クマさんのバイク専科

長く走ると苦しくなるフルパワー重視のポジションを変更!

数年間ライダーのポジションを見続けていると、走れているとき、冬眠からの開けの状態、色々見させてもらって、どう対応すると現時点の体力に見合ったポジションに設定できるかの勉強になります。人間は心肺機能が向上してスタミナが付いて強くなったり、筋力アップや耐乳酸性が向上してスピードが速くなったり、逆に走れたり運動いたりの時間が作れなくて、心肺機能が低下していたり、筋力や耐乳酸性が低下して、踏めなくなっていることがあります。固定式のローラー台で20分間ウオーミングアップしてもらい、少し負荷を増してペダリングしてもらいますが、短時間のチェックでは、体力がどう変化しているかを見極めるのが難しいのです。

 

実際の黒姫高原や斑尾高原や妙高高原のライドに出て、平地や上り坂を走っているのを見ると、体力の変化やペダリングの特性がはっきり見えてきます。サポートカーから見て感じたことを、ライド中の休憩時間にポジションへ反映させて快適に走れる設定に移行することもあります。ホビーレースとか頑張りたいライダーは、トップコンディションのイメージがあるので、パワーを引き出せる苦しいポジションへ設定にして走りがちです。今回、黒姫合宿に参加したライダーの中にもそういうライダーがいました。

 

筋トレや頑張ることが大好きなライダーで、体力任せの踏み込むペダリングを頼りにしていて、クランクを回してパワー発生の効率を高めることに踏み切れないライダーです。パーツを組み替えるのが得意だそうで、自分で組み立てたカーボンバイクを、ビッグプーリーに昨日交換したとか、ちょこちょこポジションもいじってあるそうです。最初に黒姫合宿に参加した時は、5年ぐらいオーバー—ホールしていなかったカーボンバイクで、ヘッド小物のベアリングがさびついていて、ボールベアリングが三角形や四角形(ホントです)になっていて、ヘッド小物がガクガクで、ハンドルが切れない状態のバイクの持ち込みでした。

 

結局バイクは錆び付いていてベアリング交換しようとしましたがフロントフォークすら抜けず、まったく回復できませんでした。結局はバイクを貸し出して走ってもらいました。翌月の黒姫合宿のホームページの参加条件に、バイクの完全整備状態での持ち込みの項目が増えました。ところが、次にそのライダーが参加した時の別のバイクは、シマノのリヤの変速レバーのラチェット機構が壊れていて、回復不能で3段変速の状態での参加でした。という度重なるメカトラブルの実績があるのです。バイクをいじれても、メンテナンスのポイントやヒエラルキーがボクとは違っているので、一緒に走るのに途中で不具合が発生するといけないと思いました。

 

自分でパーツを交換して調整したポジションには自信があったらしく、フィッティングはしなくてもいいと言うことでした。1年ぶりなのに、ここへ何しにきているんでしょ?。ポジションのチェックと同時に、心配だし、走り出してからメカトラブルが発生では、現場で修理できたとしても、時間をとられて他の参加者に迷惑をかけるので、バイクの調子もチェックしました。

 

やはり今回も、基本的なバイクの整備ができていませんでした。黒姫合宿は、プロメカニックのメンテナンスを受けた、整備されたバイクでの参加をお願いしています。自分で整備できるひとの場合も完全に整備したバイクでの参加をお願いしています。点検すると、ブレーキケーブルに白サビが発生していてライナーチューブとの摩擦がひどくて動きにくく、引くとブレーキレバーが戻らない状態でした。ビッグプリーをいじるより、安全に関わるブレーキケーブルの交換を優先してほしかった。整備能力を過信しているのでしょう、スポーツバイクの安全に重要なポイントを理解して整備調整して欲しいな、こういうの困るな〜!。

 

