クマさんのバイク専科

評価が高いアソスのバイクパンツ!

お尻の痛さはいつの時代もスポーツバイクの課題だ。サドルの形状や素材、前後位置や取り付け角度、バイクパンツ、踏む力や体脂肪の厚さ、走るフォーム、走る距離など、お尻の痛みを解消するために取り組むべき要素だ。僕がサイクリングを始めた頃は、バイクパンツすら一般的ではなくて、イギリスのサイクリングショーツスタイルが一般的だった。昭和30年代のサイクリングブームは、後輪にスターメーアーチャーなどのハブギヤを組み込んだイギリスの、クラブマンというスタイルで、27インチの4分の1(約30mmタイヤ)のホイールで、泥除け付きが流行して最先端だった。

 

通産省が肝いりで自転車産業の振興のために完成車やパーツを輸入した。その中にルネ・エルスなどのスールメジュールの手作り自転車が混ざっていたのだ。それが、日本のフランスタイプの自転車ブームの始まりだ。東叡車のランドナーはそのコピーを今でも製造している。小旅行車のランドナーが全盛期になりつつあった。そして、自転車メーカーのフラッグシップモデルはキャンピング車だった。

 

ロードレーサーは、メーカーのカタログの片隅に、ほんの一握りだった。細いチューブラータイヤをリムセメントという接着剤で貼り付けて使うらしい。パンクすると、タイヤを切り裂いて、チューブを引き出してパッチを貼って、縫い戻して修理するらしいとは聞いていた。フランス車の中にも、シクロスポルティーフ、クルスルートというモデルがあったが、当時の日本の道路事情の悪さにタイヤがマッチしないと、注目されなかったのだ。日本で本格的なロードレーサーの認識の始まりは、1964年の東京オリンピックへ、チネリやレニャーノやビアンキが持ち込まれてからの話しだ。

 

当時のロードレーサーのサドルは革サドルだった。スポーツ車に乗ってお尻が痛いのは、サドルを慣らしていないか、修行が足りないからだ、走り込んで慣れてしまえば痛くなくなると、本当に先輩ライダーや自転車屋さんから言われていた。サドルを交換するって言ったって石ころみたいな新品革サドルと変えたって痛いだけだ。プラスチックサドルの時代になって、最初から快適なサドルもあるから、変えるだけで解決できることもあるが。とにかく、痛みやしびれの原因や場所を解明して、形状や素材をライダーに合わせてサドルを選ばないとだめだ。慎重に選んでもダメな場合がある。

 

革サドルって魅力的だけど、僕自身で慣らしに成功したことはなくて、フランスの専門工房で加工してもらっていた。慣らすまでに時間がかかるし、お尻の痛さに耐えられなかったのだ。イングランドのブルックスかフランスのイデアルもチャレンジしたけどどっちも慣らしには失敗した。サドルの断面形状はイデアルが丸っこくて、坐骨の当たる部分がすぐに痛くなるし、ブルックスはフラットな部分があって、僕にはブルックスの方がマッチしているなと感じはしていたが、1年ぐらい頑張ったが坐骨の当たる部分の痛みは解消できなかったので、フランスの工房に出して、レーシングサドルへ加工してもらった。

 

僕は革サドルの時代の世代だったから、フランスで有名だったサドルのチューニング工房を数軒訪問した。上野の横尾双輪館の横尾明さんたちが編集した、1964年の東京オリンピックの写真集を見ると特殊な形状に工房で加工した革サドルだらけだった。これはブルックスのプロフェショナルか、イデアルの90がベースで、スチール製のワイヤーベースを低くカットしたり、革を止めているフレームも絞られていた。現在のプラスチックベースサドルのように裾の部分がカットされて、高さが低く抑えられていた。

 

横尾さんの話では、オリンピックに参加していた選手が、日本人にバイクを売って帰る選手がいたが、サドルだけは取り外して持って帰ったというのだ。サドルはチューンナップ工房に出されて、レーシングサドルに改造されて、走り込んで馴染んでいるので、快適に仕上がったサドルは貴重品というわけだ。1枚革のサドルを慣らすには、裏側からサドル用のオイルを塗って、革を柔らかくして、普通に乗っていたら、だいたい1年くらいかかるので、その間のお尻の痛さに耐えなくてはいけない。そこで、フランスにはその期間を短縮する慣らし屋さんのような加工工房があったのだ。

