クマさんのバイク専科

なんでチェーンがスリップするんだろう!

フロントを変速したのに、アウターギヤとインナーギヤの間にチェーンがはまってしまって、チェーンが歯先へ乗らないで、スリップしてしまう、気持ちの悪い現象は昔のチェーンホイールでは時々ありました。歯先間隔に問題があるのと、チェーンリングの剛性不足で変形して挟まっていたりしました。チェーンリングの歯先の形状は山が高くてチェーンが収まりにくい形状なので、踏み込んでもスリップして変速しないという現象になることがありました。

 

フリクションが増える手元シフトレバーのために、インデックス変速の性能が追求されて、より変速しやすくなるように、スプロケットの歯先形状はチェーンの移る位置を設定するためにコンピュータデザインされて、さらに専門のスタッフが実際に走行しながら歯先の形状を金ヤスリで微調整して、マスターピースが作られています。超精密な測定装置で1歯、1歯の形状をコンピュータに取り込んで設計図に起こし、スプロケットのプレス用の金型が作られています。

 

この作業をすべての組み合わせのスプロケットで行なっています。打ち出されたスチール製のスプロケットは、熱処理されてメッキなどの表面処理が行われて、グレードによって素材の違うスパイダーアームにセットされます。フロントのチェーンリングも変速する位置を設定するために、同じように設計されて製造されています。歯先の高さもかなり低くなっています。チェーン形状も移りやすいデザインになり、リヤ変速機の上プーリーとスプロケットとの歯先間隔も適正な距離が確保されるようになっています。

 

シマノはフロントの変速を解析して、チェーン移りを考えた歯先をカットして低くしてチェーンの移るきっかけになるカットティースや、チェーンの移る流れを配慮した、コンピュータ設計の異形の歯先形状の採用や、チェーンをアウターギヤ側へ引き上げるきっかけになるスパイクピンや、チェーンが移動しやすいスロープをアウターギヤに設定しました。変速性能を追求するために、位相を配慮したアウターギヤとインナーギヤの歯先形状や、チェーンが移動する、変速の位置を想定した歯先のデザインを採用した、専用の組み合わせを想定したチェーンリングを用意しています。

 

シマノはコンポーネントで組み合わせたときに最高の性能を発揮するようにチェーン形状、スプロケット、チェーンリング、フロント変速機、変速レバーが設計されています。フロントの変速はどうしても歯数差が大きいために、リヤの変速と比較するとスムーズさに欠けていました。ところが、トータルでフロントの変速の要素を見直して、1つ1つ変速の遅れになる要素を解消して、シマノはチェーンが移り始めて目的のチェーンリングに収まるまでのフロントの変速を、リヤ並みのスムーズさに進化させました。

 

手元シフトレバーのデュアルコントロールレバーになって、脚を踏み込みながら変速するライダーが増えています。当然ですが移動するチェーンにトルクがかかって変速しにくい状態での変速になります。チェーンリングにも力がかかって、歯先が変形する可能性が高まります。それでもシマノのチェーンリングなら、剛性を高める中空構造や、クランクの4アームも強化されているので、スムーズに変速できるようになっています。カンパニョーロも4アームにデザイン変更されて、固定ボルトの位置から歯先までの距離を短くして変形対策が施されて以来、フロントの変速性能が向上しています。

 

メーカーでは踏み込みながらの変速しにくい状況も想定して、それでもスムーズに変速するように設計しています。それでもライダーの変速テクニックとして、踏み込む脚の力を一瞬緩めると、よりスムーズに変速してくれます。電動メカでは内外の変速とも強力なモーターの力で動かすので、関係ないという人もいますが、変速機への負担も減るので、一瞬、ペダリングする脚の力を緩めるテクニックを使ってみてください。手元シフトになって踏み込みながらだけでなく、ダンシング中にも変速できるようになって、ほとんど意識されず、忘れられていたり、必要ないと思われていたテクニックです。

 

クランクの剛性アップ。チェーンリングの剛性アップ。スプロケットの変速性能アップ。チェーンの変速性能の向上などでこれだけ変速性能が向上したのに、最近、シマノのDi2コンポーネントユーザーから、チェーンのスリップが時々話題になっています。シマノのチェーンホイールは、インナーギヤでドライブしていて、トップギヤ側の3枚のスプロケットとドライブすると、アウターギヤの歯先に、斜めにドライブしているチェーンが接触するのを避けるために、インナーギヤの位置を、内側へ0、3mmオフセットしました。

 

しかも、プログラム変速にモード変更すると、50Tと34Tの組み合わせで登録すると、インナーギヤのときにトップギヤと2段目には変速できないようにプログラムされています。それほどチェーンの斜めドライブによるアウターギヤの歯先との接触の問題は重視されています。プログラム変速はライダーのシフトスイッチを押す1アクションで、フロントとリヤの変速システムが、ほぼ同時に作動することがあります。これが、最適なギヤ比と効率のいいチェーンラインを確保してくれるシステムです。

 

でも、この一瞬の動作が、もろ刃の剣でもあるのです。リヤのチェーンが斜めに移動して、フロントのチェーンも歯数差のあるチェーンリング間を移動している瞬間、チェーンが目的の歯先に移り切っていないときに踏み込むと、スリップの原因になることがあります。電動メカでなくても、同時に左右の変速レバーを操作して、変速させてしまうと、チェーンが歯先に収まっていない瞬間ができてスリップすることを再現できます。こちらは同時に操作しなければスリップのリスクを回避できます。

 

だけどプログラム変速の場合は、ほぼ同時に変速操作が始まってしまうので、スリップを避けるには、昔ながらの踏み込む脚の力を緩めて、変速しやすい環境を作ってあげるとか、高トルクの状態になる手前で変速しておくのが対策と言えるでしょう。プログラム変速の前後メカがほぼ同時に作動した時の、チェーンのスリップを解消するのが、昔ながらのテクニックで、ペダリングする脚の力を一瞬緩めてチェーンを移動しやすくすることとは、ちょっと皮肉な感じもしますが、有効ですよ。

 

外装変速機という、チェーンがフリーのスプロケットやチェーンリングの歯先から脱線して、目的のギヤへ収めるディレラー(脱線機)という変速システムは、歴史があるアナログなメカニズムで、それを、スムーズに変速するための、プーリーや、フロント変速機のチェーンケージの移動が、一瞬オーバーストロークさせて戻すという人間の操作を徹底的に動作解析して、数々のアイデアの積み重ねで、手元シフトレバーや電動シフトで再現しています。

 

デジタルなマシンシステムと思わせるほどに高性能化しています。ここまで進化させてきたシマノの開発能力って、やっぱりすごいなと思いますね。しかも、その基本性能の高さが、デュラエース、アルテグラ、105の上位の3モデルだけではなく、シマノのロゴが入ったコンポーネント全体に、なんらかの形で波及して、バイクのグレードに関わらずカバーできるモデルが用意され、信頼のブランドとして採用されて、リーディングカンパニーでいられる原因ですね。ではでは。