クマさんのバイク専科

ブルックスの革と樹脂のサドル:パート1

メイドインイングランドのブルックスの革サドルは有名です。
40年から30年も前の事です、大銅鋲のチームプロ、スワロー、カンパニョーロシートポスト対応の
レールの狭いプロフェショナル、普通のプロフェショナル、コンペティションなどを使ったことがあります。
当時、革サドルを交換する事は慣らすまでに時間がかかるので、お尻の痛さに耐えて慣らすので覚悟がいりました。
サイクルショップで手に入れた革サドルは、サドルのかっこうをしていますが素材です。
石ころのように固く、バイクへ取り付けても快適に乗れるわけがありません。
 
革サドルの革はなめされて、型に入れて時間をかけてサドルの形へ成型された牛の革が張られています。
新しいサドルは裏側からブルックスのサドルドレッシングというレザーオイルをたっぷり塗って革へ染み込ませます。
そこから慣らし作業が始まります。
時間をかけて気長に慣らすのがポイントで、どこにもブルックスの革サドルの慣らし方の参考文献もなかったので、
買ったショップの店長さんに聞いた、裏側からレザーオイルを塗る方法でチャレンジしました。
 
ところが、なかなかそれでは1週間、2週間、1ヶ月経過しても、お尻に馴染むまでに至らず、まるで石の上に座っている感じで、
座骨の出っ張りや、股関節の内側の出っ張りと接触する部分が、どうにも我慢できなくなるくらいに痛くなります。
完全に圧迫されて血行が悪くなって床ずれ状態です。
山用のニッカーなどで走れる状態ではありません。
どこまでお尻の痛みに耐えればいいんだという経験を使った革サドルの数だけしました。
 
サドルの裏側の扇形の部分にだけレザーオイルを塗りなさい、とアドバイスされていましたが、
それでは固い革がちっとも柔らかくなりません。
室温で何度も塗るのですが柔らかくなりませんから、ドライヤーの温風を当ててレザーオイルを溶かして染み込ませます。
サドルの表側にすりこぎを当ててしごいて革を柔らかくします。
これだと早くしなやかになりますけど、革がハンモックのような状態になっただけで、
いわゆるお尻に馴染むのとは違った座り心地です。
 
ハンモック状態になった革が、お尻の形に部分的なヘコミが薄らとできて、
フィットするようになるまで、一枚革や2枚革のサドルを6個ほど慣らして我慢してみました。
ブルックスの他に、イデアルの90コンペティションも使いました。
フランスの自転車雑誌のル・シクルの、パーツを線画で描くイラストレーターのダニエル・ルブールのアイデアで、
慣らし済みの革サドルが市販されていたので使ってみました。
お尻の乗る面がブルックスより丸く、いわゆる、この革サドルでなくてはダメという乗り心地には到達しませんでした。
 
当時の革サドルのライバルは、イタリアのユニカ社のプラスチックにパッド入りで本革でカバーされたサドルでした。
革とプラスチックのいずれのサドルも100kmから200kmを、翌日に走って快適と言えるものではありませんでした。
革サドルをお気に入りのライダーには異論もおありでしょうが、1年とか2年頑張ってみましたが、そう感じました。
 
とにかくお尻の形に馴染むという革サドルの幻の乗り心地を求めて、慣らしの方法をサドルメーカーに聞くのはもちろん、
革サドルの慣らしや革の張り替えやレーシングサドルへの加工をやっている職人や工房を訪ね歩き、
ミズノやローリングスのグローブ制作職人さんや、プロ選手用のグローブの慣らしを担当している職人さんに
慣らしの方法を聞きに行ったりもしました。
 
フランスのサドルの慣らし屋さんの職人がやっていた、革をハンモック化してしまう、
レザーオイルを満たした鍋でサドルを煮込んでしまう方法まで試しました。
裏側全体にレザーオイルを塗ってドライヤーで温めて吸い込ませる方法も試しました。
革がフレームの上でしなやかになってハンモック化してお尻への当たりは柔らかくなりますが、
サドルのスカートが開いてしまいペダリングは快適ではありませんでした。
一度開いてしまったサドルのレザーオイルは、抜けるまで数年かかります。
 
ブルックスのプロフェショナルの絞りに合わせて削った木型に、オイルの染みたサドルをはさんで、
洗いざらしのタオルで包んで、ストラップで締めて保管して置いても、元の形へ戻るかは分かりません。
やはり、サドルの上の面の扇形のエリアに裏側からたっぷりとレザーオイルを塗って、
外側のニスを細かいサンドペーパーではがして、表面からもレザーオイルを塗って、ドライヤーの熱風で溶かして吸い込ませ、
サイドのスカートにはわずかにオイルを塗って、上の面を樫の木で作ったすりこぎでこすって柔軟にして、
実際に座って走り、数ヶ月我慢して慣らすのが無難なようです。
パート2へ続く、ではでは。