クマさんのバイク専科

ヒルクライムのマシンを考える!

ヒルクライムレースでは、ライダーのパワーをロスしないフレームやフォークやホイールの剛性バランスも大切ですけど、決戦バイクはフレームやフォークやホイールの剛性が十分にライダーのパワーにマッチしていれば、軽いにこしたことはありません。上位入賞者は5kg台から6kg台のバイクで戦っています。UCI 統括のレースイベントではないから、ヒルクライムバイクの軽量化は、どこまでも追求できるという分けです。軽くできるとこはとことん軽くしていますね。

 

セミモノコックのカーボンフレームは1000gを切り、600g台のヒルクライムモデルがベースになっています。フロントフォークはカーボンコラムとブレードで300g以下というモデルもあります。でも、流行のエアロロードは、空気を切り裂いたり、受け流すイメージの翼断面形状や、シートチューブの途中に接合するエアロ形状のシートステーのデザインが多く、この構造の接合部の強度の補強や剛性の確保のために、1000gに近い重量増になってしまうので、ヒルクライム向きの軽量なカーボンフレームは、ラウンドチューブやオーバルチューブで構成された600gクラスの軽量なフレームに人気があります。

 

600gクラスのラウンドチューブで構成されたカーボンフレームは、カットサンプルを見れば分かりますが、フレームチューブのカーボン繊維のプリプレグ(カーボン繊維で織られ樹脂を含ませた布地)の積層数が少なく、肉厚は薄く熱硬化型のエポキシ系の樹脂も最小限の量で成型されていて、カーボンフレームとして走るのに強度とか剛性バランス的には問題はありませんが、転倒した時のハンドルバーのトップチューブへのヒットなど、スポット的な力に対しての破壊強度はやや低く、バイクの取り扱いはデリケートです。

 

下側だけ大口径の設計で剛性を強化されたカーボンコラムに、大口径のカーボンブレードの300g前後の軽量なフロントフォークが採用されていますが、高弾性のハイグレードのカーボン繊維を採用しても、さすがにこのカーボンフロントフォークの重さでは、前後方向も横方向にもしなやかで、ショック吸収性はあっても、高トルクで踏み込んだ時、バイクが前へ進む反応性は鈍くなります。スプリントやヒルクライムでも剛性の高い、オールランドな性能を求めるなら300gオーバー、450gクラスのカーボンフロントフォークが目安になります。

 

フレームの剛性という面でも、セミモノコック工法のカーボンロードフレームのような、大口径のチューブは採用されていないので、大口径チューブやボリュームのあるヘッド周りや、大口径のフォークコラムや太いフォークブレードの400g前後のフォークを組み合わせたロードフレームに比べると、軽量なヒルクライム向きと言われるカーボンフレームは、登坂抵抗に打ち勝つって前へ進むには、高トルクでクランクを踏み込んでパワーを加えた時の、バイクの反応性はダイレクト感にかける傾向があります。

 

ほとんどの上位入賞者は、軽量化のためにバーテープやブラケットカバーを省略したり、ギヤクランクやブレーキキャリパー、クイックシャフト、ホイールに軽量パーツを採用しています。意外にも電動変速機のユーザーは少なく、軽いスラムのコンポや300gクラスの軽量なカーボンギヤクランクが目立ちました。それでも、フロント変速のスムーズさで定評がある、シマノの9000系4アームクランクを採用している選手もいて、パイオニアのパワー測定システムを取り付けてトレーニングに取り組み、客観的な数値で出力を管理して、効率のいいペースを守って走る選手もいました。

 

どのヒルクライムレースでも、レースの距離は20kmから25km前後で、時間にして1時間から1時間半前後でフィニッシュする。ほとんどが上り坂の区間だから、スタートから登坂抵抗に逆らって駆け上がる分けだから、ライダーのパワーを効率良く伝えるバイクやホイールが求められます。上位入賞する男性ライダーの1時間に発揮している平均的なワット数は、ヒルクライムに特化しているライダーなので、体重が軽いせいもあって、350ワットから450ワットで、長距離のスタミナはともかく、短時間のパワーはプロロード選手並の選手もいます。

