クマさんのバイク専科

ホイールを語るのにフィーリングだけでいいのか!

勝負は時の運とも言うけれど、ヒルクライムの成績はモチベーションと才能と努力の積み重ねの成果の賜物と思います。いつかも書きましたがヒルクライムの決戦バイクは5kg台というのが相場らしく、持てば確かに軽くてショッキングです。でも、男性は体脂肪率の低いパワーウエイトレシオの高いライダーが、1時間の間、300ワットから450ワット発揮して、上り坂で時速20kmから、場所によっては30kmをキープしないと、22kmのヒルクライムコースで1時間を切って上位入賞できなくなっています。

 

フレームもフロントフォークもホイールも、そしてコンポーネントパーツも含めて、軽いだけの剛性不足の機材ではダメで、上り坂は登坂抵抗に打ち勝って前へ進むために踏み込むペダリングで高いトルクを発揮するので、脚を伸展させて強く踏み込むたびに、左右方向にフレームやフォークやホイールを変形させて走るので、剛性が不足していると、前へ進むためのパワーをロスしてしまう可能性があります。

 

前後のホイールを測定台に固定して、垂直方向へ荷重をかけて縦方向の変形量の測定。斜め45度にホイールを固定して荷重をかけての測定。ホイールを水平にして左右入れ替えて荷重をかけたときの変形量の測定で、数値を比較すると、おおよそのホイールの剛性を確認することができます。特に左右方向の荷重による測定は重要で、後輪は11段フリーが収まったり、ディスクブレーキのローターが入るので、ハブの左右のフランジの幅や直径の違い、スポーク本数、スポークテンション、スポークフォーメーション、アンシンメトリックリムなどの要素により、ホイールの剛性や左右の剛性バランスに違いがあります。

 

後輪のフリー側は駆動トルクが集中するので、スポーク本数が増やされていたり、ホイールを支えるためにスポークテンションが上げられています。アンシンメトリックリムの採用などで、ホイールの左右の剛性バランスが同じようになるように設計されています。特にカンパニョーロの完組みホイールは初期モデルの上級モデルから廉価モデルまで、そういう設計思想がはっきり性能に表れているので気に入っています。左右の変形量を荷重試験で測定してもいいデータがはっきり出ています。

 

ホイールやフレームが変形する量や、反発して戻ってくるタイミングとかが、脚を踏み込んでも疲れにくく、バイクを前へ進ませる重要なファクターになります。脚を踏み込むたびにライダーのパワーをロスしてしまう機材では、いくら上り坂のみの走行でも、軽くても剛性不足では有利とは言えません。パワーに見合った剛性と軽さのバランスを重視してフレームもフォークもホイールも選ぶ必要があります。ヒルクライムのライダーが注目するのはホイールです。ホイールの軽量化も半端じゃありません。

 

ホイールメーカーは次々にハブ、スポーク、リム,ニップルの素材を選んだり、形状やスポークフォーメーションをオリジナル設計して、軽量化と剛性を追求した製品をリリースしています。そういう軽量ホイールの中には、軽くても横方向や縦方向の剛性不足なものもあります。タイヤやリムなどホイールの外周近くのパーツの軽量化と剛性のバランスがヒルクライムでは重要です。リムの素材はアルミ合金とカーボンが考えられますが、軽さと剛性を追求するならカーボンが圧倒的に有利です。

 

カーボン繊維にはグレードがあって、30トン、40トン、55トン、60トン,80トン、100トンと弾性率の高いカーボン繊維の方が、変形し難い高剛性の製品を作れます。ところが、理解しにくいのですが、カーボン繊維で成型された製品の特性として、高弾性のカーボン繊維は破断特性が低くなり、製品としての破壊強度が低くなる傾向がありました。リムやフレームやフロントフォークの剛性を出すには、高弾性のカーボン繊維を素材に採用したいけど、製品になると剛性を発揮しても、落車や衝突など通常ではない破壊するような力が瞬時に加わると、破断特性が低い傾向があります。

 

カーボンリムが段差などへの乗り上げなどで折れたり割れたり、積層したカーボンプリプレグ(カーボン繊維に樹脂を含浸させた布)の層間剥離が起こリ、構造体として壊れる可能性があります。普通に走るのには軽くて高い剛性を発揮しながら、アクシデントやスポット的なインパクトには弱い傾向があるので、取り扱いはデリケートになります。例えばカーボンフレームに80トンなどの高弾性カーボンが、全面的に採用されないのは、素材原価が高いことと、剛性は出るのに破断特性が低いことがあるからです。

 