 

銅鋲を取り外し、革を一旦フレームから外して、オイルで煮たり、漬け込んだり、その工房の独自のノウハウで、革を柔らかく慣らして、張り替える加工屋さんなのだ。革サドルは使い込むと上がたるんで来るので、先端にあるナットを回して、張り直して使うのだ。使い込んだサドルで革が伸びきっている物を切って加工する場合もある。フランスのイデアルサドルは、ル・シクルというイラスト画で有名な自転車雑誌のイラストレーターで編集長だったダニエル・ルブールという人の提案で、慣らし済みのオイルドされた90シリーズを発売した。

 

オイルドされたイデアル90だったが、期待したほどのしなやかさはなく。オイルで汚れるし、独特の匂いがするので半年ぐらいで止めてしまった。馴染むと革サドルは最高だという人もいるが、僕はそんなに我慢強くはなかったので、イタリアのユニカのプラスチックベースサドルに切り替えた。ところが、バックスキンにパッド入りのサドルが快適だったかと言えば、そうでもなくて、中央の絞りもうまく行ってなくて、坐骨の部分の圧迫は少しはマシになったが、太ももの内側が擦れて痛くなった。革サドルの慣らし段階より痛くないので使っていました。お尻が痛くなるのはその後も課題になり、ユニカのサドルから40モデルから50モデル交換することになります。

 

スイス・デサントのヘス研究所は、もともとはダウンヒルスキーのウエアを開発していた。ナイロン繊維にスパンデックス素材を巻きつけた、伸縮性の優れたライクラー素材と立体裁断で脚の動きを邪魔しないバイクパンツを開発する。その頃のシャーミーといえばディアスキンだった。バイクパンツは、もともとは汚れが目立たないように黒く染められたウール100%で、シャーミー(パッド)はディア(鹿革)スキンだった。選手は年に2万kmから4万km走るので、お尻の痛さはプロ選手にとっても悩みの種だったのだ。デサントのライクラー素材のバイクパンツで、動きは改善されたが、シャーミーの改善には時間がかかった。

 

アソスのバイクパンツの初期のモデルは、ディアスキンの下にうっすらとしたパッドが縫い込まれていました。長距離を走るときは選択したバイクパンツのディアスキンに、ワセリンを塗ってしなやかさを回復させて。摩擦を減らしていました。その程度で快適なわけがありません。アソスはシャーミーをどんどん進化させて、圧力を分散させるパッドの2層構造、肌に触れる生地に摩擦の小さいものを採用すると同時に、シャーミークリームという柔軟性や摩擦を減らす専用クリームも用意されている。現在はS9というフローティングタイプの、3Dシャーミーを採用したモデルにバージョンアップしている。

 

シャーミー全体をライクラー素材のバイクパンツと一体にするように縫い付けるのではなく、数カ所だけが縫い付けられて、シャーミーがより体にフィットする構造になっている。スタンダードな厚さのモデルの他に、ロングライド向きのコンフォートモデルも用意されている。お尻の痛さの解消に、バイクパンツのシャーミーの性能は大きく影響する。アソスのバイクパンツは確かに高価だけど、快適さで定評があるのはそれなりの実績があるからだ。ここ数年のアソスのバイクパンツやタイツやニッカーは進化している。お尻が痛いと感じて、長距離ライドが不安というライダーには是非試して欲しい。

 

ライダー自身の筋肉量や体脂肪の量にもお尻の痛さやしびれに関係している。踏む力があるライダーはお尻にかかる力を分散できるけど、軽いギヤ比で回して走るライダーはお尻にかかる圧力がまして、痛みやしびれを発生しやすいのでコンフォート系のバイクパンツが向いている。お尻の痛みは走るのが嫌になるので、サドルの幅、溝付き、穴あき、ジェルなどの構造の違うものへの交換だけでなく、バイクパンツ選び、サドルの前後位置や取り付け角度のセッティング、シャーミークリームの採用など、ショップのスタッフに相談してお尻の痛みを解消しましょう。ではでは。