 

フレームやフロントフォークの剛性に関して、上位入賞者はプロロード選手が使うような、セミモノコック工法の大口径チューブデザインを採用した剛性の高いカーボンフレームより、ペダリングの踏み込みに対して適度なしなりがあって、踏み込んだ脚への反力がダメージなりにくい、剛性バランスの軽量フレームを好んでいるようです。

 

ホイールは軽量な手組みのモデルも採用されています。決戦タイヤはクリンチャーもチューブラーも、23mm(実寸は21、5mm)の太さで、200g前後の軽量なタイヤで、いずれの場合も軽量でしなやかなラテックスチューブの組み合わせで、転がり抵抗を小さくしています。タイヤの軽さは登坂抵抗に対抗するのに重要な要素で、一般的なロードの決戦タイヤが250gほどですから、200g前後とすれば、1本で50gの差になります。タイヤ1本で20gの差を経験していますが、はっきり踏み味の軽さとして感じますから、軽量なタイヤはパンクのリスクが高まっても上りの必須アイテムです。

 

タイヤの空気圧の設定も重要です。空気圧を上限近くまで上げてタイヤの変形量を減らし、多少グリップ力やクッション性が低下しても、時速30km以下の低速走行では転がり抵抗を軽減させます。高圧の設定は、脚を踏み込んだ時のタイヤの変形を抑えてパワーロスも低下します。ホイールは、もちろんリム周辺重量が軽いことが踏み味の軽さに影響しますから、軽量なモデルが採用されますが、1000g切るような軽量化されたホイールでも踏み込んだパワーで、ホイールが変形してロスしない剛性が重要です。

 

400ワット以上を発揮するライダーは、勾配のゆるいヒルクライムでは、軽さよりも慣性によりスピードを維持する力や、パワーロスのないホイールの剛性を重視するライダーもいます。これはプロ選手でもコースやライダーのパワーに合わせてホイールのセレクションに迷うところです。山岳コースのヒルクライムセクション重視でホイールを選ぶとすれば、少しリム周辺重量が重いけど、剛性が高くパワーロスのないボーラ50mmを採用して、パワーロスのない剛性と、慣性を生かしてスピードを維持して踏み切る選手もいるし。ロープロフィルのリム周辺重量が軽いハイペロンで、剛性はやや低いですが、踏み出しの軽さを生かした走りをする選手もいます。

 

上り坂の勾配が大きくなると、ライダーに有り余るほどのパワーがあれば慣性を生かした走りもできます。しかし、リム周辺重量の重さは踏み味の重さになってマイナスになりがちです。ライダーのパワーにマッチした、リム周辺重量の軽さと、ホイールの剛性のバランスがより重視されます。

 

ハンガー小物やハブやプーリーのベアリングなどの回転部分や、チェーンのスムーズな動きも、抵抗軽減のために注目されています。ダブルテンションのリヤ変速機は、フリーのスプロケットの歯数が11T・12T・13Tと小さいところでチェーンをドライブしていると、クランクを回した時に、チェーンの駆動効率が低下して抵抗になり回転の重さを感じます。

 

ビッグプーリーの採用で、プーリーにからむチェーンの曲がりのアールを大きくして、チェーンの駆動効率を高めて抵抗を減らすことができます。ビッグプーリーのデメリットは、プーリーの軸から歯先までの距離が遠くなりますから、

プーリーが横へ移動してチェーンをガイドする時に、歯先に振れが発生して、変速レスポンスが低下する傾向があります。

 

ヒルクライムに使うフリーのスプロケットを、トップギヤ側に14T・15T・16Tのように設定すれば、スプロケットの重量は増しますが、チェーンの曲がりのアールを大きくできて、駆動効率を高めることができます。重量か駆動効率を取るかでしょう。ヒルクライマーが何を重視してパーツを選んでいるのか、決戦バイクウオッチは面白いです。ではでは。