クマさんのバイク専科

全体踏みペダリングで走れていますか?

効率のいいペダリングや、毎分当たりのクランクの回転数のケイデンスについて、何も教えられずにスポーツバイクに乗って、気持ちよく楽に走ろうとすると、ケイデンスは毎分60回転から70回転の、ゆっくりしたペダリングになりがちです。そうすると、クランクの踏み味は少しだけ重いのですが、時速20kmから25kmのスピードをキープできて、バイクが気持ち良く進んでいると感じられます。脚の筋肉の収縮の動きもゆっくりなので、無理がなく、呼吸数も心拍数も楽な感じで走れ、その運動強度なら楽に長く継続できると思いがちです。その時、楽に感じる走りと、疲労を蓄積しにくい走りには違いがあります。そこがビギナーにも走り込んでいる人にも分かりにくいのです。

 

ケイデンスが低くても気持ちのいいスピードを維持できる走りは、少し脚の筋力を使ってクランクを踏み込んでいる感じはあります。でも、有酸素運動による酸素の消費のため、運動強度が上がると、体のシステムが自動的に呼吸数を増やして対応するのですが、この程度の運動強度では心拍数の上昇も抑えられて走れています。この、脚の筋力を頼りにしたゆっくりのペダリングは、呼吸がぜいぜいハアハアするような呼吸数の上昇や深い呼吸、心拍数が160拍を越えるような上昇による苦しさがありません。

 

感覚的には時速25kmくらいまでの速度でいつまでも走れるという気持ちのいい走りになるので、これでいいんだと思い込んで走っているライダーは、けっこういると思います。ペダリングテクニックのいらない、教えられなくても誰でもできる、前ももの筋肉を主体のペダリングになっています。前ももは脚の筋肉も大きく、パワーがあって、しかも素早く動かせて耐久力もある筋肉群です。だから、前ももの筋肉を頼りにしたペダリングはけっこう長く続けることができるのです。

 

しかし、この楽に走れていると感じる前ももの筋力を頼りのペダリングは、もちろん有酸素運動もしていますが、少し重い踏み味になっているだけに無酸素運動も動員しています。そうなると少しずつ筋肉の動きを抑制する性質がある乳酸を発生させてしまい、ライダーが持っている乳酸を除去する能力を上回って、筋肉内や血液内の乳酸の濃度を少しずつ高めて行き、筋肉の収縮を妨げるようになります。

 

ライダーによって乳酸に耐えて筋肉をスムーズに動かせる濃度が違うのですが、乳酸の濃度が高まると筋肉の動きを重く感じたり、無理に筋肉を動かすと痛く感じたり、力が入らなくなったりします。先天的な要素や耐乳酸トレーニングに取り組んでいるかで、耐乳酸性や乳酸除去能力が違い、人によって耐えて筋肉を動かせる濃度が違うのです。前ももの筋肉が主体のペダリングでは、継続できるのは2時間以内なので、突然、それまでの少し重い踏み味のクランクを踏めなくなります。

 

そうなると、力を抜いてペダリングしてスピードを落として、心拍数を低下させないように20分か30分走ると、血液の流れがキープされて、筋肉の中や血液中の乳酸が肝臓へ運び込まれて、筋肉の収縮を抑制する乳酸濃度が低下して、脚の筋肉の動きが復活して踏めるようになります。ゆっくり走ったので、脚の筋肉が回復したから、また踏めるようになったとライダーは感じるわけです。

 

でも、回復して元気に走れるようになって、再び少し重い踏み味のケイデンスの低いペダリングで走れば、同じように乳酸が蓄積して、また2時間以内にパワーダウンしてという、同じことを繰り返すことになります。心当たりのあるライダーもいると思います。もしかしたら、復活しても、すでに乳酸濃度が上がっていて、次は、もっと短い時間でパワーダウンする可能性もあります。

 

では、どうすればパワーダウンしないで、スピードをキープして走れるようになるのか。2つの解消方法があります。1つ目のメソッドは太ももの前側と後ろ側の筋肉群を主にペダリングに使う、「全体踏みペダリング」を身に付けることです。太ももの前側(大腿四頭筋)のスピードと耐久力のある大きな筋肉群と、太ももの後ろ側(ハムストリング)の持久力のある大きな筋肉群を使って、脚の広い範囲の筋肉群を使ってペダリングするテクニックです。

 

大きなパワーを発揮できる筋肉群ですから、パワーに余裕があるので、軽く踏み込むペダリングをしても、乳酸が発生しにくくなるメリットもあります。さらに、乳酸が発生しても、広い範囲の筋肉群に分散できて、筋肉の収縮を妨げるほどの濃度になりにくくなります。全体踏みペダリングを体験して意識するには、骨盤の角度を意識することが重要です。固定式のローラー台にバイクをセットして、筋肉を使う場所の違いを分かりやすいように、かなり重い負荷に設定して、ドロップバーの上の直線部分を握ってペダリングします。

 

背中を円めてブリッジ状に曲げてペダリングすると、骨盤は後ろに傾斜して、前ももの筋肉を主体のペダリングになって、重目の負荷の脚の踏み味を重く感じるようになります。逆に背中を軽く反らせるようにしてペダリングすると、骨盤が前に傾斜して、ふとももの後ろ側や臀筋などの広い筋肉群も使えるようになって、脚を軽く踏み込めるようになります。

 

全体踏みペダリングも、前もも踏みペダリングの2つのペダリングを、平地、上り、下り、向かい風や追い風などのフィールドに合わせて切り替えながら走って、疲れを分散させて走れば、常用速度をキープして走り続けることができます。2つ目のメソッドは、呼吸数が上昇したり心拍数が上昇して、体感的には少し苦しくても、実は筋肉に疲労を蓄積しにくく、回復も早い、効率のいいケイデンスを身に付けることですが、それは次回紹介しましょう。ではでは。