クマさんのバイク専科

港街のパースとバンクーバー

港街には美味しい魚介類が付き物だ。オーストラリアの西の端にあるのがパースという港街だ。バンクーバーはアメリカとカナダの国境近くにある港街だ。この2つの都市にはトライアスロンのワールドカップのために立ち寄っただけだが、幸いなことに、街を自転車で走ったり、コースの下見で1日丸々歩くことができた。レンタカーやバスや電車の旅では見過ごしてしまう、裏路地や小さなお店とも出会える。もちろん時間が際限なくあるわけではないので、見逃している場所の方が多いに決まっている。だけど、街の表情とか、雰囲気を掴むには、自転車や歩きのスピードは絶妙と言える。

 

パースの街には運河が流れ、両岸が芝生で、頭の上にでかい帽子をかぶるように、細く長いボートやカヌーを持って、てくてく歩いている人が大勢いる。お気に入りの場所が来ると、小さな桟橋からボートを穏やかな水面に下ろして漕ぎ出している。街中の水路まで海水が混ざっていて、ボートが浮いて軽く焦げるという。パースで時々話題になるのが、海岸でウインドサーフィンのボードがサメにかじられたという騒ぎだった。朝のワイドショーではサーフィンの波の高さや風の向きや強さの情報が流れる。

 

すると最後に、巨大なサメの出没情報で、沿岸警備隊のヘリからの空撮で、クルーザーと同じくらいの5mくらいの危険なサメが悠々と泳いでいるシーンが流されていた。オージーのことをアメリカの選手たちは、クロコダイルとかシャークというニックネームをつけるのはそのせいだ。沼でスイムの練習をしているトライアスロンの選手は、巨大なワニに喰われないために速く泳いでいるので、オープンウオータースイムが得意なのだというのだ。ふと見ると自然公園の警告板に、ワニがいるので遊泳禁止と書いてあったという、笑い話になり、クルックというニックネームが付くのだそうだ。

 

パースの水路にも、時々大きなサメが迷い込んで騒ぎになるらしく。ボートコースでオープンウオータースイムのトレーニングをした選手に、シャークのニックネームが付いたりするのだ。トライアスロンは、オーストラリアの国技のようなものだから、プロ選手がいっぱいいる。オーストラリアのプロ選手もアマチュア選手も、シドニーかパースやゴールドコーストに住んでトレーニングベースにしている。北半球と季節が逆なので、オーストラリアの選手にはオフシーズンがない。オーストラリアが寒くなると、北米やヨーロッパのシーズンが始まる。

 

トレーニング拠点を世界中のトッププロが集まるサンディエゴへ移して、バイクやスイムやランニングのトレーニングセッションが毎日開催されている。トライアスロンのプロコーチも、トレーナーも集結するので、ロングもショートの区別なくプロ選手だらけだ。別荘地として人気のあったフロリダ半島も大勢アスリートがいたのだが、だんだん治安が悪くなって、別荘の住人も減って、トレーニング地としても人気がなくなり、サンディエゴに集中するようになった。パースに帰るというプロアスリートと一緒に移動することになって、格安のカンタス航空で移動した。

 

空港で、大きな荷物を宅配業者に預けてしまい、翌日の午後に選手の家へ届けてもらうことにして、空港近くの駐車場に預けてあった車で向かったのは、港の近くの小さな入江だった。小さな間口のオイスターバーが10軒ぐらい並んでいるのだ。入り口に置かれた木製の大きな桶には牡蠣殻が山積みだった。選手お気に入りの1軒に入り、お盆のような真っ白な大きなお皿をとって、ガラスのショーウインドに並んでいる、むき出しの牡蠣を指差して、個数を言うと、トングでお皿の上に並べてくれる。大きいの、小さいの、微妙に形が違うのが、10種類以上ある。

 

全て味や食感が違うので、全部食べてみろと言われたが、1個の大きさがとんでもないのもあるので、とりあえず5種類を2個ずつ選んで食べた。レモン汁、塩、特性ソース、いろいろかけて食べてみたがどれも美味しい。そうだ、バッグの中に日本で買った醤油があった。醤油と細かく刻んだた玉ねぎを乗せて、レモンを垂らして食べたら、最高に美味かった。お皿を持ってお代わりをしに行くと、店員さんも醤油味が気になったらしく、トライしてみたいと言う。牡蠣を5種類頼んだのに、サービスで10個になっていた。

 

日本人旅行客用にそれから醤油がテーブルに置かれるようになったそうだ。20個も牡蠣を食べて大満足で帰った。毎年パースのワールドカップ終わりは、このお店に立ち寄って、白ワインを舐めながら、生牡蠣かオーブンで焼いた牡蠣を食べて帰ることになった。さて、カナダのバンクーバーも名物レストランが港にある。昔の船や網を収納する小屋が、魚介レストランに改造されているのだ。タラのスープ、ムール貝のスープ、イワシの酢漬け、魚介入りのポテトサラダ、クラムチャウダー、Tボーンステーキ、魚のフライ、ボンゴレのようなトマト味のパスタなどが美味しそうだ。

 

真っ暗な小屋の中には透明なガラスの電球がぶら下がっていて、大きな木のテーブルを照らしている。風化した板で囲われていて、本当に漁師小屋だ。隙間だらけで外の明るさがわかる。潮の香りが店内に

内に漂っている。隣のテーブルを見ると、巨大なボールにクラムチャウダーがなみなみと入っている。何品かを頼んでみんんで分ければ完食できそうだ。フィッシュフライも山盛りみたいだ。これは、トラッカーステーションのラージサイズに匹敵する大盛り自慢の店のようだ。スパゲティを頼んでみたら魚介類が山盛りで食べ応えがあった。

 

クラッカー付きのクラムチャウダーは最高に美味しかった。アサリのむき身、小エビ、タラの切り身、そして牡蠣がいっぱい入っていて、こんなに具沢山のクラムチャウダーは食べたことがなかった。この味を日本で探したけど見つからない。バケツ一杯で持って来られたムール貝のスープも香辛料が効いていて美味しかった。深いスープ皿にトングでとって、大きなスプーンでスープをすくって注ぎ、貝殻でムール貝の身をすくって、いくつも食べて、スプーンで出汁の効いたスープをすすり、フランスパンに浸して、大満足で食べ切っちゃいました。

 

帰り道は最短距離でホテルへ帰ることにした。地元コーディネーターに、この通りは危険だと言われたスラム街を通ると、ドラム缶に薪をくべて焚き火をして数人がたむろしていた。炎が1mくらいメラメラと昇っている。手元を見ると、25cmくらいのバタフライナイフを、パタパタやっているのがいる。一流ホテルのすぐ裏通りなのに、何でギャングがたむろしているんだよと思ったが、ここ来ちゃった以上、ここで引き返すのも相手を刺激することになるかなと思って、みんな、「ホテルのロビーまで200mくらいだから走れ」と声をかけた。

 

すると、みんなこの路地のヤバイ雰囲気を感じ取っていたのだろう、一斉にトライアスリート達は駆け出したのだ。流石にプロの逃げ足は速い。一人取り残されたが、みんなの異様に速い走りに驚いたのか、ギャングのお兄ちゃんたちの視線は痛いほど背中へ感じたものの、声をかけて来なかった。海外では、道一本変わるとギャングのテリトリー。こう言うことがあるんだね。ではでは。