サドルは5mm以上高めの設定で、踏み込んだ時に足が伸びて気持ちいいのでしょうが、ペダリングする脚が上死点と下死点近くで停滞していました。ステムは長くて低い設定です。上半身が柔軟なのでこれくらいがいいのだそうです。ドロップバーの上の直線部分は前上がり、ブラケットの上の面も前上がりの設定です。ステムが長いし、グリップ位置も低過ぎて腕が伸び切って、しかも腹部への圧迫があるので、長く走ると苦しいはず。聞くと、肩や首にストレスがあったそうです。遠くて低いグリップ位置の設定をカバーするために、ハンドルを前上がりに設定して、さらにブラケットを前上がりにして、グリップする位置を高く、そしてライダーに近づける設定にしていたのです。それでも苦しいポジションになっていました。

 

踏み込み中心のペダリングのライダーなので、前上がりのブラケットやバーの設定で腰が前に出るのを腕で押さえて、踏み込んでも腰が前へ出にくい効果もあったかも知れません。ドロップバーの突き出し部分がこれだけ前上がりの設定では、アナトミックバーの下をグリップした時、手首にストレスが発生する角度になっています。ブレーキレバーの先端にも指がとどきにくい状態です。ダウンヒルではどこをグリップして走っていたのかな?。対応策としては、ステムを10mm上げて、ハンドルの固定角度も上の直線部分が水平になるように変更して、ブラケットの面に手の平が自然に収まるようにしました。

 

ダンシングを多用する走りなのだそうで、極端なブラケットの上の面が前上がりの設定は、手首への負担が大きいだけです。前上がりの設定は、手をブラケットへ乗せるだけで、体重を使って脚を踏み込む時に、サドルの上で腰が前へ出ないように、腕を真っ直ぐにしてつっかえ棒的にするのには向いていますが、長く走ると肩や首や腕の疲労の原因になります。凝りや痛みのために集中力を発揮できなくなります。低い設定は体重を利用して脚を踏み込みやすくなりますが、腹部への圧迫で呼吸を楽にできませんし、手の平にも重さが集中してライドの後半に痛くなります。

 

100kmとか150kmとか200kmとか走ったことを想定しないで、ゴールススプリントのようなトップスピードにフィットした設定、ぎりぎりまでもがいたときに力を引き出せる設定が正しいポジションと思っているようです。自分でポジションを設定したライダーは、発揮できる最大のパワーへ合わせる傾向があって、長い距離を走るとトータルでは疲れてしまい、効率のいい走りができない設定にしてしまいがちです。ロングライドもレースでも一緒ですが、ぎりぎりパワーを引き出せるポジションの1歩手前、半歩手前のゆとりのあるポジションに設定するというのがなかなか難しいのです。フルパワーで走れるスプリントなら1分以内、高速巡行でも20分程度、頑張って維持しても1時間ぐらいです。そういうシーンを重視するライダーは、ゆとりのある設定が苦手です。

 

自分は体が柔軟だからとか、呼吸には問題ないのでという理由で、フルパワーを発揮しやすいポジションに設定しがちです。力を発揮できると、思っている位置よりわずかに上半身を起こし、有酸素運動を楽にするための半歩のポジションのゆとりが、走行中に物足りなくなって、フィッティングしたハンドルやブラケットを低い設定に変えてしまうライダーもいます。サドルの高さも筋肉が疲労していない時に心地がいい、高目の設定に変えてしましまうひともいます。わずか数mmの違いですが、長く走るとペダリング回数は1日のライドで2万回前後、その1回の負荷の違和感は小さくても、疲労は少しずつ蓄積して行きます。

 

疲労した脚が、サドルの高い設定の爪先立ちのペダリングを支えられなくなると、踏み込んでいた足のカカトが下がって、膝関越が開いて脚が真っ直ぐに伸び切ってペダリングするようになります。関節の筋肉の故障や膝関節周りの痛みの発生の原因にもなる可能性があります。でも、そういうライダーを説得するのは難しいですね。自分でいじれるひとは、疲れていないときに走って、疲れを感じる前に違和感や物足りなさを感じると、パワーを引き出せる設定に動かしてしまいがちです。2ヶ月3ヶ月と走りこんで、ポジションに筋肉の可動域が慣れた頃に、長く走った時のトータルでの効率や快適性で評価してもらうといいのですが。ではでは。