クマさんのバイク専科

時速30kmのLSDは難しい!

ゆっくり走って速くなる。トレーニングしていなかった人にとっては正しくもあり、でもそれだけでは、レースで競いたい人にとっては、強く速くはなれないと言っておこう。LSDとはロングスローディスタンスのこと。最大心拍数の70%から75%mくらいの低い運動強度を保って走ることです。低い運動強度を保って走ることから、定常運動と呼ばれています。ホビーレーサーなら、時速25kmから30kmくらいで、話をしながら2時間以上、できれば4時間走るLSDトレーニングが必要です。

 

毛細血管を伸ばし全身への血液の供給効率を高め、酸素の供給と老廃物の排出効率を改善できる。心臓の1拍の血液を送り出す量を多くして、心拍数が低下します。酸素の供給効率を向上させて、ミトコンドリアの酸素を吸収する能力を高め、究極まで開発するとミトコンドリアが増えます。LSDの刺激で腎臓からエリスロポエチンを出して、赤血球を骨髄で増産して、心肺機能を開発するトレーニングで、週に2回から4回で、3ヶ月ほどで効果が出る、ゆっくり長く走るトレーニングです。さらに、筋肉や関節の故障の防止の効果もあります。

 

プロロード選手は年に1万5000kmから、2万kmくらい走り込んで、呼吸がゼイゼイハアハアしないで、4時間から8時間走っています。年間のトレーニングの7割がLSDトレーニングです。トッププロは時速35kmあたりがLSDレベルです。早く走ればいいというのではなく、自分の体力レベルにあった速度で走ることが重要です。ホビレーサーならまずは時速25kmくらいからでしょうね。LSDをすると、骨髄で赤血球を増やすエリスロポエチンが腎臓から放出されて、酸素を運ぶ量を増やせます。標高1700mから2000mくらいの空気の薄い場所で、中低層や高地トレーニングをすると、1週間から2週間でエリスロポエチンが赤血球を増やして、有酸素運動能力を高めます。

 

体が作り出すエリスロポエチン(エポ)は骨髄に働きかけて、赤血球を増産します。ドーピングで使われているエリスロポエチンは、貧血の治療薬で、数週間の有酸素運動と、禁止薬物ではない赤血球の素材のフェジンの投与の組み合わせで、赤血球を増やし心肺機能を向上させて有酸素運動能力を高めます。陸上競技では調子が落ちてくると注射打ってこいということが行われていました。貧血予防という名目で、実は赤血球増加の効果を狙って、特に女子の中長距離選手のフェジンの通常の数倍という大量投与が日本では常態化していました。フェジンは吸収されやすい鉄分で、肝臓に蓄積されて、赤血球の素材になりますが、それが原因で肝臓障害を起こしているという報告があって、陸連から大量投与が禁止されました。

 

エポの投与は、血液中の赤血球量が増えるので、異常値を示すこともあるので、ドロドロの血になって血栓を起こしやすくなる副作用があるので、血液チェックで異常値が出ると、出場禁止になります。チームドクターが管理しているので、基準値をオーバーすると、点滴で薄めたりすることもあります。エリスロポエチンは高額な、厳密な検査をすると、自然なものと、薬品のエポとのゲノムでの区別が付くので、レース後の検査でドーピングが発覚することがあります。ドーピング発覚のリスクを負ってもやるほどの効果があるということでしょう。

 

厳密にLSDレベルを探すには、最大酸素摂取量を測定して、最大心拍数の70%の運動強度か、ATポイントの心拍数を参考に設定します。運動中の最大心拍数の70%も参考になるし、25kmから30kmまで1kmずつスピードを上げていき、呼吸がゼイゼイハアハアしない、おしゃべりできる速度がLSDレベルです。僕は現役時代に、ゆっくり長く走れと散々言われました。運動生理学の先生にもトレーニングの解析を行ってもらい、その時もLSDをやりなさいと言われました。年間のトレーニングのバランスを見て、心肺機能の開発が足りていない。スプリントが多すぎると指摘されていました。

 

花園でお正月に戦うことが最低限の目標という高校で、ラグビーをやっている時を振り返ってみると、さすがに日体大で勉強してきた体育教官でした。よ〜く走らされました。高島平の巨大団地をぐるぐる走って、毎日20kmゼイゼイハアハアしない速度でゆっくり走ってから、グランドでのトレーニングが始まりました。大学ラグビー部だと、大飯食らって、筋肉作りの筋トレメニューに取り組むんでしょうけど。この高校はとにかく心肺機能作りでした。つまり、春先は、新人戦まで、1年生は楕円球のパスだけで、ラグビーを教えてもらえず、走る力をつけることから始めていました。

