クマさんのバイク専科

タイムはどうなる、グループロシニョールの動き!

中国や台湾の工場で生産されているカーボンフレームを採用した完成車やフレームのブランドが多くなっている。ブランドの工場内に熱硬化処理できる炉を持っていて、オートクレーブ製法のカーボンフレームを生産できる、委託生産に対応する、ブランド名を表示しない、ゴーストメーカーも存在する。型もののカーボンフレーム生産は設備投資が大きく、手間もかかるので、生産拠点が人件費の安い地域へ移行する。カーボンフレームが普及して以来、自社工場で一貫生産しているブランドはごく一部になっている。

 

ビッグネームのジャイアントは台湾、スペシャライズドも中国、キャノンデールも中国、ピナレロは台湾、デローザは台湾、メリダは台湾と中国、トレックは台湾と中国とアメリカ、タイムはスロバキア、ルックはコンゴとフランス、カレラは中国、チネリは台湾とイタリア、フェルトは中国、コラテックは中国、サーベロも中国、コルナゴはジャイアント傘下で台湾とイタリアだった、ムラーカはイタリア、ビアンキは中国と言った具合だ。カーボンチューブやラグとチューブのパート別のカーボン成型品を中国で作って、組み立てやペイントをブランド国で行っている場合もある。基準があってクリアするとEUメイドやUSAメイドという表示がされていることもある。

 

フランスのファクトリーで生産されていた、タイムスポーツ社のカーボンフレームやカーボンパーツや用品やペダルは、各ブランドの生産地がアジアへ移行している中で独特の存在感があった。ビンディングペダルの生産から始まり、イタリアのアランや、フランスのビチューのアルミやカーボンの接着フレームや、ルックのカーボンフレームの生産に次いでスタートした、TVTブランドのアルミラグと接着カーボンフレームやカーボンフロントフォークの生産部門を吸収して、カーボンフレームの生産に参入する。

 

当時のタイムのカーボン繊維をチューブやフロントフォークへ成型する工法は、RTM工法の原型になるテクノロジーで生産されていた。フロントフォーク単体での販売や完成車メーカーへの供給もされていた。アルミラグとカーボンチューブの接着面にイオン交換が起きやすく電気腐食が起きがちで、接着強度が不安定なために、イオン交換を防ぐ接着剤や素材の組み合わせが検討されて、カーボン繊維の成型方法も進化して、カーボンチューブの形状や肉厚分布のコントロールも可能になって、VXSエッジ、VXRSアルチウム、ZXRSなどの、F1のエンジンパーツなどの製造にも採用された粉体のカーボンを超高圧成型した、カーボンラグとカーボンチューブとの接着モデルをリリースして注目される。

 

世界選ロードのウイナーズバイクにもなっている。イタリアナショナルチームのベッティー二選手の優勝記念モデルが白にペイントされたVXRSワールドスターだ。VXRSはストレートブレードのカーボンフォークに変更され、ヘッド小物はクイックセットのスタンダードサイズ、ハンガー規格はBSC&JIS規格で、最小のXXSサイズで1150gとタイムのフレームの中では軽量モデルで、超高圧で成型されたカーボンエンドが採用されてる。ボトルを固定するカーボンボルトも付属しているという徹底ぶりだ。名車と言われて、復刻版モデルのVXRSがシリアルナンバー入りの300本の限定版で販売されているほどだ。

 

タイムスポーツ社は数年前にグループロシニョールに売却されて、タイムはどう変わるのかが注目されていた。タイムのペダルは一時はマヴィックのペダルとして販売されていたが、フランスの投資グループの関係で、全く系列の違う、スキーやスポーツ用品でライバル関係にあるグループロシニョール傘下になったことで、このペダル供給の提携関係が突然解消されてしまい、結局は日本でのタイムペダルの販売チャンネルはポディウムのみになり、マビックペダルのリペアパーツの調達やメンテナンスは宙に浮くことになり、ショップレベルでは多少の混乱があった。

 

タイムスポーツ社の生産規模はもともとファクトリー規模で、1ロット200本というような生産量だった。中国の工場でのカーボンフレームの生産ロットが1000本とか2000本という規模とは比較にならない、カーボンフレームの製造方法も、カーボンプリプレグというカーボン繊維で織られた生地に、エポキシ樹脂を含浸させて、冷蔵装置に保管して、設計図通りの繊維方向にレーザーカッターなどで切り出して、職人の手で複雑な金型へ張り重ねて、強度や剛性を発揮するように、熱処理されて、パート別にラグやチューブが一体成型されて、さらにパートが接着されて、セミモノコックフレームに組み上げられる。

