曲げてオーダーで製作されていた初期のDHバーは、肘を乗せる位置、
先端の握る位置、ブルフォーン部分のアールや幅などが1本1本違っていました。
ドロップバーやブルフォーンバーにクリップオンタイプのDHバーが発売されて、
バーの左右の幅や突き出しの長さ、パッドの位置や向きが調整できるようになります。
 
最新のモデルではカーボンのブルフォーンバーに、
カーボンのDHバーを組み合わせるシステムハンドルが主流になっています。
DHバーの幅や突き出しの長さ、パッドの位置や向きが微調整できる構造が採用されています。
TTバイクには完成車メーカーが、エアロフレームのデザインにマッチする、
オリジナルで開発したブルフォーンバーとDHバーのシステムハンドルが採用されているモデルも登場しています。
 
プロロードのタイムトライアルが時速55km。
ロングのトライアスロンの180,5kmの世界のトップの男子が時速44km。
日本のロングのトップが時速39kmくらい。
ドラフティング走行の体験では、車間距離1mで、時速30kmでも、
ワット数にして前走者より10%近いパワーセーブできて付いて行ける効果がありますから、
空気抵抗の軽減は効果が大きいのです。
ではDHバーポジションはどれほどの空気抵抗軽減の効果があるのか。
時速55kmから40kmのシミュレーションで、ライダーのシルエットにもよりましたが、
DHバーポジションと、ドロップバーの下をグリップしたフォームと比較すると1%の軽減の効果がありました。
 
ドロップバーで時速55kmで走っていたら、DH バーポジションでは1%の軽減になります。
1%の差で1時間走ると550mの差になります。
時速30kmの1%軽減で1時間走ると300mの差になり、ただし、真っ直ぐなイージーコースを走った場合の想定です。
テクニカルなコースではDH バーポジションで走れる区間が限られてしまうので、
ポジションによる差は少なくなります。ではでは。