 

とにかく退屈でワンパターンのトレーニングに耐えた半年でした。筋トレもさせてもらえず。ラグビーフットボール協会のルールブックを渡されて覚えておけと手渡されました。オンサイドとオフサイドの判断が難しいと思いました。ただひた走る3ヶ月くらいで、20kmを楽に走れるようになってきて、速く終わらせようと速く走ったら、なんで言ったペースを守らないんだ、スピードが速すぎると教官に殴られました。だって、ゆっくり走る意味を教えてくれないんだもの。速くこんな退屈なトレーニング終わりたいもんね。

 

先輩たちのラグビーぽいトレーニングが面白そうで、そっちに混じりたかった。身長は173cm、体重は64kg、体脂肪率11%だった。どんどん走れるようになっていることはわかっていた。駅伝部の有名な学校だったから、高島平の外周でトレーニングしている陸上部に付いていけるようになっていた。これがゆっくり走っている効果なのだ。全校参加の多摩湖の16kmのランニング大会があった。当然、全国からスカウトされてきた陸上部の特待生の駅伝部のやつが優勝候補だ。ラグビー部の誰でもいいのだが、優勝するとトレーニングが1日休みになるという特典があるのだ。

 

走り出してみると、駅伝部の5人と先頭グループを走っていた。途中で抜いて行った日頃の練習でいじめてくる先輩たちが、頑張れと励ましてくれる。みんな休みたいんだな〜。5人の駅伝部は3人くらいが息が苦しそうだった。舗装路から未舗装路になって、アップダウンが始まった。一番若手の教官が走っていた。このやろうなんでこんな前を走っているんだ、いつもビリ走ってやがるくせにと言われた。長距離走の測定が毎月あって、こんなんで速く走っても、なんももらえないし苦しいだけなので、いつもビリを走っていたのだ。てめー休み狙っているのかと叫んでいる。

 

駅伝部のやつらが大笑いしている。きっと自信あるんだろうな。でも、強そうなのは2人で、他の3人には勝てそうだった。なにせ長距離を真面目に走ったことが1度もないので、自分がどのくらい走れるのかわからなかった。とにかく全然苦しくないので、土手の直線路に出たらダッシュしてやろうと決めた。ボールを持って走って12秒4。グランドをスパイクで走れば11秒8だから、スプリントになれば勝てるかもと考えたのだ。アップダウンでスピードを上げ下げして揺さぶって、5人の調子を見ると、やはり二人が付いてくる。やっぱりダメかな〜、明日も練習かと思えてきた。

 

だけど、ここで勝っておけば、明日から先輩たちに自慢できるなと、思い直して、絶対に勝ってやろうと考え直した。いよいよ、1kmの土手に出た。スピードがどんどん上がってきた。でも、こんなのランパス100本で慣れている。ちっとも苦しくない。2人がダッシュして抜け出そうとしている。あと200mでフィニッシュだ。ラグビー部の監督が立っていて、勝たんかい〜、というので、そこから全力でダッシュした。駅伝部のコーチが負けるんじゃないと2人に檄を飛ばしている。見ている方向がちょっと後ろなので、しめた勝った、明日はお休みいただきだと思った。何年振りかのラグビー部の勝利だった。

 

退屈なLSDトレーニングと、100mのランパス100本の耐乳酸トレーニングのミックスが効いていたのだ。後からフィニッシュした先輩たちからよくやったと褒められて、若手の教官からは、日頃長距離走をサボっていやがって、とんでもねえ野郎だと、げんこつを食らった。確かに、100本のランパスはきつかった。スタートでストップウオッチが押され、ゴールラインにボールを持った選手が切るまでのタイムが、13秒を超えてしまうと、僕のグループは1本と数えてもらえないのだ。しかも、14秒を越えると、日体大式のアゲインがあるので、サボれないのだ。アゲインは今までの走った本数が0になるのだ。

 

筋トレも加わる3年生になると、身長173cm、体重86kg、体脂肪率8%になっていた。毎日往復40kmのロードレーサー通学をしていた。自転車の場合も有酸素運動能力を高めるLSDトレーニングが重要だが、取り組む時間が4時間とか8時間というのがあって、刺激がないのでよほど目的意識が高く無いと、運動強度を低く保って継続するのが難しい。社会人になってピストレースに再チャレンジして。全力ダッシュは、ライバルを見つけて、毎日新木場の直線路で、0〜400mのインターバルを20本やっていたが、走り終わるとしばらく身動きできなくなって、全力出し切った感があって、達成感があって続けられた。おかげで、1000mは加速が良くなって、速くなったが、長いのや上りはどんどん苦手になった。ではでは。