クマさんのバイク専科

ブルックスの革サドルを慣らしてみましたが!

長く乗るライダーやビンテージパーツ好きのライダーに革サドルのファンがけっこういるんです。じっくり型に入れて裾を絞った昔の革サドルのファンのひとりですけど、今は仕事部屋のオブジェとしてお気に入りというスタンスでのお付き合いです。サイクリングを始めた頃は革サドルしかなかったですから、もちろん革サドルユーザーだった分けです。ブルックスのプロフェショナルも、イデアルの90も慣らして使いました。

 

使い込んだ革サドルの脱色気味の色やツヤ、40年前の古い革サドルのテールに小さな銅鋲で固定されている真鍮製のブルックスのプレートなど、まるで使い込まれた鞍を見ているようで、それだけで味があって楽しいです。もちろん革サドルを慣らして乗って楽しんでいるファンもいます。最初は石ころのように硬かった一枚革が、じわりじわりと自分のお尻の形に馴染むと最高の乗り心地で手放せなくなる、という話をよくされます。

 

最近の革サドルには硬い1枚革のタイプと、革が柔らかいハンモックタイプの2タイプがあります。ブルックスやイデアルの1枚革の硬いサドルを、レザーオイルを染み込ませて馴染ませる物と、しなやかな革の弾力性を使ってハンモックのように張ってあるタイプです。ボクの中では、ハンモックタイプのサドルは革サドルとは言いがたいけど、けっこう人気があるらしいので、乗り心地を試してみることにしました。

 

革サドルを手に入れてそのまま慣らして使っていましたけど、ロードレースの世界では加工したサドルを使っていました。フランスやイタリアには革サドルを加工する工房がありました。使い込んで馴染みの出たサドルの革が伸びて、たるんでくると、先端のネジを回して革のテンションを上げて戻します。革が伸びきったところで、張り替えに出します。低いレールと狭く絞ったフレームに、大銅鋲で革を張り替えてレーシングサドルを作るのです。

 

新品のサドルの場合は、ストック状態のサドルの革をオイルドして慣らすところから始まって、銅鋲を抜き取って、レールやフレームから革を外して、低くカットしたワイヤーレールに、後ろの馬蹄形のフレームも狭く絞った物に、大銅鋲で革を張りもどします。形状としてはユニカのプラスチックサドルのような形状になります。時間はかかりますが、馴染んだサドルは手放せなくなるそうです。

 

サドルの快適性は、ついこの間までは、かなり切実な問題でしたから(過去形!嬉しい)。カッコや重さはどうあろうと快適ならそれでいいと、新旧のブルックスのプロフェショナル、チームプロのチタンレール。イデアルの90やレーシングサドルを再現した134。ハンモックタイプも、革サドルを真剣に試してみたわけです。そう言えば、ブルックスの大銅鋲で止められていたチームプロにも、イデアルの90にも、メーカーの製造段階でオイルドされた物もありました。イデアルのサドルは、ルシクルという自転車雑誌のイラストレーターのダニエル・ルブールのアイデアでオイルドされたモデルに、彼のサインがエンボス加工されていました。

 

まずハンモックタイプ、この乗り味を快適と言うにはちょっと抵抗があります。確かにショック吸収性はいいです。座骨に当たる場所がないと言えばそうですが、長く乗ると、お尻にサドルの革が触れている全体が圧迫されている感じは、快適ではありません。ペダリングは右・左と、脚が踏み込んで動くわけですが、サドルが左右に揺れて、腰の位置がぴたっと決まって脚を押し出せる感じがスポイルされます。プラスチックサドルの剛性感に慣れているせいか、不安定な感じに馴染めませんでした。

 

ブルックスの1枚革サドルは、40年前のプロフェショナルと、最近手に入れたプロフェショナルでは、革の質がまるで違っているし、型での成型具合も違いました。古いものは裾がきっちり絞り込まれてレールに沿っています。新しいモノは最初から開き気味です。似てはいますが別物です。革サドルの張り替えや慣らしをやっていた工房で教わったやり方で、オイルドしてサドルを慣らしてみました。

 

革の裏側からオイルを塗って、ドライヤーで温めて溶かして染み込ませて、樫の木で作られているオイルの染みたツルツルの棒で、お尻が乗る部分を表側からこすって、革をしならせて柔らかく慣らしました。そこからは、バイクに取り付けて、ライダーのお尻で馴染みを出して行くことになります。1週間に2回乗って、1週、2週、3週目と、しなやかにしているのに革が硬いなーと感じ、座骨や股関節の内側の出っ張りの部分などが、床ずれ的に痛くなるのを我慢して乗っていました。

 

4週間でやっとサドルの革の硬さに慣れてきたのか、サドルの革が柔らかくなったのか、走行距離100kmまでは我慢して乗れるようになってきましたが、プラスチックベースのサドルと比較して、快適かと言えばとてもそうは思えません。すでに、この段階で新しいプロフェッショナルは裾が開いてきています。腰を下ろす面は中央が下がり始めています。座骨や股関節の内側が触れる部分は柔軟で沈み込むのを感じます。それでも、馴染んで来るという感じではありません。

 

これ以上オイルを染み込ませて革をしなやかにすると、サドルの中央がもっと沈み込んで、いわゆるへたった状態になってしまいそうです。オイルを擦り込むのを止めて、しばらく乗って2ヶ月3ヶ月を経過しても、気に入っているプラスチックサドルを上回る乗り心地には、遠い感じで止めました。昔のブルックスの革はもっと硬くて、なかなかしなやかになってくれません。慣れていい感じになるまで我慢しようと思いましたが、3ヶ月を過ぎてもう馴染むのを待てません。ボクにはブルックスもイデアルも、革サドルは合わないみたいです。

 

やっぱり革サドルは慣らしたりするのに手間や時間はかかるけど、使い込むほどにお尻に馴染んで快適で凄いや、少し重量があって、レザーオイルの追加や雨の後のケアが面倒でも、快適走りを実現できる選択肢の1つだよね、的な結論を期待していたので残念です。オイルドされてしっとりと黒光りしている、新旧のプロフェッショナル、チームプロ、イデアルの90のサドルを試し、合計で試乗は12ヶ月経過して、快適ではないので取り外し、仕事部屋の本棚のオブジェになっています。革サドルファンのみなさんご面なさい。ではでは。