 

世界一の生産規模を誇る台湾のジャイアントの1モデルの発注ロットは1万台とか2万台と言われている。生産工場はその間にジグを動かすこよなく生産できるわけだ。途方も無い生産量だ。日本のブランドが中国の製造工場にオーダーしても1ロットの少なさや、日本人の品質管理の、仕上がり寸法精度のうるささに呆れられて、生産工程でのクオリティチェックが増えるので、割増料金を請求されることもあるという。

 

中国や台湾のカーボンフレームの工場は委託生産を積み重ねてカーボンフレームの製造のノウハウを獲得して、最近では生産工場のデザイン部門の能力が充実して、新型フレームの強度や剛性をコントロールするために、日本製のカーボン繊維のグレードや破断特性や乗り心地などの特性を把握していて、強度を発揮するプリプレグの繊維方向、重ねる枚数など、有限要素法や3Gグラフィックが導入されて、ブランドに対してエアロ形状などを盛り込んだフレームデザインを提案するケースも増えているという。

 

トップブランドのコンポーネントパーツの発注量は20万セットに及ぶこともある。タイムとは生産規模がまるで違っている。タイムにも試行錯誤段階があって、販売量の拡大を狙って、中国のカーボンフレーム生産モデルをラインナップしたり、販売国の組み立て工場で完成車にして販売する戦略も採用したことがある。中国生産モデルのカーボンフレームも、廉価版の完成車モデルも、数年で撤退が決まり、生産量というか、販売量の拡大には繋がらなかったようだ。30人規模のプロチームへの機材供給には最低でも100台の提供や、かなりの資金が必要なので、タイムスポーツ社の規模では無理があり、ツールやジロへ出場できるようなメジャーチームとのサプライヤー契約も途絶えてしまう。

 

タイムのカーボンフレームの製造工法は、カーボン繊維を成型したい形に専用の機械で立体的に編み上げて、熱硬化タイプの樹脂を編み上げたカーボン繊維に含浸させて、型に入れて熱処理しながら気泡を抜いて成型した、カーボンラグとカーボンチューブを接着するRTM方式だった。カーボン繊維を編み上げる手間もかかるし、含浸させた樹脂へのボイド(気泡)の残留の可能性もある、ボイドは強度にも関わる。肉厚のコントロールも仕上げも難しい、カーボン繊維の成型方法としてはクラシックで時間のかかる工法なのだ。

 

インスティンクトの登場で、前三角がセミモノコック製法に変わり、中国での組み立て部分が増えて、チェンステーやシートステーのRTM工法成型品とのミックスになっても、フランスでの最終製造工程を守っていた。常に4モデルから5モデルのハイエンドモデルを生産しているブランドだった。グローバル規模の販売を考えると、フレーム素材はアジアの協力工場生産の度合いを高めて行ったが、小規模生産のカーボンフレームブランドと言えた。

 

タイムはフランスに拠点を置く、資本金4億3000万円のスキーブランドのグループロシニョールに売却されて、2年目にしてファクトリーのスロバキアへの移転が決定されて、生産ラインの移転や増設、生産方法のテクニカルな指導も行われて、2019年にはスロバキア生産モデルが入荷している。スロバキアでの生産規模はフランスのファクトリーの2倍以上になり、技術移転もスムーズに進み、生産数も増えるし、生産スピードも効率化して、フランスで起こりがちな労働組合問題も解消できて、安定供給をできるようになると言われていた。

 

ロシニョールの傘下にはフェルトもあるし、スキービンディングのルックもある。ツールやジロに出場できるプロチームへの機材供給話しも噂されて、ブランドのアピール度も上昇すると思われた。もともと乗り味には定評があっても、ビジネスだから性能だけでは乗ってもらえない。しかし、スロバキアへ移転して生産が始まったタイムのカーボンフレームの販売数が伸び悩んでいるという噂が流れている。グループロシニョールはある意味投資会社だから、投資した分なるべく早いリターンを望んでいること、ハイエンドモデルのみの生産というビジネスモデルとしての将来も気にかかるところだ。

 

タイムのカーボンフレーム製造部門をスロバキアに作ったものの、ハイエンドモデルだけの生産では、グローバルでの販売実績の先行きに不安を感じて、始めたばかりなのに、フレームの製造部門からの撤退の噂が上がっているという。と言うことはプロチームへの供給も無くなることになる。この、気になる噂の信ぴょう性を確かめようと思っています。タイムのカーボンフレームが消滅する可能性があるとは、フェイクニュースだといいのだが