最近ではこの破断特性を改善したカーボン繊維が開発されて、剛性と破断特性などの強度の高次元でバランスしたカーボン素材を採用した、ピナレロのドグマに代表されるようなフレームがリリースされています。リムも路面の段差とのインパクトなどの可能性があり、折れや割れに対しての強度も重視されています。高強度を発揮すると注目されているカーボンナノチューブは、カーボン繊維の成型品より高い強度を発揮する可能性があります。製造工程での管理によっては健康被害などの可能性もあるので、ファインなカーボンナノチューブの汎用品への採用はかなり難しい素材です。カーボンナノチューブの量産も可能になっていますが、カーボン繊維と同じくグレードによって性能や価格が大きく違います。

 

カーボンリム素材として高弾性カーボンが採用される可能性があります。高価になるでしょうけど、軽さと強度と剛性がバランスしたリムの製造が可能です。もう1つカーボンリムの強度や剛性に関係するのがリムの断面構造です。リムの剛性は単体重量でだいたい分かります。ボーラの35mmなどの340gから、ボーラの50mmの370gの重さの要素と断面形状などの構造で、だいぶリムの剛性が違います。カーボンディープリムやエアロ形状リムの三角断面のリムは、2等辺三角形の部分の剛性に注目してください。指で押してぺこぺこ変形するリムはホイールの剛性が低く、パワーロスしやすい傾向のホイールになります。

 

リムの成型方法や形状や構造、カーボン繊維をどの方向に使うのか、重ねる枚数はどうするのかでリムの強度が大きく変わります。クリンチャーリムの構造はどう見ても剛性の追求と軽量性のバランスに不利です。チューブラーホイールの方が有利になります。クリンチャータイヤとチューブラータイヤならチューブラーホイールが軽さところがり抵抗とグリップ力で有利です。ヒルクライムというターゲットに絞るなら、180gから220gクラスのラテックスチューブやブチルチューブのチューブラータイヤが使えます。

 

リムやタイヤやチューブの軽さ、リム周辺重量の20gの差は踏み出しの軽さとして体感できる差です。ただし、そこには高トルクのペダリングで踏み込むたびに変形しにくい、パワーロスしないホイールの剛性が必要です。ホイールの剛性は、リムの剛性、スポークの本数、スポークのテンションの高さ、左右の剛性バランス、ハブのフランジの幅で決まります。よく言われるボールベアリングの回転抵抗は、セラミックベアリングでも鋼球のベアリングでも、上級のベアリングが採用されていれば、バイクのホイールの回転数やパワー程度ではベアリングの回転抵抗の差が原因で、数ワット単位での差は発生しません。

 

リム重量、ホイールの剛性,スポークテンションや本数、タイヤの重さや転がり抵抗、チューブの重さや材質によるしなやかさ、空気圧設定など、ホイールトータルでの差で同じワット数でのスピードの差が発生しますが、もしベアリングだけでの回転抵抗の差でワット数単位出の差があると言うのなら、何かの間違いか、バイクライドの実情と違う条件がベースになったところでの比較などの、情報操作が行われているのでしょう。

 

実際にホイールを交換して上り坂でテスト走行して、ワット数を測定しながら走行して、ワット数が同じなのに上りのスピードに差が表れるとしたら、原因はベアリングの回転抵抗の差ではありません。タイヤが路面に接地して円い断面が平らになり、路面から離れ円い断面に戻る時に発生するタイヤの転がり抵抗、チューブの素材や体重や路面状況、傾斜による重量配分の変化に合わせた空気圧設定。200gを切る決戦タイヤの重量差による加速や踏み込みの軽さ。リムの重量と縦横方向の剛性によるホイールとしての剛性によるパワーロスの少なさ。ホイール剛性の左右バランスなどが主な原因です。

 

ホイールを試乗すると、踏み込んだだけ前へ進む感じとか、パワーが逃げないとかフィーリングで語るライダーが多いけど、そういうフィーリングも大切だけど、発揮したパワーでどのくらいスピードを維持できるのか、つまり、タイム短縮へ直結したり、ライダーの疲労の軽減に直結する振動減衰性などの客観的な数値の部分が、フィーリングと同じように重要じゃないのかな。本当のことを、パワー測定クランクやマルチ機能のサイクルコンピュータなど、ホイールの特性を科学的に検証できる方法があります。

 

ああだこうだフィーリングだけで口バトルになりがちだけど、自分で走って実際の走りで役に立つ部分をデジタルデータで検証してみてはどうかな。リム周辺重量が軽く剛性の確保されているホールは、加速が軽くて早く最高到達速度へ到達して、慣性が小さいから早く減速し始める。でも、速度低下しても小さな力でスピードをもどすことができる、など,ホイールの特性を知った上で、走行フィーリングの体験だけが根拠の口バトルも楽しいけどね。しかし、一部のホイールやハブメーカーの公表データを素直に信じられなくなってきたな。ではでは。