職人マツナガ通信

イタリア就職記 (22)

イタリアへついた翌日から仕事を始めたのですが、すぐに製作というわけにはいきませんでした。
ボクが作る、カーボン&クロモリ接着フレームに関する材料や特殊な工具なども、P工房には全くない状態でしたので、これらを調達することが最初の仕事でした。
ボクのフレームの生命線である高弾性のカーボンチューブと工業用接着剤は、イタリアではまず手に入らない事がわかっていましたので、これは日本から持ってきました。

余談ですが、このカーボンファイバー(炭素繊維)は日本人の発明なのです。
そしてその生産の大半は日本製なんです。
今でも、LOOKやTIMEなどのフレームも使われている炭素繊維は日本製だと思います。

ラグ用の特殊径のクロモリチューブ。
これが一番心配していたものでした。
P工房もマスプロメーカーではないから、結構特殊なバイクをつくるっているので、通常径ではないチューブを結構もっていましたがすぐには見つからなかったです。
工房内をあっちこっと探してみて、ないということがわかると、P氏が大したながさではないから、普通の炭素鋼のチューブでいいじゃないか、と言いだした。炭素鋼ならあったのだ。

ボクは溶接後の強度がべらぼうに違うので、ここはどうしてもクロモリにこだわりたい部分でした。
いくら口で説明しても納得してもらえそうになかったので、百聞は一見に如かず、目の前でその違いをみせるしかないなと考えました。
そこで、ぼくはP氏にチョット待っていて、といい、チューブの端材を利用して、クロモリと炭素鋼両方をロー付け(溶接)をして、付け終わったものを、接合部に応力が掛かるように破壊してみました。
こうすると、クロモリの方はロー付けした接合部分から壊れるのですが、炭素鋼の方は、接合部分ではなく、チューブのほうが壊れてしまいました。

このこのこわれた切り口ををP氏にみせて、ね、だからどうしてもクロモリがいるのですよ、と説明したら、さすがのP氏も、おもしろくなさそうな顔をしながら、探すから待っていろといって、コロンブス社へ連絡を取ってくれました。

しかし、急場で思いついたこの実験、こんなに見事に違いが出るとは思いもしませんでした。
日本にいたらこんなことは、素材のデータの数字でわかることですから、あらためて実験してみることはないですよね。